一年未満の人では情報提供、精神的ケアの他に、支援者の紹介、同じ体験者との話し合い、検察庁や裁判所への付添い支援を希望する人が多くみられます。
※自由記述では
・「二年経っても、家事が普通に出来たり出来なかったりするので手伝ってほしい」と書いていることは、日常生活を送るうえでも困難が多いことを示しています。
また事件から三年以上経つと、同じような体験をした人と話し合える場の設定を求める傾向が強くなっています。精神的に多少回復して、現実をみつめることが出来るようになった頃には、安心して繰り返し話をする人も場所もなく、かえって孤立感を深めているのではないかと思われます。
[5]事件後、悲しみや苦しみを話せる人がいたか、いなかったかの質問については(1)いると答えた人は女性で四十一人、男性で十一人の計五十四人で、誰に話したかを聞くと【表6】のように友人二十人、体験者十九人、家族十一人、兄弟姉妹九人、精神科医・カウンセラー五人、亡くなった本人の友人知人・支援センター四人の順になっています。
【6】誰に話したか
男女別では、女性五十人中四十一人が話せたと答えているのに対し、男性では二十人中十一人と少なく、「男は弱音を吐かない」という精神風土の現れではないかと思われます。
関係別では、親、配偶者、子供の順であり、ここでも子供は話せる人がいない傾向があります。
経過別では、一年未満では全員話せる人がいますが、年数の経過と共に話せる人が少なくなっています。
男女別では、女性の場合は、回答数は少ないものの【表6−3】のように、支援センターや精神科医があげられています。
【表6−4】誰に話したか(被害別) 【表6−3】誰に話したか(男女別)
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被害別では、殺人の場合は友人、同じような体験者、兄弟姉妹、精神科医に話しています。
交通被害の場合は、同じような体験をした人、友人、家族、兄弟姉妹、被害者支援センターと答えています。傷害致死の場合は家族、親戚、友人、精神科医、事故の遺族では同じような体験者とだけ話しています。【表6−4】
経過別では、【表6−5】のように、一年以上経ってから同じ体験者と話しができるようになっています。
【表6−5】誰に話したか(経過別)
話して良かったかどうかを聞くと、いずれの場合も「良かった」と答える遺族が多いですが、関係別で子供の場合、三人中一人だけが良かったと答えています。
一方、話せる人がいないと答えた十八人に、どんな人や場所なら話してもよいかを聞くと、体験者が十人、理解し受けとめてくれる人が五人と回答しています。
※自由記述では
・「苦し過ぎて誰にも話せない。」
・「話せたが、やはり他人事、いつまでも同じことを繰り返し嘆いて、もううんざりという感じが伝わってきました。」
・「ただ聞くだけの相手や下手な励まし等はいりません。」
・「家族の中での話は、逆に傷つけ合うこともあります。」
・「友人の言葉に傷つき、人前に出るのが嫌になりました。」
・「年月の経過とともに反比例するかのように、自分の気持ちを言わなくなってきたように思う、同じ体験をした人のみに話しています。」等と書いています。
4まとめ
[1]実際に受けた支援について
被害後、全員が何らかの形で支援を受けたと答え、そのうち、八十%以上が受けた支援に満足していると答えています。
また、事件直後からの支援で多いものは、親戚や友人、家族から日常生活に関する支援を、警察や弁護士、被害者支援センターからは、情報提供や付添い等の専門的な支援を受けています。
[2]事件後、希望する支援について
事件直後には、全般的に多くの種類の支援を必要としています。
被害後一年くらい経過すると支援内容に変化が出てきて、同じ立場の人との話し合いを求める人が増えてきます。
また、精神的な支援や情報提供、経済的支援、家事手伝い等は、長期にわたって必要としています。
[3]事件直後の必要な支援について
事件からの経過年数によって分けてみると、事件から一年以内の人では、情報提供や裁判所への付添い、支援者の紹介等を求める人が多く、一年以上経った人では、逆に警察や病院への付添い、日常生活支援をあげています。これは被害を受けてから一年くらいは、被害者自身もその必要性に気づくことができない状況にあり、支援者側からの積極的なサービスの申し出が必要となってきます。
[4]今後受けたい支援について
同じような体験をした人と話し合える場の設定、精神的ケア、情報提供を多数の人があげています。男女別では、男性の方が女性より精神的ケアや仲間との交流を希望しない人が多い傾向にあります。
被害別では、殺人の遺族に経済的支援を希望する人が多いのは、加害者からの補償が得られないことが多いと推測されるためで、経済的支援についての考慮が必要です。
亡くなった人との関係別でみると、配偶者、子供が経済的支援を求める傾向が多く、また仲間を求める気持ちが強いことは、大人よりも話す場所が少ないこと等が原因ではないかと推測されます。
[5]事件後知りたかったことについて
捜査状況など、刑事司法にかかわることを知りたいという遺族が多く、その他には、四分の一くらいの人が、理不尽な現状を社会に訴えたいために、マスコミを積極的に活用したい、と話しています。
一方では、マスコミによるプライバシー侵害の現状もあり、今後の検討課題だと思います。
以上の結果を踏まえて、これからの被害者対策支援に必要と思われるものを提言いたします。
[1]被害直後の遺族に対しては、支援者側が積極的に介入し、サービスの提供を申し出ること。
[2]家事手伝い等の日常生活の支援や経済的支援については、既存の福祉関係機関と連携を図ってサービスを提供していくこと。
[3]多くの遺族は、同じ被害者との交流を求めていることから、同じような被害者同士の自助グループ設立への支援と、参加しやすい環境作りに取り組んでいく必要があり、また、長期支援として、自助グループ参加への紹介をすること。
[4]被害から一年以内と、一年以上経ってからでは希望する支援内容が、やや異なることから、支援機関での短期支援サービス及び長期支援サービスのプログラムが必要であり、被害者の立場に立った支援内容を作成すること。
以上のように、本調査の結果、多くの被害者遺族が事件後の困難な状況の下で懸命に支援を求めながら、それを十分に得ることができなかった経緯を知ることができます。
今後とも、被害者が記した具体的な意見や要望を踏まえながら、さらに調査結果を分析して、被害者遺族のニーズに応じた、社会による適切な支援を実践するために地域への啓発活動や関連団体との連携を図り、被害者の要望に応えることができるよう、考察を加えていきたいと考えております。
本調査にご協力をいただいた、犯罪被害者遺族の方々、そして東京医科歯科大学の山上皓教授、常磐大学の中島聡美助教授に対し、お礼を申し上げます。