4被害者の安全確保・再被害防止
警察庁は、本年、「再被害防止要綱」の制定と関連通達の発出により、再被害を受けるおそれの大きい被害者等を再被害防止対象者に指定し、再被害防止措置実施警察署と担当官が中心となって再被害防止措置にあたるとともに、措置の上で必要があるとき、行刑施設や地方更生保護委員会等から受刑者の釈放等に関する通報を受け、さらに、再被害防止対象者に限って通報を受けた情報のうち一定範囲の情報を教示することができるものとされた。
行刑施設等からの釈放等に関する通報や被害者への関連情報の教示については、前述した釈放予定情報の通知と類似の、相当性に関する適切な認定が求められるが、ここでは被害者の再被害防止措置の実効性が何より重要となる。再被害防止要綱では、情報収集、対象者との連絡体制の確立・要望把握・防犯指導、警戒措置、関連情報の教示、加害者の動向把握・指導警告などが再被害防止措置の内容として掲げられている。具体的には、身辺警戒、パトロール、緊急通報装置の貸出し、被害者訪問・連絡活動など従来から実施されている措置がより充実・強化されることになろう。
しかし、それだけに、再被害防止措置を行う警察には、今後、多大な負担がかかることが予想される。近年は、暴力団関連事件に加え、ストーカー、ドメステック・バイオレンスなど再被害の危険性が高い犯罪の問題が顕在化し、市民の警察に対する保護の要請も従来に比べ格段に高まっているうえ、再被害防止措置の期間も長期に及ぶ可能性があるからである(指定期間は原則一年)。そこで、現在や将来の状況を見据えた、適切な人員と予算の割り当てが行われなければならない。幾ら緊縮財政と行政改革の時代とはいえ、犯罪被害者の受けた損害を完全に回復することは不可能である以上、そうした被害者を生みだし、放置することが国家にとって多大な損失になることを政府は認識すべきである。
また、警察が被害者など市民の安全を長期間に亘って担い続けることには自ずから限界がある。勿論、再被害の危険性が高いと思料される間は警察による徹底した警戒措置が取られるべきであろうが、その危険性がある程度にまで低下したと判断できれば、地域グループや民間企業との協働体制に移行することも考慮されてよい。被害者支援都民センター理事長の宮澤浩一慶應義塾大学名誉教授が説かれるように、市民の安全確保における警備保障会社の担う役割は今後ますます重要になるものと思われるし、東京を始め、現在六地域に事務所をもつ特定非営利活動法人の日本ガーディアン・エンジェルズのような地域の防犯・安全活動に従事する民間ボランティアグループや地域住民と連携を図ることで、被害者保護の上でも大きな力となるものと思われる(同時に、そうしたボランティアの安全確保も重要となる)。
5被害者支援の国際化と国際協力
近年、海外への渡航者や長期滞在者が増加するに従い、海外で犯罪被害に遭う日本人が増加している。しかしながら、事情も言葉も異なる海外において、邦人被害者が現地の法執行機関や被害者支援団体から支援を受けることは容易でなく、ましてや短期滞在者や日本にいる遺族の場合には極めて困難が予想される。被害発生国の刑事司法制度の概要は勿論、被害者支援制度の内容や被害者支援団体の所在すらわからないということも少なくない。また、現地の日本領事館が、この種の情報をもっていることは殆ど期待できず、日本国内の学界や官公庁においても、被害者支援制度について事情がある程度わかっているのは欧米のごく一部の国に過ぎない。
反対に、近年は、日本を訪れる外国人が増加するに従い、日本で犯罪被害に遭う外国人も増加しつつある。しかしながら、被害者支援の整備が始まったばかりの日本では、まだ、そうした外国人被害者に対して十分な支援を行うだけの体制が整っているとは言えない。外国人被害者であっても日本で支援を受け易いような体制を構築することが最初の課題であるが、さらには、そうした外国人被害者が帰国するにあたり母国において継続的な支援が受けられるよう、日本と当該国都の間で支援の橋渡しをできるようにしておくことが大切である。
そのためには、今後、海外の被害者支援制度に関する情報を広く収集・蓄積し、都道府県警察の被害者支援室、外務省、在外の日本領事館、被害者支援団体で共有するシステムを構築することが緊急の課題となる。しかも、その対象は、欧米諸国だけでなく、アジアなどにも広げる必要がある。国外で日本人が被害を受ける可能性があるのは、何も欧米諸国だけではないからである。また、日本の被害者支援団体が、海外の被害者支援団体と実務レベルでの情報交換や支援協力ができるような関係作りをしておく必要がある。