「犯罪被害者支援シンポジウム」における
東京都知事挨拶
東京都知事の石原でございます。
私の非常に親しい友人に、岡村勲君という弁護士がおります。この中に関係者もおられるかもしれませんが、彼は犯罪被害者の一人であり、その彼が主宰となって、犯罪の被害を受けながら浮かばれない、そのような立場の皆さんを集めて自分たちの窮状を訴えています.つまり自分も被害者でありながら、社会的に非常に不遇な立場に立たされている仲間をもう少し良い状況にもっていこうと努力をしているのです。
私と彼は、実は大学の同級であります。以前、中国に修学旅行中だった土佐の高校生たちが、列車の正面衝突事故に遭って大勢亡くなり、その時に同校の先輩でもあった彼が、担当弁護士として外務省と中国政府の間で悪戦苦闘していたことがありました。私はその時、田中内閣で運輸大臣をしており、折良く竹下氏が北京へ行くというので、この件についてしっかり伝えて頂きたいということをお話しし、少し手助けをしたということがあります。そのようなことから、更に彼とは親しくなりました。ところが、山一証券絡みの事件で彼を殺しに来た暴漢に、彼の奥さんが代わりに刺されて亡くなったのです。彼は、このような凶悪な犯罪の被害を受けて被害者となり、そういった家族がいかに社会的に不遇かということを痛感し、以来、そのような方々の救済のために頑張っているのです。
また先日、都内のある所でシンポジウムがあり、私は友人として、また知事としてメッセージを送りました。その時、彼が慨嘆して「自分の妻がこういう目に遭わなかったら、自分は今頃たぶん加害者の弁護をしていただろう、世の中は皮肉だなあ」というような話をしていました。その後、彼から私たち一橋大学の同窓、トヨタの会長である奥田さんなど、皆で語らって拠金をして犯罪被害者の会を発足させました。その時彼が、世田谷の東名高速道路出口付近で、常習の飲酒運転の男に車を追突され、幼いお子さん二人が亡くなり、ご両親である若いご夫婦も重傷を負い、その奥様は今でも神経症に悩んでおられるという事例について話されました。そのご夫婦は、なぜこのように、社会的に不公正で均衡の取れない処置を、被害者・関係者の方が受けるのだろうと、こもごも訴えておられました。私たちも、そのあまりの悲惨さに息をのむ思いでありました。
人権というのは確かに大切ではあります。しかし、ただこれもやはり一つの観念であり、人間社会を運営していくための一つの基本的な要因でもある人権が、このように観念として肥大しすぎると、非常に大きな歪みをもたらし、かつそれが常識で考えても社会的に不公正としか言いようのない事態を到来させるのではないかと思います。
当然人権は守らなくてはいけませんが、早い話、凶悪な容疑者や犯人にも人権があるのです。しかし、市民に代わって、市民の犠牲をくい止めるべく防ぎに行く、また捕らえに行く警察官にも人権があるわけです。つい最近まで、警察官の所持している拳銃には、一発目には引き金を引いても玉が出ないように詰め物がしてある、という配慮が行われておりました。これは最近改正されたようですが、しかし警察官の人権というのはどういう意味を持つのか、ということを考えざるを得ません。これは、警察官だけではありません。まさにそれが非常にエンラージされた形で、加害者である犯人の人権が過剰に守られ、それと対比して、被害者或いはその親族の人権はほとんどないがしろにされているのが現状だと私は思います。
この件につきまして、本日、支援者の皆様がたくさんお集まりですので、どうか正当な形に均衡を取り戻して是正されますよう、また皆様のご協力を賜りますよう強く期待し、お願い致しまして御挨拶とさせていただきます。
よろしくお願い致します。ありがとうございました。
警視総監挨拶
ただ今、ご紹介をいただきました、警視総監の野田でございます。
本日、ご出席の皆様には、平素から警察業務の各般にわたり、深いご理解とご協力をいただいているところであり、厚く御礼を申し上げます。中でも、犯罪の被害に遭われた方やご遺族の方々へのご支援について、献身的に取り組まれておりますことに、心から敬意を表します。
さて、最近の治安情勢を見ますと、犯罪の凶悪化や国際化、巧妙化、組織化、スピード化あるいはハイテク化等が顕著に現われております。一方、「ピッキングを使用した侵入強・窃盗」や「ひったくり」、「わいせつ」犯罪等、日常生活に不安を与える身近な犯罪も数多く発生しており、犯罪全体の認知件数も、過去最悪となった昨年を上回る厳しい状況にあります。また、米国における大規模同時多発テロ事件が、我が国の治安にも影響を及ぼすことが懸念されます。
警視庁としては、都民の皆様が安全で安心して生活ができますよう、これら犯罪の防圧と検挙に総力を挙げて取り組んでおります。
このような中で、被害者支援についても重要な課題として取り上げ、
○ 犯罪発生直後から被害者の方々に付き添いながら支援を行う「初期支援制度」や、捜査状況等の連絡を行う「被害者連絡制度」
○ 事件処理に必要な診断書費用の公費負担
○ 警察署に、被害者支援を担当する嘱託員の配置
○ 「東京都犯罪被害者支援連絡会」や「警察署犯罪被害者支援ネットワーク」等の関係機関・団体と連携した支援活動の強化
等を推進しております。
また、本年四月に改正された「犯罪被害者等給付金の支給等に関する法律」に基づき、
○ 給付金の支給範囲や支給額の拡大
○ 被害者や遺族に対する「情報の提供」、「助言及び指導」あるいは「警察職員の派遣」等の援助措置
○ 「犯罪被害者等早期援助団体」の指定
など、被害者が社会全体から温かく支えられるよう、その制度の充実に取り組んでおります。
申すまでもなく、被害者の方々の要望は、広範かつ多様な分野に及んでおり、これらに的確に対応するためには、皆様方をはじめ、関係機関・団体による質の高い専門的な支援活動が必要とされております。
私は、被害者支援都民センターが、幾多の困難を克服しながら、被害者支援という崇高な理念を実践に移し、被害者の方々の心の大きな支えとなっていることを確信しており、警視庁としても、できる限りご協力いたしたいと考えております。
終わりに、被害者支援活動の発展に向けて、皆様の益々のご活躍を心から祈念申し上げまして、私の挨拶といたします。