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5. 報告事項
(1)ドイツが行っているAIS受信機の統一性実験の実施状況について、Oltmann氏Bober氏から説明があった。現在6台の受信機がコプレンツの研究所で試験中であり、これまでの結果からは、これらの受信機相互間の情報交換は可能であるが、完全に互換性を持たせるには若干の改良が必要と思われる。これについては2002年の7月までには完成されると考えられる。今後2項目の実験を、2002年の第1四半期に移動局機器、下期に陸上局機器について実施する予定である。
(2)AISについての暫定版IALAガイドライン案が完成した。これを暫定版としたのは、AISが未だ揺籃期にあり、多くの点で今後の開発が期待されるからである。当委員会としては、理事会が必要性を認めていることもあり、今後ともAISの開発に関与していくこととする。ガイドラインにも今後の進展に応じて順次組み込んでいく。
(3)AISのVDL(VHFデータリンク)の容量及びチャンネルの追加の必要性についての意見が交わされたが、これはTWG(技術ワーキング・グループ)の検討項目として取り上げられることとなった。
(4)気象データ及び水路データの伝送のための識別子に関する提出文書については、この分野のデータに必要なものを整理して、2002年3月のIALA会議後に予定されているAIS/VTS合同委員会で、他の議題と共に討議することとなった。
(5)委員会の今後のAISに関する作業についての意見交換が行われた。AISについてのガイドラインは準備段階にあったが、IMOが2002年から義務設備化することとしたことにより、委員会は事務局長の支援によりガイドラインの構想に対する理事会での承認を得ることが出来た。これによって各当局は、それぞれ2002年の開始時期に備えて計画を立てることが出来ることになる。
 最後に、作業を促進するための2001年9月から2002年9月までの技術ワーキング・グループの会合日程案を作成し、事務局長へ提出することになった。
 事務局長はこの案を了承し、理事会に諮ることをお願いしたい。
 また、ガイドラインとして作成された文書のうち今後TWGで検討する必要のある章についての最終修正案が寄託資料として残されることになった。
6. 所見
 AIS技術委員会は、IALAの各技術委員会の中でも極めて特異な存在であった。スウェーデンが4S方式のAISを提案してからIMOでユニバーサルAISとして採択されたのが1997年で、急遽IALAで機能基準を作成してIMOに提出したものが採択され、同じくITUに提出した技術的性能基準も採択された。これにより、IMOは2000年12月にSOLAS条約を改正して2002年7月以降船舶にAISの設置を義務づけることとした。
 しかし、スウェーデン自体が実用化試験の段階にあったため、細目についての仕様が確定してなく、AIS委員会のワーキンググループの作業は大変なもので、規定の原案は修正箇所が続出する事態となった。委員会も従来3日間であった会議日程を第9回委員会から5日間に延長することとし、それでも足らなくて、委員会と委員会の中間に作業委員会を設けることとした。
 このような努力にも拘らず、最終の今回の委員会でも遂に審議未了の部分が残ってしまった。IMOとしては、今回の条約改正に間に合わなければ4年先となるということで急いだと見られるが、いささか異常という感は免れない。一応、2002年9月に委員会の再発足が見込まれているが、それまでにも何回かの暫定ワーキンググループの開催が予定されている。
 ここで認識しておかなければならないのは、これらの基準が船舶搭載用AIS機器のためのものであることである。つまり、IALAは、陸上、特殊な場合として航行衛星も将来は含まれるであろうが、の航行援助施設の基準については検討することが出来るが、船舶に搭載する機器の基準については自ら決める立場にはない。従って今回は特殊な事例と言えるであろうが、しかし、AIS局はVTS等で今後利用することは当然考えられるし、その際、基本機能については船舶搭載の機器と異ならせる訳にはいかない。IALAもそのように認識しているが、このことは十分注意していなければならない。
 今後船舶への搭載が普及していくにつれて、まだまだ問題点が明らかになってくるものと思われる。したがって、その動向を見極めることが重要である。VTSへの利用も当然考えるべきであるが、拙速は避けるべきであろう。
 AISの通報位置については、測位精度をDGPSによる測定か否かを通報することになっている。しかし、2001年5月に米国がSAを廃止したことにより、GPSの測位精度が10倍ほど向上したとされており、世界的にDGPSの存廃が問題となっている。IALAは、無用な混乱を避けるため、いち早くDGPSは存続させるべきであるという声明を出しているが、この動向は慎重に見守っていく必要がある。
 2002年9月にIALAの技術委員会が再発足するものとして、それまでにワーキンググループがどのような成果を上げるか、またその結果が9月以前に公表されるのかどうか、この点にも留意を怠ってはなるまい。








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