8.結果
1日に30mを2回潜水するために休息時間を3時間以上とし、その間及び2回目の終了後に酸素吸入を20分間行い(写真6-3)、減圧症の予防に努めた。
(1)実施日の気象及び海象
2001年3月2日
[1]潜水地点:江ノ島沖(北緯35度17.05分、東経139度29.21分)
[2]気象・海上情報:曇り時々晴れ、気温5.9℃、湿度76%、北の風5.4m/s、最大風速8m/s、気圧1010hPa、うねり南1m
[3]実施水深:29メートル(27〜29m)
[4]水中視界:10メートル程度
2001年3月3日
[1]潜水地点:江ノ島沖(北緯35度17.05分、東経139度29.21分)
[2]気象・海上情報:晴れ時々曇り、気温6.9℃、湿度43%、北北東の風3.6m/s、最大風速5.1m/s、気圧1026hPa、うねり南1m
[3]実施水深:29メートル(27〜29m)
[4]水中視界:8メートル程度
(2)使用タンクの順番
空気(Air)とNitroxの実施の順番を表6-1に示す。1回目に空気潜水を行ったものが8人、残りの5人がNitroxであった。
表6-1 空気とNitroxの実施順番
対象者 |
1回目 |
2回目 |
TK37 |
Air |
Nitrox |
YH24 |
Air |
Nitrox |
IM33 |
Nitrox |
Air |
AK29 |
Nitrox |
Air |
NK26 |
Air |
Nitrox |
TT31 |
Nitrox |
Air |
AN26 |
Air |
Nitrox |
HN28 |
Air |
Nitrox |
MH39 |
Nitrox |
Air |
IT28 |
Nitrox |
Air |
YK29 |
Air |
Nitrox |
AY32 |
Air |
Nitrox |
NH27 |
Air |
Nitrox |
Air |
8 |
5 |
Nitrox |
5 |
8 |
(3)作業時間
作業時間は、Airが207±40.4秒、Nitroxが191±50.6秒であった(表6-2)。平均ではNitroxで短かったが有意な差は認められなかった。
表6-2 作業時間の比較
使用ガス |
ave. ± SD |
Air |
207±40.4 |
Nitrox |
191±50.6 |
(4)心拍数と換気量の変化
AN26のAirとNitrox時の心拍数を図6-4に示す。順番は、Nitroxを午前中に行い、午後にAirを行い、Nitroxの心拍数が高い結果となった。HN28は、午前中にAirを行い、午後にNitroxを行った(図6-5)。この場合は、Airで心拍数は120拍/分と一定であるが、後半のNitroxで80拍/分と安静状態に近い心拍数を示した。
図6-4 AirとNitrox潜水中の心拍数(A)
図6-5 AirとNitrox潜水中の心拍数(H)
AN26のAir潜水中の心拍数と換気量を図6-6に示す。心拍数が120拍/分の場合の負荷量予測は50%であるが、換気量は安静状態の20リットル/分の値を示した。検討を要す。同じAN26のNitrox潜水中の心拍数と換気量を図6-7に示す。心拍数は160〜180拍/分まで上昇しているが、換気量は20リットル/分の値を示し、換気量の信頼性に欠ける結果である。
図6-6 AN26のAir潜水中のHRとVEの変化
図6-7 AN26のAir潜水中のHRとVEの変化
ロープ結びの作業時間は表6-2に示した通りであるが、最短作業時間は2分20秒であり、作業開始から2分20秒までの全対象者平均心拍数を図6-8に示す。表6-3は作業中の平均値である。海流や透明度の問題があり一概に判断できなかった。
図6-8 潜水作業開始から2分20秒までの心拍数の推移
表6-3 作業中の平均心拍数
使用ガス |
平均 |
±SD |
Air |
97.2 |
24.4 |
Nitrox |
105.2 |
23.3 |
換気量は、表6-4に示し、有意な差(p<0.001)が認められたが、信頼性に問題があり参考とする。
表6-4 ロープワーク中の換気量(リットル/分)
経過時間 (分) |
Air |
Nitrox |
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14 |
35.7
34.8
29.2
23.6
27.2
29.6
26.2
27.5
28.0
28.8 |
26.8
23.1
21.5
20.7
20.4
19.1
18.1
19.8
18.7
17.5 |
Ave
SD
|
29.1
3.7 |
20.6
2.7 |
p=0.001 |
表6-5 自覚症状の訴え数
  |
  |
I群 |
II群 |
III群 |
合計 |
Air |
前 |
9 |
1 |
3 |
13 |
Air |
後 |
3 |
0 |
5 |
8 |
Nitrox |
前 |
7 |
1 |
3 |
11 |
Nitrox |
後 |
2 |
0 |
3 |
5 |
表6-6 自覚症状の訴え率
  |
  |
I群 |
II群 |
III群 |
合計 |
Air |
前 |
11.3 |
1.3 |
3.8 |
5.4 |
Air |
後 |
3.8 |
0 |
6.3 |
3.3 |
Nitrox |
前 |
8.8 |
1.3 |
3.8 |
4.6 |
Nitrox |
後 |
2.5 |
0 |
3.8 |
2.1 |
表6-7 自覚症状の訴え率に伴う成分評価
Air |
前 |
I > III > II |
一般型 |
Air |
後 |
III > I > II |
肉体作業型 |
Nitrox |
前 |
I > III > II |
一般型 |
Nitrox |
後 |
III > I > II |
肉体作業型 |
(5)自覚症状しらべ
30項目の設問に対して質問を3群に成分分類して評価する。
[1]疲労自覚症状の成分分類は次の通りである。
第I成分 ねむけ・だるさ
第II成分 注意集中の困難
第III成分 身体違和感
[2]結果の評価は次に示される通りである。
I>III>II I-dominant型 一般型
I>II>III II-dominant型 (精神作業型・夜勤型)
III>I>II III-dominant型 肉体作業型
[3]自覚症状の該当件数の数を表6-5に示す。
[4]訴え率(T)を表6-6に示す。
[5]訴え率に伴う成分順位を表6-7に示す。訴え率は、潜水前後では前者で高い傾向を認め、潜水後に低い傾向を示し自覚症状が解消した結果となった。訴え率の成分分析では、潜水前で一般型の自覚症状を認めたが、潜水後においては肉体作業型であった。潜水を行うことにより精神的にスッキリした自覚を感じ、肉体的な疲労感は残るようである。