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9.考察
 水中運動と陸上運動による負荷は異なることが調べられている。水中運動は陸上運動よりも23%高くなり5)、今回の130拍/分前後の心拍数は陸上運動に換算すると約50%負荷レベルであるが、水中運動に換算すると60%負荷レベルに匹敵する。今回の流速は生体負荷量に換算して中程度の後半に近いレベルであった。1999年に行われた体力テストの平均最大酸素摂取量は、3.8リットル/分であり、体重当たりの酸素摂取量は56ml/分である。50%負荷レベルに換算すると酸素摂取量で1.8リットル/分となり、体重当たり(68kg)に換算すると26ml/分となる。Iの図1-11に示した回帰式(y=-32.4+0.041x)を用いると酸素摂取量が1.8リットル/分の時の換気量は、41.4リットル/分となり、本調査研究で求められた換気量の26〜29リットル/分は、予測換気量よりも15リットル/分程度少ないことになる。いわゆるダイブコンピュータの換気量は信頼性に欠けることとなった。
 したがって換気量を除いた心拍数だけで考察すると、それぞれのガスの違いは、Nitrox<Air<Helioxと高い負荷量である結果が現れた。生体への負荷は、呼吸抵抗と酸素濃度によって影響され、Heliox<Nitrox<Airであると予想された。しかし実際は異なってしまった。実施後の感想では、Helioxの呼吸抵抗が少なく冷たかったと自覚した者が多かったが、AirとNitroxは自覚としての違いはなかったようである。
 Airと比較してNitroxとHeliox混合ガスは明らかに利点が存在するが欠点も存在する。
 混合ガス潜水は、空気以外のガスを吸入して潜水することであり、酸素と不活性ガスである窒素またはヘリウムの割合が異なっている。
 酸素:窒素の混合ガス(Nitrox)は一般的に比較的浅い潜水深度で使用される。最もよく知られている酸素:窒素の組成割合は32%:68%である。この酸素濃度の場合の最大水深は40mとされている。Airと比較した利点は、無減圧可能時間が長くなり、酸素濃度が多いために生体への負担が軽減されることである。欠点は、手軽にガスの充填ができないことと、急性酸素中毒への危険が挙げられる。
 深い潜水にはヘリウム:酸素(Heliox)が使われる。窒素の変わりにヘリウムを使う理由は、窒素酔いの予防と呼吸抵抗の軽減による楽な呼吸が可能となるためである。しかし欠点も存在する。スクーバ潜水では殆ど問題ではないが、「ドナルドダック効果」と言われる声のゆがみが生じる。ダイバーと船上で通話装置を使用した場合に発生する。もう一つは体温の損失の問題が出てくる。ヘリウムが空気の約6倍の熱伝導度を持っているために引き起こされる。熱損失は皮膚及び呼吸器系からおこる。対策として、呼吸ガスを暖め、ドライスーツなどの保温効果が高い環境をつくることである1,3,4)。手軽にガスの充填ができないことも欠点である。
 しかし、Airよりも明らかにNitroxとHelioxは利点があり、今後の検討すべき課題である。








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