7.考察
有機的筋運動能力の構造は、図1-12に示すようにトレーニング、脱調整及び順化(高所、暑熱、寒冷)によって影響される。持久力の特性は、最大酸素摂取量の優秀さで現され、オリンピック競技のある種目での優勝に必要な最大酸素摂取量は80ml/kg/分であるとも言われている。酸素を1リットル燃焼させるためには約5kcal(4.7〜5.05)が放出され、酸素摂取量が大きければ大きいほどエネルギー出力は大きいことになる。最大酸素摂取量を高めるためにはトレーニングが必要である。トレーニングの原則は、「適応というものは、ある一定の与えられた負荷に対して起こるものであり、またより一層の改善を得るためにはトレーニング強度を増さなければならない」とされている。トレーニング量とトレーニング効果との間には直線的関係は存在しないのである。例えば1週間に2時間のトレーニングは最大酸素摂取量を0.4リットル分増加させることができるが、2倍のトレーニングによって2倍の最大酸素摂取量は得られないのである。しかし、1.5倍程度くらいまでの増加は可能であろう。このように増大には明らかに限界があるし、増大の率及び幅は個人一人一人について様々である1)。
図1-12 有機的筋活動能力に影響を及ぼす諸因子 Astrand「運動生理学」より
羽田特殊救難基地で行われた自主トレーニングは、個人によって差があり、平均すると1週間に2日程度の実施をみることができた。個人のトレーニング目的により異なるが、持久力と筋力の維持を目的としているか、それらの増強を目的としているかによって必然的に内容が異なってくる。40分間のトレーニングを行い、その後に10分間の筋力トレーニングを行っている者(図1-8)は体力増強が期待されるが、1週間に1日のトレーニングであれば体力を維持するのがやっとであろう。特救隊員が行っている自主トレーニングは、どちらにも該当し、少なくとも体力維持に努めていると思われる。それは短時間のトレーニングであっても心拍数が150〜180拍/分まで高めており、最大運動に近く、酸素摂取量に換算すると50ml/kg/分に匹敵し、トレーニングによる体力維持の必要性を自覚したものである。
特救隊長に対してのアンケートの中には、持久力の必要性を第1位に挙げており、達成するためにはハーフマラソン(20km)が必要であると指摘している。
持久力を高めるためには、有酸素的パワーのトレーニングが必要である。この方法は、数秒間の運動を繰り返す運動から数時間にわたる持続的運動まで各種の身体活動が酸素運搬系器官に対して大きな負荷を及ぼすことにより、トレーニング効果が発揮できる。すなわち3〜5分以上の大筋群の運動を行い、それと同じ程度の時間を休憩に当てるか、軽い身体運動を行う方法である。この場合の運動期間中の運動テンポは最大である必要はなく、疲労困憊まで運動を続ける必要もない。
羽田特殊救難基地での自主トレーニングのアドバイス
1.1週間に2日程度の日数でも体力維持が可能である。内容は個人によって異なるが、持久力(1500m走)、全身的な筋持久力などが必要であり、30分〜1時間を要するトレーニング時間を目標とすべきである。
2.筋力トレーニングの中に含まれるが、ロープの上り下りの運動も含めるべきである。
3.筋力増加のトレーニングには速度特異性が存在し、速い速度で行った場合の筋力と遅い速度で行った筋力があり2)、目的によって内容を選択する必要がある。
4.体力検定は、各隊で1ヶ月に1回程度実施すべきである。
5.運動負荷量は、調べられた結果から最大負荷の40〜90%に達していることから、今までのやり方で十分であると思われる。