3 海洋投棄規制条約
(1)条約の内容と性質
大量の廃棄物の漂流・漂着の原因としては、一般論として、投棄によるものと天候・事故などから生じる場合との双方がありうる。大量の廃棄物の漂流・漂着が、投棄
(2) によるものではなく、天候・事故などに起因する流出による場合は、石油の流出などと異なり、国際法上の特別な枠組みはない。石油の流出の場合とは違って、その処理の枠組みを特に定める必要性は高いとは言えないからであろう。これとは異なり、投棄に関しては、国連海洋法条約第210条が、締約国に、投棄による海洋環境の汚染を防止・軽減・規制するための法令制定義務とそのための措置義務を課し、国際規則制定の努力義務を課すだけでなく、海洋投棄規制条約(「廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約」の略称)が、その国際規則を定めている。
海洋投棄規制条約は、1972年に採択、1975年に発効、わが国は1980年に批准したもので、1996年にはその内容を大幅に改正する議定書が採択されているが
(3)、この議定書は現在のところ発効していないので、現行実定法としては、それ以前のものにしたがって運用がなされている。その現行法は、附属書Iに列挙された物質(ブラックリスト)の海洋投棄全面禁止と、附属書IIに列挙された物質(グレイリスト)の特別許可による投棄と、その他の物質(ホワイトリスト)の一般許可による投棄との、組み合わせによる規制を規定している。ブラックリストの中には、ここでの問題である廃棄物の一部を構成する、持続性プラスチックその他の持続性合成物が含まれている。その他の廃棄物は一般許可の対象であるホワイトリストの廃棄物であろう。
条約に違反して行われる投棄に対しては、第7条で、各締約国は、これを防止し処罰するために適当な措置をとることを義務づけられている。ただ、私見によれば、ここにいう「処罰」は、条約正文では“punish”であるが、各国の国内法制度にしたがって行政罰でも民事罰でもよく、刑事罰を意味すると解する必要はない。わが国の制度では、刑事罰が適合的であると判断することはもちろん差し支えない
(4)。
管轄権に関しては、海洋投棄規制条約は、第7条1項で、自国船舶、自国を積出港とする船舶、自国の管轄下にある船舶に対する措置義務を定め、同条2項では、違反を防止・処罰するために領域において適当な措置をとる義務を課している。更に、国連海洋法条約は、第216条で、執行管轄に関して、領海・排他的経済水域・大陸棚については沿岸国に、船舶については旗国・登録国・廃棄物の積込み国に、権能と義務を定めている。