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3.我が国が関与したその他の事例
(1)パナマ貨物船E・Bキャリア号船内暴動事件
 平成元年8月13日1340ごろ、韓国ウルサンからオーストラリアのポートヘッドランド向け航行中のパナマ船籍鉱石運搬船EBキャリアー(86,098トン、乗組員39名、内英国人5名、フィリピン人32名、トルコ人2名、以下E号と略)船内において、労働時間、食事等に不満をもつフィリピン人8名が待遇の改善を要求して、E号の機関を停止し、凶器を示して英国人士官を脅迫した。身の危険を察知した英国人士官5名が船長室に避難して翌朝までたてこもり、この間、暴動を起こしたフィリピン人乗組員が、ナイフ、防火斧等の凶器を所持して船長室のドアを攻撃のうえ一部を破損させ、船長室内への侵入を試みた。このため、13日1700ごろ、沖縄本島の南南西326キロの公海上を航行中のE号から、「船内で暴動が発生した。英国人幹部5名が暴徒の攻撃下にある。部隊、ヘリコプターの援助を要請する」旨インマルサットを通じて直接海上保安庁へ繰り返し通報があった。通報を受けた海上保安庁では、第11管区海上保安本部に対策本部を設置し、巡視船艇8隻、航空機9機を出動させるとともに、公海上を航行中のパナマ船籍船内での英国人に対するフィリピン人の暴動という事件のため、国内関係機関、英国及びパナマ国大使館、在那覇フィリピン国名誉総領事等関係機関へ事件発生の連絡を行った。本件事件処理においては、事件発生直後から関係国と密接な連絡を保ち、海上保安庁が介入することについて、包括的な同意を得て、14日午前、海上保安官19名をE号に派遣してこれに乗船させ、当事者の説得に努めた。その後、両当事者が那覇回航を希望した時点で一応暴動の状態は沈静化し、待遇改善を求める民事問題になったが、両当事者の強い要望により、海上保安官9名を乗船させた上、巡視船艇4隻が直接護衛し、15日0710那覇港外に投錨して一応の決着をみた。
 この事件の場合におて、海上保安官がE号に乗船すれば実力行使の可能性も十分に考えられるところであった。そのため、E号に海上保安官が乗船する前に、海上保安庁が介入することについて包括的同意を得る必要があると考え、暴動発生当日の平成元年8月13日に英国大使館に対し、英国側から要請を得たいと打診。これに対し、英国側から「外務省に対し口頭で事件処理の要請をした。口上書については明日提出する。」むね回答があり、それは8月14日に提出された。これはしかし、国際捜査共助を要請するものではなかった。
 E号旗国のパナマについては、当初大使館との連絡がとれずにいたが、13日遅くに事件事実を連絡することができ、海保に早急に救助要請を出すように申し入れを行った。この場合も国際捜査共助を要請するものではなかった。フィリピン大使館については、事件当日連絡がとれなかったこと、11管区本部において事件発生直後から、在那覇フィリピン国名誉領事と連絡がとれ、同名誉領事から在東京大使館に逐一報告がなされていたことから、その後は連絡はとられなかった。そして、フィリピン名誉領事は、直接現場で、無線によるものではあったが、暴動フィリピン船員を彼らの言語で説得。海上保安官がE号に乗船することについての同意をとりつけるとともに、海上保安官立会いの上で船長側と暴動者側とが話し合いをする機会の場を作ることに成功。暴動フィリピン人は自分達のために領事がわざわざ出向いてくれたことに非常に感激し、その結果、領事を介しての和解という条件で以後の対応措置が極めて短時間の内に決定することができたとされる。








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