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 本件において、海上保安庁は、事実関係の調査、生き残り乗組員、加害乗組員への事情聴取、船舶の動静監視を行ったのであるが、海上保安官が乗船しP号の船内警戒を実施し、一時的にP号の安全と秩序維持をはかるという作用を行った。このP号事件は、公海上の外国船舶で発生した事件であり、乗組員に日本人は含まれてはいないから、犯罪捜査を行う捜査管轄(捜査権)を我が国は有しないことは明らかであったと思われる。しかし、燃料切れによって我が国の領海内に漂流してきたのであるから、海上保安庁による海難救助の措置がなされることはまた至極当然のことであり、救助行為は全く正当且つ当然であるけれども、この時点から以後の措置として、我が国の港へ曳航すべきであったか否かは議論の余地があるものと考えられる。というのも、犯人の中国人達は、事件後は日本への密入国を意図し、船内に筏を準備していたのではないかということもあり、もしもそうであったなら、密入国事犯としての捜査ということもあり得たという指摘もあったのである。橋本博之教授は、「いずれにしても、海上保安庁は、事情聴取・情況調査・ペスカマ号への給油等を行っており、これらの措置の法的な意味付けについて、考察が必要になるであろう。」と指摘される(8)
 しかしながら、これらの措置は、海上保安庁法(昭和23年法律28、以下庁法と略)が公海上に及ぶことはつとに自明のこととされており、海上保安庁の任務が海上における人命と財産の救助であることからして、組織法(庁法)上認められた権限の行使の範囲内で処理説明できる内容であったと考えられる。これがもう一歩すすんで、積極的な制圧活動を必要とした場合には、国内法の問題としては、厳格な法治主義の観点から、規制権限の根拠規範の妥当範囲の問題が生じる可能性はあるということになる。つまり、公海上の外国船上で海上保安官が強制力を行使するための我が国国内法上の根拠の問題ということである。公海上で海賊に襲撃されている外国船舶の救助は、広くは海難救助の一種、あるいは人道上の問題ととらえ、海上保安庁法の目的である、人命財産の保護の枠内として、積極的な庁法の解釈論を展開することによって国内法的根拠の問題をカバーしていこうとする見解も主張されていることもあり(9)、旗国または当該船舶からの救助要請を契機として介入することができるという解釈論を展開していくことが今後とも必要であり、要求されると思われる。








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