(3)第1次国連海洋法会議(第一委員会での審議)
第1次国連海洋法会議審議のために提出された1956年国際法委員会草案第16条について、各国の提案は、ユーゴスラビア、英国及び米国から行われ、第一委員会において審議された。
(ア)ユーゴスラビア提案(24 March 1958, A/CONF.13/C.1/L.16)
(10)
国際法委員会草案第16条(1)と(2)の間に、新パラグラフとして「沿岸国は、航行の安全(the safety of navigation)に必要な措置をとらなければならない」を追加するように提案した。これは、外国船舶の通航の安全を確保する積極的義務を沿岸国に負わせようとするもので、コルフ海峡事件判決(本案)を越える義務を想定したものであったが、第一委員会においては11-17-43で否決された。
(イ)英国提案(25 March 1958, A/CONF.13/C.1/L.37)
(11)
英国は、国際法委員会草案第16条(1)第二文の文言「かつ、領海が他国の権利に反する行為のために使用されないようにしなければならない。」の削除を提案した。
(ウ)米国提案(25 March 1958, A/CONF.13/C.1/L.37)
(12)
米国は、国際法委員会草案第16条(1)第二文全体の削除を提案したが、その理由を次のように述べている。
(a)この文言に盛り込まれている二つのルールは沿岸国に義務を負わせているが、その義務は現行の国際法の原則を越えたもので、その条件に完全に従うならば過大な経済的負担を強いることになる。
(b)国際法委員会草案の文言は、通航の障害を除去しない場合やその他通航を援助するために有効な措置をとらない場合には、沿岸国の側に絶対責任のルールを負わせるものと解釈されることになる。
(c)国際法委員会の当該文言は、コルフ海峡事件の国際司法裁判所の意見(I.C.J.Reports, 1949)22頁の文言から引き出されたものであるが、その意見を条文中で使用することについては、決してそれを意図したものでなく、全く不適切である。それは、国際法委員会での投票者の単なる多数決(賛成5, 反対4, 棄権3)に裏付けられているに過ぎない。
つまり、英国提案及び米国提案は、国際法委員会草案第16条(1)第二文が、領海における外国船舶の安全を積極的に確保する措置を沿岸国に要求することになる。それは、実施・方法の義務のみならず、結果の義務を負わせるものであって沿岸国に絶対責任を負わせることになるが、そのような沿岸国の義務は、いまだ国際法の原則となっているものではないという。
この米国提案は、第一委員会において26-18-25で可決され、国際法委員会草案第16条(1)第二文は削除された。この結果、1958年領海・接続水域条約第15条は、次のように規定されることになった。
1958年領海・接続水域条約第15条(沿岸国の義務)
1.沿岸国は、領海の無害通航を妨害してはならない。
2.沿岸国は、その領海内における航行上の危険で自国が知っているものを適当に公表しなければならない。