(1)事件の概要
事件は、ベリーズにより2001年3月21日に申立てられた。その申立の内容は、「裁判所が条約第292条に基づき申立を審理する管轄権並びに受理可能性があること、フランスが定めた保証は、その額、性質又は形式が合理的でなく第73条2項違反であること、フランスが船舶を没収し釈放しなかったことで第73条2項に違反したこと、そして船舶を速やかに釈放することを宣言すること、保証金は20万6千149ユーロでなければならないと決定すること」を主な柱としている。これに対し、フランスは、「申立には目的がなく、手続を開始する根拠がないと宣言するよう」求めたのである
(6)。事件の概要は、次の通りである。
2000年12月26日の拿捕時に、漁船グランド・プリンス号はベリーズの国旗を掲げていた。拿捕から約2ヶ月前の2000年10月16日にベリーズの国際商船登録局(IMMARBE)により発給された暫定航行免許によれば、この船舶の船主はベリーズのパイク商会であった。2000年3月27日付の売渡証によれば、パイク商会は、みずからの会社と同住所に登記されているリードン商会から同船を買い取っている
(7)。ちなみに、1999年6月23日付の船級証書によれば、同船舶の船主は、スペインのNOYCAN B.L.-MOANA-VIGOという会社とされる
(8)。
さらに原告によれば、抑留時には、この船舶は、漁獲免許が発給されていたブラジルに船籍を移行し登録しようとしていた。船長はスペイン人で、乗組員はスペイン国籍とチリ国籍の37名であった。同船舶は、南氷洋の国際水域で銀ムッの漁獲とロブスターの調査漁獲を行っていた。これに関連し、先の暫定航行免許には、「船舶は違法操業に従事してはならず、特別漁業水域に適用可能なすべての漁業上の要件及び規則を遵守するものとする。遵守しなかった場合は、違反の重大性に応じて5万米ドルまでの罰金刑に処し、再犯は職権によりその地位を取り消す」ことが裏書されていた
(9)。
2000年12月26日8時53分、グランド・プリンス号はケルゲレン諸島のEEZにおいて、フランスの巡視艦ニヴォセ号により乗船検査を受け、[1]ケルゲレン諸島のEEZにおいて無許可操業を行ったこと、[2]ケルゲレン諸島のEEZへの入域を宣言せず、船内の約20トンの魚(そのうち銀ムツ18トン)を申告しなかったとして、違反調書(04/000号)が作成された。2001年1月12日、現地のサンポール大審裁判所
(10) はこれらの違反を認定し、保証金総額1140万フランを命じた。レユニオンの海事局長は、サンポール大審裁判所の命令によって1月12日に確認された船舶の暫定的没収を宣言した。その前日、検事補は刑事訴訟法第393条以下に従い、被告である船長に1月23日に刑事裁判所の聴聞に出廷するよう召喚することを決定した
(11)。同日、サンデニ刑事裁判所(軽罪裁判所
(12))は、この種の犯罪の摘発には費用もかかり、犯罪の再犯を回避し、犯罪者がその違法行為から利益を得ることを防止することが重要だとして、船舶、装備及び漁具等の没収を命じた。同命令は、フランス刑法第131-6-10条及び刑事訴訟法第471条最終項により船舶の没収を命じ、それは控訴の提起にかかわらず直ちに執行可能であるとされた。併せて、船長には罰金20万フランが宣告された。2001年1月31日、船主は刑事裁判所の判決に対して控訴した。また、同年2月19日、船主は、サンポール大審裁判所の保証額の支払いを保証する銀行保証を提供した後に船舶を釈放することを求めて同裁判所に申立てた。しかし、サンポール大審裁判所は、すでに刑事裁判所が控訴に関わりなく執行可能として船舶の没収を命じており、同裁判所は船舶を返還する命令を行う管轄権をもたないと判断した
(13)。抑留船舶の「速やかな釈放」を求めるベリーズの意図は、このフランスの国内裁判制度の論理の前にひとまず頓挫した。そこで、ベリーズは争いの場をITLOSに求めたのである。