4.漁業法改正
今回の漁業法改正は、水産資源状況の悪化を背景にした資源管理の強化、水産資源の現象や水産物価格の低迷といった厳しい漁業経営環境を背景にした漁業経営の安定化、漁業権管理の適正化・漁業協同組合の広域化の推進、といった観点からなされた、と説明されている。
具体的な改正ポイントは、[1]特定区画漁業権の内容たる区画漁業として、新しく垂下式養殖業を規定した(漁業法7条)、[2]定置漁業免許の優先順位を持つ法人の中に、一定の条件を満たす株式会社を追加した(同16条)、[3]漁業権の分割・変更・放棄の際に、地元地区(関係地区)の組合員による同意制度を導入した(同31条)、[4]指定漁業の許可を承継する場合の制限を撤廃し、指定漁業の許可を受けた船舶を譲り受けた場合の承継が容易にできるように改めた(同59条)、[5]新しい漁業調整機構として、広域漁業調整委員会を設置した(同68条・同110条)、といった事柄である。
漁業管理の仕組みという視点からは、上記[5]に掲げた広域漁業調整委員会の設置が、特に注目されるところである。これは、従来の海区漁業調整委員会(都道府県単位)・連合海区漁業調整委員会(複数の都道府県にまたがるもの)に加えて、太平洋、日本海・九州西海域、瀬戸内海という3つの広域漁業調整委員会を設置するという、法改正である。都道府県の区域や、大臣管理漁業・知事管理漁業の区分を超えて、水産資源の管理を行うための改革という言うことができる。なお、この改正に伴って、瀬戸内海・玄海・有明海の三つの連合海区漁業調整委員会は廃止されている。
広域漁業調整委員会は、関係する海区漁業調整委員会の委員が都道府県ごとに互選した者・区域内で漁業を営む者の中から農林水産大臣が選任した者(瀬戸内海についてはこのカテゴリーは規定されていない)・学識経験者から農林水産大臣が選任した者、から構成される。都道府県単位を超えて分布・回遊する漁業資源の管理について、各地域の利害や、大臣管理・都道府県管理の枠を超えた利害調整が可能になるような、人的配置が意図されているように思われる。
広域漁業調整委員会は、従来の漁業調整委員会が地方公共団体の機関であったのと異なり、国の機関(国家行政組織法8条の3による特別の機関)として位置づけられる。このような形で広域漁業調整委員会が置かれたことは、漁業資源の管理強化に資するものと考えられるが、いずれにしても、平成13年10月1日からの法文の施行を受けて、実際の機能状況が注目されるところである。
なお、先に検討した資源管理法によるTAE制度の創設は、漁業法改正の趣旨のひとつである漁業制限管理の強化につながるものとして、広域漁業調整委員会の設置とは一連の法的仕組みと位置づけることができる。しかしながら、法令の規定上、漁業法改正による広域漁業調整委員会の設置と、TAC制度ないしTAE制度の制度的関連付けはなされていないこともまた、留意すべき事柄であろう
[3]。