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(4)漁獲努力量総量管理制度(TAE制度)の創設
 最後に、TAE制度の創設について、検討する。漁獲努力量は、漁業管理の一般的な用語としては定着しているもののようである。そもそも、TAC導入以前の日本の漁業管理・漁業調整制度(以西底引き網の減船に関する漁業資源枯渇防止法以来のもの)は、漁獲努力量の管理であったと説明される場合があるし、EUの共通漁業政策でも、漁獲努力量の管理制度が含まれていた。
 資源管理法2条3項は、漁獲努力量を、「海洋生物資源を採捕するために行われる漁ろう作業の量であって、採捕の種類別に操業日数その他の農林水産省令で定める指標によって示されるもの」と定義づけている。したがって、漁獲努力量の指標は、漁業の種類ごとに省令で定められるのであり、法律レベルでは一元的に定められていない。
 TAE制度の法的仕組みは、次のようなものである。まず、TAE制度の対象となる海洋生物資源の種類が、政令で指定される(資源管理法2条7項)。この指定された海洋生物資源(第2種特定海洋生物資源)につき、漁業種類・期間・海域別の漁獲努力量最高限度(漁獲努力可能量)が、農林水産大臣によって基本計画で定められる(同3条2項)。さらに、右計画を受けて、都道府県知事が、基本計画に即して都道府県計画を定め、知事管理漁業の種類別に漁獲努力可能量を設定する(同4条2項)。
 以上のような形で、基本計画・都道府県計画において設定された漁獲努力可能量について、資源管理法8条(漁獲努力量の公表)、9条(助言・勧告・指導)、10条(操業停止命令)、12条(停泊命令)によって、実効性が担保される。これらの前提として、同法17条による漁業者の漁獲努力量の報告義務規定があり、協定手法も用いられる。要するに、TAC管理に関する法的仕組みが、そのまま用いられることになる。
 以上のように、TAE制度の法的仕組みは、従来のTAC制度の法的仕組みと、ほとんど同一のスキームによる。このため、法的仕組みに対する評価という意味では、TAC制度のそれと同じことが当てはまるのであり、日本の既存の漁業法・水産資源保護法の仕組みを崩さないことに対する評価、都道府県レベルに分解されたシステムになっていることの評価、といった事柄が問題になる。また、TAE制度は、漁獲努力量のコントロールというインプット規制を、総量管理というTACと同じ形式で行うことになり、インプット規制とアウトプット規制の混合された管理手法ということになる。
 TAE管理は、法文を見る限り、漁業資源の回復のための新しい法的仕組みの導入であり、日本の漁業資源管理が新しい局面を迎えるものと言える。他方で、TACとTAEは、それぞれ全く別個の魚種について設定される仕組みになっていることにも注意が必要である。また、TAEは、漁業資源について、回復の目標を数値で示したり、期間を区切って資源回復計画を策定する、といった内容とはなっていない。
 政府部内の説明によれば、TACに加えてTAEを導入するのは、資源量や資源量予測等の高度な科学的知見がないとか、資源状況の悪化から推定資源量に相当の幅のバラツキが出るといった魚種で、TAC設定そのものが困難であるが、悪化している資源の早急な回復を図る必要があるため、とされる。要するに、TAEは、TACのいわば簡略版として位置づけられる。他方で、TAEは、漁業法・水産資源保護法による漁業種類ごとの管理システムから、水産資源の種類に着目した管理システムヘの転換と言う意味で、新しさがある。すなわち、漁業法・水産資源保護法のシステムでは、同一の魚種であっても、漁業方法別に分断された規制システムであり、規制主体も農林水産大臣・各都道府県知事に分かれるのに対して、TAEの制度は、少なくともTAEの設定のレベルでは、農林水産大臣が一元的に特定の魚種を管理することになる。
 いずれにしても、今回の資源管理法の改正は、日本の周辺海域の漁業資源について、早急な回復を含め、その管理手法を整備するものである。少なくとも法的仕組みの側面からは、漁業資源管理の手法を充実させるものとして、今後の活用のされ方が注目される。他方で、在来の漁業調整手法・TAC管理・TAE管理が並び立ち、その法的仕組みの面からも、また、大臣・都道府県知事・漁業者という管理主体の面からも、システムの輻輳さが目立つものとなり、全体の政策パッケージとしての統合の仕組みが何らかの形で必用なのではないか、という疑問がある。TAEの管理を発動することは、過剰漁獲努力量の削減という形で、端的に漁業者の生産構造の改革・漁業経営の転換を迫るものであるだけに、水産資源管理のトータルな政策パッケージの必要性は高い。これとの関連で、排他的経済水域でのTAC管理という枠組みが、TAE管理の導入によって相対的に薄められたのではないのか、という印象も受ける。この点については、海洋法上、沿岸国の法的義務として課されている漁業資源の保存管理措置の具体化として、TAC管理という枠組みに拘束されるのか、という事柄に関わるであろう。








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