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(2)計画手法
 資源管理法に基づくTAC制度の法的仕組みにおいて、柱となるのが、農林水産大臣が定める基本計画、都道府県知事が右基本計画に即して定める都道府県計画、という、2段階の行政計画手法である。
 資源管理法3条2項は、基本計画の内容を列記している。その中心を成すものが第1種特定海洋生物資源ごとの漁獲可能量(同項3号。具体的な数量で記述される)であることは言うまでもない。この漁獲可能量について、特に法3条3項で、「最大持続生産量を実現することができる水準に特定海洋資源を維持し又は回復させることを目的として、特定海洋資源ごとの動向及び他の海洋生物資源との関係等を基礎とし、特定海洋生物資源に係る漁業の経営その他の事情を勘案して定める」旨明記されている。ここで漁獲可能量を具体的に決定するポイントとなる「最大持続生産量」をはじめ、漁獲可能量に関する法的概念が、国連海洋法条約61条に由来することは明らかである。この点で、資源管理法において実定法化された漁獲可能量の法的仕組みは、わが国について発効した国連海洋法条約に、法制技術的に大きく依存している。他方で、国際法固有の複雑な内容を含意している国連海洋法条約について、これが日本につき批准・発効したからといって、国内行政法令と全く同一の立法技術的・法制管理的取り扱いをすることに問題があることも容易に推察できるのであり、海洋法と日本の国内行政法令の相互関係に関する問題の所在を示すものとなっているように思われる。
 いずれにしても、わが国の排他的経済水域(等)における海洋生物資源のTACの具体的数量は、農林水産大臣による基本計画という形で決定され、資源管理に関する行政計画の中に取り込まれているのである。
 この基本計画における漁獲可能量は、農林水産大臣が漁業法等を根拠に管理をする漁業(指定漁業・承認漁業)分と、都道府県知事が漁業法・水産資源保護法を根拠に管理をする漁業(知事許可漁業等)分とに、分割して数量が定められる。大臣管理漁業分について、当該海洋水産資源に関する漁業の種類別の数量の割り当てが行われ、操業区域別又は操業期間別に細分化した数量の割り当てをすることもできる。また、知事管理漁業分については、各都道府県の地先沖合いの割り当て分について、都道府県別の数量を定めることとされる。
 なお、基本計画の中に、大臣管理漁業分の数量につき「実施すべき施策に関する事項」を定めるとされていることが目を引く(資源管理法3条2項7号)が、実際の基本計画を見ると、「協定制度の普及・定着」につき言及されているのみである。
 基本計画の策定手続は、農林水産大臣が、水産政策審議会の意見を聴かなければならないこと(資源管理法3条4項)、知事管理漁業分の都道府県別割り当て数量を定める場合の関係する都道府県知事の意見の聴取、決定した場合の知事への通知(同3条5項)、公表(同3条6項。具体的には官報への公表ということになる)が定められている。なお、この基本計画には、期間の定めがない、という特色がある。その代わりに、農林水産大臣が、毎年少なくとも1回、基本計画を検討し、必要があれば変更するという仕組みが組み込まれている(同3条7項)。
 都道府県計画は、資源管理法4条2項が列挙する事項について、関係海区漁業調整委員会の意見を聴いたうえで、農林水産大臣の承認により策定される。また、都道府県の条例により、特定海洋生物資源以外のものについて、指定海洋生物資源として指定し、都道府県漁獲限度量を定めることができる(同5条)。いずれも、資源管理法によるTAC管理の法的システムにおいて、都道府県のイニシアティヴにゆだねられた部分が多いことを示すものである。
 なお、外国人割り当て分については、資源管理法の仕組みではなく、排他的経済水域における漁業等に関する主権的権利の行使等に関する法律により、外国人漁業の農林水産大臣による許可制の仕組みによって、割り当てられることになる。一方、漁業権漁業については、都道府県知事の管轄であり、都道府県計画の中で考慮されるという法的仕組みになっているが、正面からTAC管理と連動させるという仕掛けは法文からは読み取ることが難しい。今般の地方分権改革により、漁業法上の漁業権管理が自治事務とされたこともあり、TAC管理が漁業権漁業とは、現実的には連動しないのではないか、と思わせる部分がある。
 資源管理法による基本計画という手法は、TACの数量そのものを単独で決定するのではなく、具体的な管理に関する法的仕組みを見込んだ割り振りまでセットにして、農林水産大臣が決定するという仕組みになっている。資源管理法の仕組みにおいても、TACの対象魚種は政令で決定するのであるから、TACの数量自体も閣議レベルで決定するということが考えられるのではないか、という印象もあるが、そのようにされていないところに、日本のTAC制度が、日本固有の漁業管理法制にビルトインされた独自のシステムとしての色彩を強く与えられていると評することができよう。








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