(3)犯罪収益
薬物・銃器の密輸は専ら収益を目的とした犯罪であるし、就労を目的とした集団密航の請負業も、さらには売春や性的搾取を目的とした人の密輸のブローカーもその目的は経済的利得にある。そこで、これらの組織犯罪の対策として、犯罪収益の剥奪が重要な問題となる。
この点、アメリカでは、1970年(昭45)の組織犯罪取締法(RICO法)、包括的薬物乱用防止取締法の制定で、組織犯罪や薬物犯罪の収益を没収する制度が創設され、1986年(昭61)にマネーロンダリングの犯罪化が行われているが、我が国では、麻薬特例法において、犯罪収益の没収制度(11条)が規定され、マネーロンダリングの犯罪化(6条)が行われ、具体的には、6条の不法収益等隠匿罪(5年以下の懲役で300万円以下の罰金の併科もできる)、7条の不法収益等収受罪(3年以下の懲役で100万円以下の罰金も併科できる)及びあおり又は唆しの罪(国外犯処罰規定あり)が新設された。
しかし、これらの規定は薬物犯罪に限定されるため、暴力団組織等の不正な権益の獲得・維持を目的とした各種犯罪に適切に対応することはできなかった。そこで、1999年(平11)8月に、組織犯罪処罰法(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制に関する法律)が制定され、翌年2月1日に施行された
(13)。
この法律では、一方において、刑法に定める殺人、逮捕監禁等11種類の犯罪に該当する行為が団体の活動として組織的に行われた場合や団体に不正な権益を得させ、若しくは団体の不正な権益を維持・拡大するために行われた場合に、刑法に定める各罪の法定刑の上限又は下限を引き上げるという規定を新設し責任に応じた適切な科刑を可能にした(3条)。例えば、殺人の場合、死刑もしくは無期又は5年以上の懲役とされることになった。
他方において、マネー・ローンダリング行為を処罰する規定として、別表の前提犯罪に当たる行為による収益の隠匿及び収受並びにこれを用いた法人等の事業経営の支配を目的とする行為を処罰する規定を新設すると共に(9条−12条)、犯罪による収益に係る没収及び追徴の特例を設けた(13条以下)。
本法は、組織犯罪として有効な武器となりうる法律であるが、未だ施行されてから間もないことから、今後本格的な活用が期待される。
国連組織犯罪条約と付属議定書における犯罪化の問題に対応する現行法の規定は以上の通りであり、そこで欠けている部分について整備することが急務であると思われる。