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国際的な組織犯罪と密輸・密航
岡山大学教授 大塚 裕史
1.はじめに
 我が国は、四方を海に囲まれた島国であるという地理的条件が、犯罪者や犯罪組織、禁制品の出入りに対する天然の障壁となっており、このことが我が国の治安の良好を支える一つの要因になってきた。しかし、近年、我が国も、グローバル化した組織犯罪の脅威に直面し、島国としての利点はいまや完全に失われている。輸送手段や情報通信に関する技術革新の結果、「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」が、国境を越え、自由、かつ、迅速にやり取りできるようになったことは、人間の活動に多くの利便をもたらしたが、それと同時に、犯罪者たちに、これまでもなく簡単に国境を越える犯罪を実行する機会と手段を与えてしまった。今日、国境を越えて大規模かつ組織的に敢行される国際組織犯罪の脅威は深刻化し、社会の繁栄と安寧の基盤である市民社会の安全、法の支配、市場経済を破壊している。国際組織犯罪の主な例としては、薬物や銃器の不正取引、盗難品の密輸、詐欺・横領等の企業犯罪や経済犯罪、通貨、支払いカード等の偽造、汚職、脱税や資金洗浄等の金融犯罪、売春、不法移民、女性・児童の密輸等が挙げられる。また、近年の特徴として、これらの犯罪にITが駆使され、その手口が一層悪質・巧妙化している(1)
 このような国際組織犯罪対策として、1994年(平6)のナポリ・サミットにおいて、国際犯罪について初めての言及があり、翌95年(平7)のカナダのハリファックス・サミットにおいて国際組織犯罪対策上級専門家グループの設立を決定した。同グループは1996年(平8)のリヨン・サミットの「国際組織犯罪に関する40の勧告」を提出したことから、リヨングループと呼ばれ、以降毎年のサミットに首脳に対し国際組織犯罪に関する報告を行っている(2)
 リヨングループにおいては、G8各国の刑事司法、法執行等の専門家が、実務的な観点から国際組織犯罪対策を検討した。同グループには、現在、司法協力、人の密輸、国連国際組織犯罪条約、ハイテク犯罪、銃器、法執行プロジェクトの6つの分科会が設置されている(3)
 1994年(平6)11月、ナポリで国際組織犯罪世界閣僚会議が開催され、ナポリ政治宣言及び世界行動計画が採択された。これを受け、1998年(平10)12月の国連総会において、「国連国際組織犯罪条約」の起草のための政府間特別委員会が設立された。同委員会で、2000年中の採択を目指して、資金洗浄、汚職、司法妨害等の犯罪化及び共助・引渡その他の国際協力等を定める本体条約並びに3つの関連議定書(銃器、人の密輸、女子・児童)の締結交渉が進められた結果、銃器議定書を除き案文合意に至り、2000年(平12)11月15日、国連総会において採択された。銃器議定書については、引き続き締結交渉が行われ2001年(平13)5月31日に採択された(4)。本体条約とこれに付属する3つの議定書からなる計4本の国連条約は、一般犯罪に関するものとしては、1988年(昭63)の麻薬新条約以来の本格的な多国間条約となる。そして、本条約は、国際組織犯罪と戦うための基本的枠組みを包括的に規定する初めての普遍的条約であり、今後のグローバルな対策の法的基盤となるものとして注目される(5)
 そこで、国際的な組織犯罪に対する国内法制の整備を検討するにあたり、まず、これらの条約の内容、特に「犯罪化」について規定している部分を概観することにしたいと思う。








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