(2)国家実行
排他的経済水域に関しては、多くの国が、国連海洋法条約の規定に忠実に従った国内法を持っている。そのため、排他的経済水域における洋上補給に関連すると思われる国内法令を有している国は多くない。ただし、排他的経済水域において、ギニアと同様に、関税及び財政に関する規制を行う規則を有している国がある。
例えば、インドは、1976年の法令で、中央政府が、排他的経済水域の指定水域(designated area)において、指定水域に関連する、関税その他の財政事項について必要な規則を制定する、としている。
(21) インドとほぼ同文で、ガイアナ、モーリシャス、パキスタン、セイシェルが同様の規定を有している。
(22)
ナミビアは、1990年の「領海及び排他的経済水域法」で、排他的経済水域において、財政および関税、出入国、衛生関係法令の違反を防止するために必要な権限を行使することを規定していたが、1991年に当該項目を改正して、天然資源に関する法令違反を防止するために必要な権限のみを行使するように改めた。
(23)
排他的経済水域における漁業を許可するにあたって、船舶への補給行為に関する事項を届け出ることを条件としている国は多い。例えば、わが国は、「排他的経済水域における漁業等に関する主権的権利の行使に関する法律」第2条2項で、船舶への補給を「漁業等付随行為」としており、第9条では、「外国人は、排他的経済水域において、外国人以外の者が当該水域において行う漁業または水産動植物の採捕に係る漁業等付随行為を行おうとするときは、農林水産省令で定めるところにより、漁業等付随行為に係る船舶ごとに、農林水産大臣の承認を受けなければならない。」と規定している。もとより、このような規則は、ギニアが行ったような、密輸取締りを排他的経済水域で行おうとするものではなく、漁業に関する規制の一環として規定されているものである。
以上のように、国家実行からみて、排他的経済水域における洋上補給そのものへの管轄権行使を、排他的経済水域における沿岸国の権利として行っている国は、ギニア以外にはない。関税その他の財政事項についての管轄権行使を規定している国は若干あるものの、ナミビアのように、その規定を削除する国があるように、一般的な趨勢とはいえない。
わが国の国内法令が示すように、排他的経済水域における操業許可を出す際の、外国漁船の操業条件として、補給行為について承認を受けることを求めることはあり得る。しかし、排他的経済水域の設定目的上、沿岸国の資源・エネルギー開発を中心とした権利に限定するかたちで国家実行が形成されている現在においては、ギニアのように関税をかけることについては合法性に疑問がある。
また、サイガ号事件のように、漁船による常習的な密輸が存在する場合に、操業許可の対象となった漁業に関連しない行為を水域内で行っていることについて、取締りの対象とすることも、漁船に対して排他的経済水域で一般的に認められている臨検・捜査の範囲内では可能であろうが、漁船の航行の自由とのバランスを考えた場合に、少なくとも処罰をともなう取締りは、排他的経済水域における沿岸国の権限行使としては、困難であろう。