2.事実の概要
(1)サイガ号拿捕の経緯
サイガ号は、セント・ヴィンセント・アンド・グレナディーン(以下セント・ヴィンセントと略す)に暫定的に船舶登録がなされた5,700トンの給油タンカーである。事件当時は、キプロスの海運会社が所有し、イギリスの操船会社が運行、スイスの海運会社が傭船して、スイスの石油会社所有の軽油を積載していた。同号は給油船として、ギニアをはじめとする西アフリカ沿岸で、漁船等に燃料を補給していた。乗員はウクライナ人の船員21名とセネガル人のペンキ職人3名であった。
同号は、1997年10月24日に、軽油約5,400トンを積んでセネガルのダカール港を出航、10月27日にギニア・ビサウの排他的経済水域からギニアの排他的経済水域に入域し、同日、ギニア領アルカトラス島の沖合約22カイリの洋上で、ギニアの排他的経済水域における操業許可を得て操業中のセネガル船籍の漁船2隻とギリシア船籍の漁船1隻の計3隻に対して軽油を供給した。サイガ号はこれら3隻に対する給油の後、他の漁船に給油を行うために、事前に決められた場所に向かったが、その後、スイスの荷主の指示で、ギニアの排他的経済水域を出て、別の場所に進んだ。
10月28日にサイガ号は、ギニアの排他的経済水域外のシエラ・レオネの排他的経済水域内で、給油を行うことになっていた漁船の到着を待って漂泊しているところを、ギニアの警備艇から停船命令を受けたが、逃走したため攻撃を受け、乗組員のうち2名が負傷した。後にギニアの当局者がサイガ号に乗船し同号は拿捕された。同号と乗組員はギニアのコナクリに連行された。船長は拘留されたが、負傷した2名の乗組員は、11月1日に、治療のためダカールへ行くことが許された。船長は1997年12月10日に起訴された。その後、数人の乗組員は釈放されたが、船長および6名の乗組員は1998年2月28日にサイガ号が釈放されるまでコナクリに留め置かれた。積み荷の軽油約5,000トンはギニア当局によって差し押さえられた。
(2)
セント・ヴィンセントは、ギニアに対して、船長・乗組員と船体の釈放を要求したが、ギニアが受けいれなかったため、1997年11月13日に、国連海洋法条約292条にもとづき、サイガ号とその乗組員の速やかな釈放を求めて国際海洋法裁判所に提訴した。ギニアは、本件が、国連海洋法条約の排他的経済水域制度にしたがった国内法令の適用であったと申し立てた。そのため、裁判所は、海洋法条約第73条に基づいて、即時釈放の管轄権を認め、1997年12月4日、保証金の額を決定したうえで、サイガ号と乗組員の釈放をギニアに対して命令した。(サイガ号〈第1号〉事件)
(3)
第1号事件の即時釈放とは別に、両国は、サイガ号拿捕の合法性等に関する実体的争点を国際海洋法裁判所に付託することに合意した。