2-2.軌道系交通システムの変遷と計画
1)1891年:鉄道のはじまり
スペイン統治時代の1891年3月24日にマニラ鉄道会社(Manila Railroad Company:PNRの前身)によりManila-Bagbag間45kmが開業したのがマニラ首都圏の鉄道のはじまりである。
翌年1892年にはManila-Bagbag-Dagpan間で営業を開始した。スペイン統治時代(1890年代後半)の鉄道延長キロは計195.4kmに達した。
2)〜1940年頃:鉄道の最盛期
鉄道開業以来、鉄道の路線は延長が続けられ最盛期には1,296kmの路線で運行が行われた。鉄道の事業主体であるマニラ鉄道会社は他に宿泊業,バス事業等も行う総合交通事業者となり、順調な経営が行われていた。
3)1950年代後半:鉄道の衰退
これまで順調な鉄道事業であったが、1957年にマニラ鉄道会社が単年度赤字に転落し、以後、給料の遅配,ストの頻発等が進み鉄道は衰退の一途をたどる。
経営悪化の原因は、それまでのモータリゼーションが、1960年代の日比友好道路の進展等によって一層刺激・促進され、交通政策の軸が道路交通の方向に大きくシフトされたことが挙げられるが、メンテナンス不備による路線の荒廃と廃止、台風・火山等自然災害で被害の生じた区間の放棄等により、営業キロ・列車キロが縮小し、それに伴って旅客の減少という悪循環が起こってしまった。さらに、効率化という名の下に列車(本数=列車キロ,両数=車両キロ)を切り捨てることとなったため、旅客・貨物離れが一層拡大したことも大きい。
P.F.E.Marcos政権発足直後の1965年、政府は頻発するストの解決と経営の建て直しを図るため鉄道国有化法を国会に提出、鉄道施設その他一切が政府に買収されPNR(フィリピン国鉄)が発足した。
4)1977年:MMETROPLANの策定
1960年以降、地方から職を求めて流入する人々や人口の自然増加により、人口の拡大が著しく伸び、首都圏内に於いて必然的に交通量の増加をもたらした。しかし道路の整備(容量増加速度)は、この交通量の増大速度に追いつかず、慢性的な交通渋滞となって市民生活に大きな影響を及ぼし、加えて自動車の排気ガスによる大気汚染も深刻化した。
この状況を打開するため1976年1月から1977年2月、世界銀行の融資で、政府関係者とコンサルタントが共同してマニラ首都圏の交通マスタープランの計画を策定した。これはMMETROPLAN(Metropolitan Manila Transport, Land Use&Development Planning Project)と呼ばれ、この計画には、環状線道路建設,首都圏の車乗り入れ制限,公共交通機関(バス,ジープ二一)の改善に加えてLRTシステムの導入(4路線)がはじめて提案された。
5)1984〜5年:LRT1号線の開業
MMTROPLANでは、LRT4路線が提案されたが、このうち最優先路線としてLRT1号線が選定された。
LRT1号線の選定理由として
[1]最も需要が多い路線である
[2]この沿線は歴史的に古くから定住された地域で収入の低い人たちが多く住む、いわゆる下町であり、この人たちの便に供するため等があげられる。
1979年には、公共事業・運輸・通信省(MPWTC)によってLRTシステムの青写真が作成され、ターンキーベース(一括発注方式)による入札が行われた。
1980年には、LRT建設のため、マルコス大統領によって政府所管によるLRTA(LRT公社)が設立された。LRTAの初代大統領としてイメルダ夫人(Imelda Romualdez Marcos)が任命された。入札の結果、ベルギーが用意したソフトローンが功を奏し、落札した。
LRT1号線は1981年に本体工事がはじめられ、1984年12月にバクラランーセントラルターミナル間6.98kmで部分開業し、1985年5月には全線開業が行われた。
6)1989年:LRT1号線の輸送力50%増強計画の策定
LRTAの所有車両数は32編成(64両)でラッシュ時には5分間隔で運転している。車両は1編成2両で1両は長さ30m,幅2.5mで定員374人/両、750DCとなっている。しかし需要の増大で車両不足に陥ってしまった。
開業後4年後、1989年LRTAはLRT1号線の50%輸送量増強プロジェクトを民間資本の利用によるBOTにて実施する計画を打ち立てた。しかし、資金調達や政府側の責任問題のあり方などによって民間会社が消極的となって成功しなかった。結局、従来通りのLRTAによって、日本の円借款を利用して建設することになった。
50%輸送力増強の内容の中心は、28両の追加によって、現在1編成2両を1編成3両にすることである。車両はエアコン付きだが、運転席なしである。すなわち旧車両の間に新車両を挟んで1編成にする予定であった。しかし、車両寿命を考えると旧車両と新車両の混合編成では将来支障があるということで、結局は旧車両と新車両は別々に編成を組むことになった。旧車両は1編成3両となり、21編成,新車両は1編成4両となって、7編成となった。
旧車両の1編成18,000人/時/片が、新車両投入によって、27,000人/時/片の輸送力アップとなる。車両の増加によって、変電所の容量アップ,信号機の増設,車両基地の拡張などが行われ、1999年までに終了した。
7)1999年:LRT3号線の開業
マニラ首都圏の主要幹線道路の中で、最も交通量の大きい区間はノースハイウェーから環状幹線道路C-4(EDSA)に入り、Quezon市から東寄りに半円形にマニラ首都圏を通過しサウス・スーパーハイウェーに抜けるルートである。EDSAは最大片面6車線の環状道路であるにも関わらず、終日混雑し、マニラ首都圏で渋滞の最も激しい区間である。そこでこの中央分離帯と上空を活用し、鉄道を建設することによって交通渋滞を緩和することを目的として民間資本の活用を視野に入れて計画された。
1992年4月、政府とMRTCの間でBLTの合意書が締結され、BLT方式(Built-Lease-Transfer)での実施が決定した。
1996年から工事着手し、1999年12月に部分開業,翌2000年にはNorth Ave-Taft間の全線16.8kmで運行を開始した。
8)2003年予定:LRT2号線の開業
LRT2号線は、LRT1号線の開業4年後の1989年に計画・設計が立案され、BOT方式で実施する計画であったが、資金調達や政府の責任問題のあり方などによって民間会社が消極的となって成功しなかった。結局、従来通りのLRTAによって、日本の円借款を利用して建設することになった。
1993年には、海外経済協力基金(OECF)によってLRT2号線の設計がコンサルタントに発注された。
1997年には本体工事が着工となったが、入札上の問題,地権者との交渉等に手間取り、当初の工事予定と比較し3年も遅延してしまった。
9)将来計画
マニラ首都圏では1996〜1999年にかけて、JICAの協力のもとでMMUTIS(マニラ首都圏総合都市交通改善計画)が策定された。その中では、以下の軌道系ネットワークプランが中心となって位置づけられており、将来的なネットワークは別図のとおり計画されている。
表 提案路線(MMUTIS)
Project Name |
MRT Line 2
Extension (West) |
MRT Line 2
Extension (East) |
MRT Line 4
(Phase1) |
MRT Line 6
(Phase1) |
Route |
Recto St.-North Harbor |
Santolan St.-Masinag |
Old Bilibid-Batasan |
Baclaran-Zapote |
Route Length (km) |
2.5 |
4.8 |
15.1 |
12.0 |
Implementing Body |
LRTA |
LRTA |
French Consortium (Sofretu etc.) |
PEA/TMG Consortium |
Estimated Project Cost (US$ million) |
62.1 |
212 |
590 |
616 |
Funding Source |
OECF |
OECF |
BOT |
JV scheme |
Scheduled Completion Year |
2000 |
2001 |
1999 |
2000 |
Project Status |
Proposal is under NEDA-ICC |
Proposal is under NEDA-ICC |
Revised Proposal is being evaluated |
Pre-F/S is under DOTC/PEA |
Remarks |
  |
  |
Phase 2 Extension from Batasan-Quirino Highway |
Phase2-6 Extension to south and reclamation project |
Project Name |
Manila Calabarzon Express (MCX) Rail (Phase1) |
Manila-Clark Rapid Railway System (MCRRS) |
Silangan Railway Express2000 |
Manila Airport LRT |
Route |
Tayuman-Calamba/Canlubang |
Fort Bonifacio-Clark |
Paco-Real |
Baclaran-Sucat |
Route Length (km) |
- |
100 |
95 |
- |
Implementing Body |
Ayala Land Inc.(Sponsor) |
North Luzon Railways Corp.-North Rail (BCDA/PNR/Private Sector) |
DOTC/Marilaque Commission |
Jefferrie's Bank/Lord Development Ltd. |
Estimated Project Cost (US$ million) |
480 |
2000 or more (for Phase 1B only) |
154
(excl.ROW&RS) |
500 |
Funding Source |
BOT |
JV |
BOT |
BOT |
Scheduled Completion Year |
2000 |
2000 |
2000 |
- |
Project Status |
Unsolicited proposal is being evaluated |
D/D |
F/S proposed for US-TDA |
Pre-F/S is on-going |
Remarks |
Extension to Batangas City,Sta.Cruz,Lucena |
Extension to San Fernando-Subic,Clark-Laoag City,Tarlac-San Jose City |
  |
  |
(1)LRT3号線の延伸
LRT3号線はTaft〜North Avenue間16.8kmであるが、North Avenue〜Monumentoまでの5.2kmを延伸し、LRT1号線と結節させようというものである。
(2)LRT1号線の延伸(LRT6号線)
LRT1号線の始点駅Baclaranから南下し、Cavite地区へ延伸するものである。延長12km、全線高架構造物の複線電化である。カナダの民間業者とLRTAがJVで実施することになっている。
(3)LRT4号線の計画
2号線と同様に始点駅はD.Jose付近からケソン市に向かうもので、Quezon Avenue大通りの上を高架で走らせるものである。延長は、Bilibid〜Batasanまでの15.1km。
(4)North Rail
マニラ首都圏の住宅地域を通り、既存のPNRの路線を利用し、元のクラーク空軍基地までの延長95kmを結ぶものである。
(5)MCX(PNR South Line)
PNRの南線をリハビリし、Tutuban〜Calamba間56kmを通勤列車として利用させるものである。
(注)上記の軌道系の計画プロジェクトは全て民間資金を利用してBOT方式を採用したいというフィリピン政府側の意向である。