2-3.新しい都市交通(LRT)の概要
1)LRT1号線(通称LRT)
(1)概要
 LRT1号線は1985年に全線開業した路線で、マニラ市の旧市街を南北に貫き、Baclaran-Monumento間を結ぶ約14kmの路線である。
 運賃は12ペソ均一制で、窓口でトークンを購入し、改札を通る方式である。
(2)車両
 開業当初の車両はベルギー製で、現在は1編成3ユニット(定員1,122人/編成)で運用されている。エアコンは装備していないが、近い将来には装備される予定である。
 また、1999年に事業完了した輸送力50%増強工事により新たに投入された車両は韓国製で、1編成4ユニット(定員1,358人/編成)で運用されている。新車両にはあらかじめエアコンが装備されている。
(3)構造
[1]軌道構造
 営業区間は全線高架構造である。軌間は標準軌である。
[2]駅舎構造
 バクララン駅,セントラル駅の2ヶ所のターミナル駅は2層式構造(コンコースあり)であるが、一般駅は1層式(コンコースなし)である。
(4)事業の推進体制
建設から運営に係わる事業の推進体制は以下のとおりである。
 事業の推進体制
(5)利用者数
 開業から1994年まで増加を続けていたが、その後の運賃値上げ,LRT3号線の開業等があり、ゆるやかな減少傾向にある。2000年には1日平均31万人/日の利用がある。営業キロ当たり2.2万人/日であり、非常に混雑している状況にある。
 ※日本のゆりかもめで、営業キロ当たり約8,000人/日である。
表 LRT1号線の輸送状況の推移
| 年 | 年間乗車数 (百万人)
 | 1日平均乗車数 (万人)
 | 1日最高乗車数 (万人)
 | 最高乗車日 (月・曜日)
 | 
| 1988 | 108.0 | 29.6 | 42.7 | 12月・水曜 | 
| 1989 | 116.8 | 32.3 | 46.1 | 12月・水曜 | 
| 1990 | 127.8 | 35.2 | 48.2 | 10月・水曜 | 
| 1991 | 120.1 | 33.1 | 47.7 | 1月・水曜 | 
| 1992 | 120.3 | 33.0 | 47.3 | 12月・火曜 | 
| 1993 | 129.1 | 35.6 | 50.4 | 12月・水曜 | 
| 1994 | 145.8 | 40.3 | 52.8 | 12月・月曜 | 
| 1995 | 135.9 | 37.7 | 50.1 | 2月・水曜 | 
| 1996 | 143.3 | 39.6 | 54.3 | 12月・月曜 | 
| 1997 | 134.4 | 37.2 | 52.9 | 12月・水曜 | 
| 1998 | 127.9 | 35.8 | 49.6 | 1月・金曜 | 
| 1999 | 129.3 | 35.7 | 50.2 | 12月・水曜 | 
| 2000 | 102.4 | 31.0 | 45.8 |   | 
 
出所:Kye Performance Indicators,LRTA等を整理
出典:フィリピンにおける鉄道を取り巻く最新情報(JlCA専門家 伊藤氏作成レポート)
(6)収支状況
 2000年営業損益ベースでみると、営業経費を営業収入が上回るが、最終損益ベースでみると大幅な赤字となっている。その要因は年間1,198.4百万ペソの営業外経費(年間の営業収入に相当)で、このうち、約6割が利息支払いが占めていることが考えられる。
 
(7)現在〜将来の取り組み
[1]これまでの取り組み:輸送力50%増強工事
 LRT1号線は開業4年後の1989年に増加する輸送需要に対応するため、車両の追加投入,及び変電所の容量アップ,信号機の増設,車両基地の拡張等を実施し、1999年に完了している。
[2]将来の取り組み
a.輸送力100%増強工事
 50%アップしても、さらに需要の増加があり、LRTAは再度の輸送力増加のプロジェクトを実施することになった。2001年現在、コンサルタントの審査中である。このプロジェクトの中心は、新車両を12編成,48両を新規投入することになっている。
表 LRT1号線の輸送力の推移
| 開業時 | 1編成(定員748人)18,000人/時/片 | 32編成(1編成2両) | 
| 50%アップ | 1編成(旧車両定員1,122人,新車両定員1,358人) 27,000人/時/片
 | 21編成(1編成3両) 7編成(1編成4両)
 | 
| 100%アップ | 1編成(同上)40,000人/時/片 | 21編成(1編成3両) 19編成(1編成4両)
 | 
 
b.その他
・初期型車両の冷房化
 現行車両の機能更新の一環として、初期型車両の冷房化もあわせて行われている。
・自動改札精算機化(区間距離制への移行)
 改札及び券売業務の近代化及び運賃制度の変更に伴う業務近代化のため、非接触式改札機への拡張性も視野に入れた自動改札精算機化(AFCS)プロジェクトが進められている。
・バクララン以南への延伸
 LRT1号線の始発駅Baclaranから南下し、Cavite地区へ延伸するものである。延長12km,全線高架構造物の複線電化である。カナダの民間企業とLRTAがJVで実施することになっている。
表7 LRTA(軽量鉄道公社)比較損益計算書(1999/2000)
(単位:千ペソ)
|   | 費目 | 1999年 | 2000年 | 増減(00-99) | 比較(%) | 
| 鉄道営業利益 | 総収入 | 1,191,688 | 1,105,813 | (85,875) | 92.8 | 
| 払い戻し | 0 | 0 | 0 |   | 
| 割引 | 384 | 593 | 209 | 154.4 | 
| 純営業利益 | 1,191,304 | 1,105,220 | (86,084) | 92.8 | 
| 鉄道営業直接経費 (METRO運営経費)
 | 人件費 | 399,158 | 274,573 | (124,585) | 68.8 | 
| 資材・機材 | 75,279 | 79,767 | 4,488 | 106.0 | 
| 経常経費 | 58,620 | 146,178 | 87,558 | 249.4 | 
| 動力購入(電力) | 123,780 | 114,228 | (9,552) | 92.3 | 
| 管理費 | 5,000 | 2,917 | (2,083) | 58.3 | 
| 合計 | 661,837 | 617,663 | (44,174) | 93.3 | 
| 鉄道営業間接経費 (LRTA運営経費)
 | 人件費 | 11,809 | 49,185 | 37,376 | 416.5 | 
| 保守その他経費 | 83,626 | 172,334 | 88,708 | 206.1 | 
| 合計 | 95,435 | 221,519 | 126,084 | 232.1 | 
| 鉄道営業経費合計 | 757,272 | 839,182 | 81,910 | 110.8 | 
| 鉄道営業損益 | 434,032 | 266,038 | (167,994) | 61.3 | 
| 鉄道営業外利益 | 広告 | 0 | 91 | 91 |   | 
| 賃貸 | 21,289 | 19,983 | (1,306) | 93.9 | 
| 配当 | 16 | 17 | 1 | 106.3 | 
| 利子収入 | 55,447 | 43,956 | (11,491) | 79.3 | 
| その他 | 6,433 | 760 | (5,673) | 11.8 | 
| 合計 | 83,185 | 64,807 | (18,378) | 77.9 | 
| 鉄道営業外経費 | 減価償却費 | 336,518 | 324,191 | (12,327) | 96.3 | 
| 公社債償還手続経費 | 26,931 | 26,931 | 0 | 100.0 | 
| 利息支払 | 567,486 | 847,271 | 279,785 | 149.3 | 
| 合計 | 930,935 | 1,198,393 | 267,458 | 128.7 | 
| 鉄道営業外損益 | (847,750) | (1,133,586) | (285,836) | 133.7 | 
| 経常損益 | (413,718) | (867,548) | (453,830) | 209.7 | 
| 経常外利益 | 補助金 | 0 | 0 | 0 |   | 
| 株式配当 | 1,471 | 213 | (1,258) | 14.5 | 
| 為替利益 | 5,138 | 496 | (4,642) | 9.7 | 
| 資機材売却 | 1,478 | 0 | (1,478) | 0.0 | 
| その他 | 10,799 | 10,799 | 0 | 100.0 | 
| 合計 | 18,886 | 11,508 | (7,378) | 60.9 | 
| 経常外経費 | 為替差損 | 1,233 | 9,156 | 7,923 | 742.6 | 
| 経常外損益 | 17,653 | 2,352 | (15,301) | 13.3 | 
| 最終損益 | (396,065) | (865,196) | (469,131) | 218.4 | 
 
出所:Comparative Income Statement for the Month needed December 31,2000 and 1999
(注)()内はマイナスを示す。
出典:フィリピンにおける鉄道を取り巻く最新情報(JICA専門家 伊藤氏作成レポート)
【参考】LRTA設立の歴史と経緯
 マニラ首都圏の交通問題が大きく取り上げられるようになり、マルコス政権時代の1977年に世銀のマニラ首都圏マスタープラン(MMETROPLAN)の見直しにおいて、最初に軌道系システムの役割が検討された。その中で軌道システムは路面電車が考えられ、主要交差点のみ立体交差として立案された。
 この計画に沿って国際入札が行われ、日本を始め世界各国から応札があり、応札条件には資金融資も含まれていた。建設に当たって、政府はDOTC(運輸通信省)内にLRTAという組織を設立し、ここを中心として事業が進められた。初代のLRTA総裁にはマルコス夫人イメルダがその任に当たった。
 イメルダ夫人はベルギーの援助を引き出し、ベルギー業者が中心となって路面電車が建設されるはずだった。ところが将来のマニラ交通事情を考慮すると、全線高架案が適切ではないかという案が急浮上し、LRTAとベルギーとの間で計画変更が行われ、ヨーロッパで採用されているLRTシステムが採用された。
 したがって、LRTシステム導入のためのF/S調査は実施されなかった。これがその後のマニラLRT1号線に大きな影響を与えることになってしまった。
 首都圏を縦断に走るLRT1号線は延長14km、総工事費660億円で建設された。1984年に部分開業が行われ、1985年5月に全線が開業した。運営は同国の電力会社Meralco社の子会社であるMeralco Transit Organization Inc.(Metro)に委託された。その後同社は違法ストを決行したのを機に、解散させられてしまった。現在、運転はLRTA自ら行い、施設・車両の保守だけをRailtech社が行っている。
 現在、LRT1号線は経営も順調に行われ、乗客数も1日30万人以上も運んでいる。首都圏の人口増加、経済活発化に伴い、初期投入された1編成2ユニット連結ではすでに輸送力が不十分となり、1999年には3ユニットとなって輸送力が増強された。しかしそれでも需要が多く、現在4両編成の車両導入が計画されている。
 こうした需要予測の大きな誤り、システム選定の誤りは1980年当初、LRTシステム導入のためのF/S調査が実施されなかったことが大きな要因となっている。
LRT1号線
| 実施機関 | LRTA(Light Rail Transit Authority) | 
| 工事期間 | 1981年〜1984年 | 
| 開業年次 | 1984年12月 部分開業/1985年5月 全線開業 | 
| 営業キロ数 | 13.95km | 
| 起点・終点 | Monumento⇔Baclaran | 
| 駅数 | 合計18駅 | 
| 駅・ホーム構造 | ターミナル:2層式(2階部分:商業施設・コンコース、3階部分:ホーム) その他:1層式(コンコースなし)
 | 
| 軌道構造 | 構造形式 | 全線高架・複線 | 
| 高架部構造 | [1]スパン:平均25m [2]桁形式:(標準部)4主桁、T型PC桁
 | 
| 軌道部構造 | [1]構造:バラスト  [2]軌間:標準軌 [3]レール:50kg/m   EB50TRail
 | 
| 設計軸重 | 10.7ton | 
| 運転・制御 | 閉塞方式 | 自動閉塞 | 
| 運転制御 | ATS設置 | 
| 列車制御 | 中央制御を設置する予定 | 
| 運転時隔 | (設計)90秒 (実運転:ピーク時)141秒
 | 
| 電車線・電力 | き電電圧 | 750Vdc | 
| 列車 | 種類 | 【当初車両】 | 【増備車両】 | 
| 列車編成 | 3ユニット1編成 編成長:87.85m
 | 4ユニット1編成 編成長:105.7m
 | 
| 編成数 | 21編成 | 7編成 | 
| 輸送力 | 1,122人/編成 | 1,358人/編成 | 
| 運転速度 (車両性能)
 | 60km/h 減速度:(常用)1.3m/s2
 (非常)2.08m/s2
 | 60km/h 減速度:(常用)1.3m/s2
 (非常)2.08m/s2
 | 
| 車両 | 諸元 | 29.28m(L)×2.5m(W)×3.3m(H) | 26.00m(L)×2.5m(W)×3.3m(H) | 
| 台車 | 2連接台車/ユニット,コイルバネ | 1連接台車/ユニット,空気バネ | 
| 電動機 | 直流直巻電動機,回生ブレーキ | VVVF交流誘導電動機,回生ブレーキ | 
| ドア | プラグドア | スライドドア | 
| その他 | 強制換気、鋼製車体 | A/C,ステンレス車体 | 
| サービス水準 | 始発時刻 | 6:00 | 
| 終発時刻 | 21:00 | 
| 運賃制度 | ・12P均一(トークンを購入) ・両端の駅からそれぞれ3つ目までの駅を基点に両駅に向かうときに限り1P(コインを直接投入)
 | 
| その他 | ・運行及び設備保守は民間会社METRO Inc.が委託契約の元で実施 ・2000年7月には、運行及び設備保守を行っていたMETRO社は解散され、Reiltech社が行っている
 | 
 
2)LRT2号線
(1)概要
 LRT2号線はマニラ中心部のRectoと東部のSantolanを結ぶ約13kmの路線であり、都心部側の起点ではLRT1号線と近接し、途中のCubaoでLRT3号線と交差する。
 1997年に工事着工したが、途中、入札上の問題,地権者との交渉等に手間取っているが、2003年開業に向けて工事が進められている。
 
(2)車両
 主要部品は東芝製で車体は韓国製である。
 MC+M+M+MCの4両編成となっている。
 車両長23m,巾3.2m,定員1,660人のMRTである。
 
(3)構造
[1]軌道構造
 営業区間は大部分が高架構造であるが、一部地下構造がある。軌間は標準軌である。直結軌道を採用し、中空ボックス桁の上に直接軌道が設置されている。
[2]駅舎構造
 11駅中、10駅がコンコース付きの高架駅,1駅が地下駅となっている。全駅が相対式ホームでホーム長は100mである。
(4)事業の推進体制
 計画当初はBOT方式で実施する計画であったが、資金調達や政府側の責任問題のあり方などによって民間会社が消極的となって成功しなかった。結局、従来通りのLRTAによって、日本の円借款を利用して建設することになった。将来的な運営主体,運行及び保守の体制等は現時点では明らかではない。
(5)将来的な取り組み
・東西方向への延伸
 MMUTISの中では、東西方向への延伸計画として、東側ではSantolan-Masinag間(4.8km),西側ではRecto-North Harbor間(2.5km)が位置付けられている。
 
【参考】LRT2号線建設の経緯
 LRT2号線は1980年代後半から政府内でも計画されていたものである。一時期においては、BOTで建設するという政府の計画もあり、その入札も行われた。BOTならば政府の負担が少ないだろうと考えられたからと思われる。しかし札を空けてみると、日本商社が1社だけの応札だったため、政府もBOT方式を断念したという経緯がある。
 一方、LRT1号線ではその建設のため多大な負債を被ったことから、その反省を基に、低利の借款を求め、建設費全額に対して日本からの円借款を適用することになった。総延長13km、総建設費730億円を投入し、LRTAが中心となって建設事業を進めてきた。
 1996年、片平エンジニアリング、トーニチコンサルタントなど日本のコンサルタントが中心となって詳細設計が実施された。設計は順調に進み、コンサルタントの作成した入札図書に基づいて入札が実施された。建設は4つのパッケージに分割され、P1は車両基地、P2は下部工、P3は上部工、P4は車両、軌道、システムである。1997年、第1回の入札が行われた。
 P1、P2、P3という具合に入札は順調に進められた。しかしその後、大統領の政権交代があったため、P4の入札は大幅に遅れてしまった。大きな理由は下記の2つであった。第1番目は、フィリピン国では政権が交代するとLRTA総裁以下、幹部連中は全員交代するという風習がある。第2番目に、P4はメーカー・商社にとって最も重要なパッケージである。このため、落選した1グループが「不公平入札だ」と意義を申し立ててきた。こうした事件が重なり、再入札が行われたりして、約1年半近いブランクが生じてしまった。
 建設着手してから5年以上の月日が経つが、同線の開業にはまだ数年の月日が必要とされている。
LRT2号線
| 実施機関 | LRTA(Light Rail Transit Authority) | 
| 工事期間 | 1997年〜2003年予定(1997年11月15日着工式) | 
| 開業年次 | 2003年予定 | 
| 営業キロ数 | 13.00km(Santolanから車両基地迄のアクセス:0.87km) | 
| 起点・終点 | Santolan⇔Recto | 
| 駅数 | 合計11駅 | 
| 駅・ホーム構造 | 2層式:2階部分:商業施設・コンコース、3階部分:ホーム有効長=100m | 
| 軌道構造 | 構造形式 | 全線高架・複線 | 
| 高架部構造 | [1]スパン:25m(標準部) [2]桁形式:(標準部) 箱形単純PC桁
 (交差点)3径間PC連続桁
 | 
| 軌道部構造 | [1]構造:(本線)直結軌道[2]軌間:標準軌 [3]レール:UIC54kg/m・ロングレール
 | 
| 設計軸重 | 16.6ton | 
| 運転・制御 | 閉塞方式 | 固定閉塞(将来移動閉塞に拡張可) 車内信号
 | 
| 運転制御 | ATP、ATO、ATS(当面は有人運転) | 
| 列車制御 | 中央制御、AF(Audio Frequency Track Circuit)位置検知 | 
| 運転時隔 | (設計)90秒 (実運転:ピーク時)120秒
 | 
| 電車線・電力 | き電電圧 | 1,500Vdc OHC(Over-Head Contact)方式
 | 
| 列車 | 列車編成 | 4ユニット1編成 編成長:92.6m
 | 
| 編成数 | 18編成 | 
| 運転速度 | 80km/h 減速度:(常用)1.3m/s2
 (非常)1.5m/s2
 | 
| 車両 | 諸元 | 22,500mm(L)×3,200mm(W)×3,700mm(Loof Height) | 
| 台車 | 2軸ボギー・ボルスタレス・空気バネ付き ホイールベース:2300mm
 車輪径:850/790mm
 台車中心間距離:15,800mm
 | 
| 電動機 | VVVFインバータ制御・3相交流誘導電動機 | 
| ドア | 片側5扉・スライドドア | 
| その他 | 空調、ステンレス車体、車両寿命30年 | 
| サービス水準 | 始発時刻 |   | 
| 終発時刻 |   | 
| 運賃制度 |   | 
| その他 |   | 
 
3)LRT3号線(通称MRT)
(1)概要
 LRT3号線はマニラ首都圏の中で最も混雑の激しい幹線道路「EDSA」の中央分離帯と上空を活用して導入が計画され、1996年にPhase1の工事着工,1999年12月にNorth-Buendia間で部分開業し、2000年7月にPhase1のNorth-Taft間(16.9km)が全線開業した。
 運賃は区間距離制(9.5〜15ペソ)であり、窓口で磁気カード式の乗車券を購入し、改札を通る方式である。
 
(2)車両
 車両はチェコ製で、3ユニット1編成で運用されている。全車ともエアコンを装備している。
 
(3)構造
[1]軌道構造
 営業区間の約5割にあたる9.1kmが高架であり、6.0kmが地上,1.8kmが地下と地形条件や空間条件にあわせて構成されている。軌間は標準軌(1,435mm)である。
 高架部,地下部は直結軌道となっており、地平部はバラスト軌道である。
 他路線に比べて地形の起伏が激しく縦断勾配が大きいことが特徴である。
[2]駅舎構造
 終端部のTaft駅及び地上駅,地下駅は2層式構造であるが、高架駅は1層式構造である。(ただし併設されている歩道橋により道路を横断しなくても反対ホームに移動可能な駅も一部あり)
 また、地上からホームヘのエレベーターは一部の駅(Ortigas,Boni,Guadalupe,Ayala)を除き既に設置されている。
 
(4)事業の推進体制
 LRT3号線はBOT/BTLawにあるBLT方式(Build-Lease-Transfar)で実施されている。民間企業であるMRTCが資金調達,建設,所有し、インフラ等をDOTCがリースして運行を行う。DOTCは25年間に渡りMRTCに対してリース料(年額約1億ドル)を支払い、25年後に移管される契約となっている。フィリピンには、民間資本の活用を促進するためBOT/BT Lawが制定されており、本プロジェクトにも適用されている。これにより、MRTCには車両基地(用地はNational Housing Authority所有)の上空,コンコース等を活用した商業施設の開発権利が与えられている。
 
(5)利用状況
 開業当初は、平均乗車人員1日当たり5万人程度で、運賃が高水準であった1月は、2万人/日程度しか利用者がなかった。その後競合するバスの運賃水準に近づけるため、2月,7月の2度に渡り運賃値下げを行った。その結果、全面開業した7月20日以降は、15万人/日の大台を越え、12月には22.4万人/日となった。2001年に入ってからも順調に推移し、2001年5月には23万人/日(営業キロ当たり1.3万人/日)である。
 
(6)収支状況
 LRT3号線は乗客数の大幅な増加にもかかわらず、依然赤字営業である。3号線の乗客数は23万人/日,1日当たり旅客収入は3百万ペソ/日前後で、採算限界点である1日あたりの収入8百万ペソには及ばない状況にある。
 
(7)将来の取り組み
a.Phase-2(North〜Monumento)の実施
 LRT3号線はTaft〜North Avenue間16.8kmであるが、North Avenue〜Monumentoまでの5.2kmを延伸し、LRT1号線と結節させようというものである。
b.Airport Link
 LRT3号線の途中駅から枝線を設けて空港ターミナル3へ結ぶ延長6.5kmの空港線計画。
c.Makati Link
 マニラ市で最も近代的なビジネス街といわれるMakati地区にLRT3号線を乗り入れさせる路線の計画。
d.North triangele Commercial Development
 LRT3号線終点駅North Avenue駅を中心として面積16haの地域にホテル,事務所,デパート,スーパーマーケットなどの開発施設の計画。
表8.LRT3号線乗客数及び収入等概況(2000年)
| 年月 2000年
 | 旅客数 | 旅客収入 | 
| 月輸送人員 (千人)
 | 平均輸送人員 (人/日)
 | 月旅客収入 (千ペソ)
 | 平均収入 (ペソ/日)
 | 
| 1月 | 659.1 | 21,262 | 18,605.9 | 600,190 | 
| 2月 | 1,453.8 | 50,132 | 22,911.9 | 790,066 | 
| 3月 | 1,606.3 | 51,816 | 26,210.0 | 845,484 | 
| 4月 | 1,277.6 | 49,138 | 21,463.1 | 715,437 | 
| 5月 | 1,675.7 | 54,055 | 28,042.0 | 904,581 | 
| 6月 | 1,624.0 | 54,133 | 28,110.7 | 843,321 | 
| 7月 | 2,688.9 | 89,629 | 41,132.8 | 1,371,093 | 
| 8月 | 5,171.5 | 166,823 | 65,614.4 | 2,116,594 | 
| 9月 | 5,211.4 | 173,713 | 65,215.8 | 2,173,860 | 
| 10月 | 5,495.8 | 169,440 | 68,531.1 | 2,210,681 | 
| 11月 | 5,627.2 | 194,041 | 71,618.8 | 2,469,614 | 
| 12月 | 6,962.6 | 224,601 | 87,640.1 | 2,716,846 | 
 
LRT3号線乗客数及び収入等概況(2001年)
| 年月 2001年
 | 旅客数 | 旅客収入 | 営業 日数
 | 
| 月輸送人員 (千人)
 | 平均輸送人員 (千人/日)
 | 月旅客収入 (千ペソ)
 | 平均収入 (ペソ/日)
 | 
| 1月 | 6,851 | 221 | 88,040 | 2,840 | 31 | 
| 2月 | 6,546 | 234 | 80,426 | 2,872 | 28 | 
| 3月 | 7,477 | 249 | 91,887 | 3,063 | 30 | 
| 4月 | 6,251 | 240 | 78,200 | 3,008 | 26 | 
| 5月 | 7,119 | 230 | 87,779 | 2,832 | 31 | 
 
出典:フィリピンにおける鉄道を取り巻く最新情報(JICA専門家 伊藤氏作成レポート)
【参考】LRT3号線の建設とBLTについて
 本来ならば都市交通整備において、都市交通マスタープランという上位計画の下、各交通システムは建設計画や乗り換え施設など、整合性を図って推進されるものである。しかしマニラにおいては日本のような常識は通用しない。
 LRT3号線はLRT2号線より新しく計画された路線である。ところが前述したとおり、LRT2号線の開業が大幅に遅れてしまった。このためにLRT3号線の開業が先になってしまったという経緯がある。したがってLRT3号線はその建設に当たっていろいろ不利な情況に置かれてしまった。
 この実例を示すのがCubaoの交差点である。Cubao交差点はLRT2号線と3号線の交差する重要な交通結節点である。当初、LRT2号線が下を通り、LRT3号線が上を通る計画であった。ところが、LRT2号線の建設が遅れたため、LRT3号線が先に下を通してしまったのである。やむなくLRT2号線は上を通すことになってしまった。
 総延長16.9km、総建設費786億円を投じて1999年12月に開業したLRT3号線はBLT方式によって建設された。BLT方式とは民間事業者が資金を調達し、鉄道を建設し、これを政府機関に貸し付け、賃貸料を受け取り、リース期間後、鉄道施設を政府に引き渡す契約である。
 当初、LRT3号線もLRT2号線のときと同じように、政府はBOT方式で建設する計画であった。しかし、やはり民間事業者が手を上げなかったためBOTを断念したのである。そこで民間企業Metro Rail Transit Corporation(MRTC)がBLT方式を政府側に提案したことから、急遽LRT3号線の建設が具体化し、DOTCとMRTCの間で話し合いがまとまり、1996年初めに着工となった。
 MRTCはフィリピン民間企業グループが香港に設立した会社で、軌道、車両、信号、通信など鉄道施設一式を建設し、完工後25年間にわたって政府(DOTC)にリースし、賃貸料を受け取り、25年後、全ての施設を引き渡すことになっている。
 しかしここでもDOTCとMRTCの間でBLT契約交渉が長引き、約1年間の工事着手が遅れてしまった。だが、一旦契約が決まると、民間企業だけあって建設は急ピッチで進められ、約3ヶ年という短期間で開業にこぎつけたのである。
 現在、LRT3号線の運営事業はDOTCが直接行っているが、LRT1号線と同じように民間に委託したいと考えているようである。
 後日談になるが、調査団が面会したCCPSP(民営化支援協調評議会)では、LRT3号線のBLT方式は一方的にMRTC側に有利な契約になっている。政府は大きな負担を抱えてしまったと嘆いていた。
LRT3号線
| 実施機関 | MRTC(Monumento Rail Transit Corporation) | 
| 工事期間 | 1996年11月〜1999年 | 
| 開業年次 | 1999年12月  部分開業/2000年7月  全線開業 | 
| 営業キロ数 | 16.9km | 
| 起点・終点 | North Avenue⇔Taft | 
| 駅数 | 合計13駅(高架駅5,地上駅6,地下・半地下2) | 
| 駅・ホーム構造 | 3タイプ:高架  地上  地下(半地下) 相対式ホーム130m/島式ホーム210m
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| 軌道構造 | 構造形式 | 高架9.1km/地上6.0km/地下1.8km | 
| 高架部構造 | 単純T型PC桁 | 
| 軌道部構造 | [1]構造:地上=バラスト,高架=直結軌道 [2]軌間:1,435mm
 [3]レール:
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| 設計軸重 | 8.8ton | 
| 運転・制御 | 閉塞方式 | 自動閉塞 | 
| 運転制御 | ATP | 
| 列車制御 | CTC制御 | 
| 運転時隔 | (実運転:ピーク時)150秒 | 
| 電車線・電力 | き電電圧 | 750Vdc | 
| 列車 | 列車編成 | 3ユニット1編成 編成長:92.6m
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| 編成数 | 24編成 | 
| 輸送力 | 1,100人/編成 | 
| 運転速度 | 65km/h 減速度:(常用)1.01m/s2
 (非常)1.50m/s2
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| 車両 | 諸元 | 31.72m(L)×2.5m(W)×3.25m(Loof Height) | 
| 台車 | 2軸ボギー・3車体連接(片運転台) ホイールベース:1,900mm
 車輪径:700mm
 台車中心間距離:7,500mm
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| 電動機 | チョッパー制御・直流電動機 | 
| ドア | 片側5扉・プラグドア | 
| その他 | 空調、ステンレス車体、車両寿命30年 | 
| サービス水準 | 始発時刻 | 5:00 | 
| 終発時刻 | 22:30 | 
| 運賃制度 | 区間制(9.5ペソ〜15ペソ) | 
| その他 | コントラクター:Kaisen Engineering International (建設管理) 住友・三菱重工業 (建設・保守)
 CKD TATRA Ltd. (チェコの車両)
 J.P.Morgan,Credit suiss & Penta capital Investment (財務アドバイザー)
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4)路線別にみる相違点
(1)システム等の違い
[1]運賃制度
 1号線が均一制に対して3号線は区間距離制、1号線がトークン(コイン)に対して3号線は磁気カード式である等、制度,システム両面で異なる。なお、1号線の自動改札精算機化(磁気カード化)及び区間距離制への移向のためのプロジェクトが進められている。
[2]システム
 1号線,3号線がLRTに対して、工事中の2号線はMRTとして導入されている。このため、2号線は[1]車両の幅が広く,[2]き電電圧が1500VDC等の違いがある。
[3]軌道
 軌間は3路線とも標準軌(1,435mm)で共通である。
[4]車両
 借款等との関係上、車両の製造国が路線毎に異なる。
 
(2)事業の推進体制の違い
 1号線,2号線では上下分離方式(インフラ等の整備:Public/運行・保守:Private)に対して、3号線ではBLT方式(Built-Lease-Transfer,インフラ等の整備:Private/運営:Public)を採用している。
 なお、BLT方式に対する地元の行政担当者の評価は低い。理由として政府側の負担が大きく、その割りに民間側に需要変動等に対するリスクがないこと等があげられる。