ハロン地域における航行安全および海洋環境保全について
JTCA調査団
海事コンサルタント
菅野 瑞夫
1 はじめに
○船舶運航の特質と事故
フェールフェースを目指し二重三重の安全措置を取っている航空機でもいまだに搭乗員のミスによる事故が発生している。
船舶については、依然として各地で事故が発生しており、特に最近は、船舶の大型化を反映して、時には大規模な海上災害を発生させるものがみられる。
船舶については、運航技術、運航支援の技術革新が進みハード面では大きな進展がみられるが、運航の安全確保面では、航空機に比べて、まだまだ人間の判断の要素が多い。
“人間はミスをする動物である”このことを肝に銘じて置くことが肝要である。
日本の船舶海難の7割は過失によるものである。IMOの統計でも8割を過失としている。それ故、海上の航行環境を整備し、また操船者が何時でも的確な情報を把握し、適正な判断をできるように、船舶の航行援助施設などについて総合的な安全対策を確立することが重要である。
2 海難
以下、参考までに日本と世界の海難の状況について述べる。
(1)日本における海難
○海難の現状
・船舶海難は長い間減少を続けていたが、最近増加の傾向を示している。主要因はプレジャーボートの海難の増加である。この点ベトナムとは異なると思われるが、貨物船やタンカーの事故については、共通点があると思われる。
・貨物船、タンカーの2種類の海難は、プレジャーボートや漁船に比べれば少ないが、発生数は横這いで減少はしていない。見張り不十分によるものが多い。
貨物船やタンカーでは、乗揚げが最も多く約半数を占め、次が衝突、機関故障と続いている。このなかには油による海洋汚染・災害を発生させるものがある。
・外国船の海難が多発している。外国船の海難では、機関故障が最も多く、続いて乗揚げ、衝突が続いている。
(2)世界の海難
○世界各地で海難が発生している。アジア地域では旅客船の海難が発生し多くの人命が失われるものが時々みられる。数年前、ヨーロッパで最新の大型フェリーの転覆や浸水による沈没海難が相次いで発生し問題となった。
大型タンカーの座礁、衝突、船体折損、火災などにより、大量の油が流出するものが毎年のごとく発生し、社会的に大きな問題となり、IMOにおいて海上災害防止対策が検討されている。
(3)船舶事故による海洋汚染・災害
○世界の事例
[最近の事例1]大規模なもの(タンカー)
・ERIKA:1999年、船体破断、フランス沖、油流出量19,800トン
・EVOIKOS:1997年、衝突、シンガポール沖、33,000kl、パイロット乗船
・SEA EMPRESS:1996年、座礁、英国港湾入り口、85,000kl、パイロット乗船
[最近の事例2]特異な環境汚染
・世界遺産であるガラパゴス諸島における汚染
2001年1月16日、エクアドル船籍のタンカーJESSICA(835トン)が座礁し、C重油など約680klを流出し、国際的にも極めて貴重な生態系・環境に被害を与えた。
原因は、通常この地域に油を輸送する船が修理であったため、ガラパゴス水域に不慣れなタンカーの船長が航路標識を見誤り座礁したもの。
○日本の事例
[最近の事例]大規模なもの(タンカー)
・DIAMONNDGRACE:1997年、座礁、東京湾内、流出量1,150kl、パイロット乗船
・NAKHODKA:1997年、船体折損、日本海、流出量6,240KL
・なお、日本においては、貨物船が衝突や乗揚げて多量の燃料油を流出し、海洋を汚染する事故が時々発生している。
・日本における船舶海難による油流出事故は、港湾の外で発生し、厳しい気象・海象によって油の防除作業は困難を極めるケースが多い。しかし、内海や港湾内における事故については、これら外洋に比べて防除資器材が有効に活用されているケースも多い。
○防除体制の整備と作業の実施
海上における大量の流出油の防除作業は、油の性質、海域の地理的状況、気象・海象の状況などによって異なる。
出動可能な各種船舶を使用し、各種の防除資器材を準備し、多くの作業員を動員して、これらの種類や能力などを十分に勘案して、その場・その状況に応じて適宜活用することとなる。
いわゆる、ワンパターンで油の防除に対処できるものではない。
○ブンタオにおける油流出事故
ハロン湾においてもこの種事故発生の可能性を示唆している。
この事故への対処を十分に検証して、ハロン湾における防除体制整備に役立てることが望まれる。