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参考資料 [セミナー資料
港湾開発上の課題−環境保全と航行安全対策
横浜国立大学教授
池田龍彦
1.はじめに
 市民生活を豊かにするためには社会全体の富を大きくする必要があり、そのための適切なレベルの経済成長は不可欠である。この経済成長を達成するためには、産業の育成及び活発化とともに、その活動を支援する社会基盤の整備が重要である。港湾は道路や鉄道等の交通インフラとともに最も重要な社会基盤の一つであり、ベトナム北部の開発にとってカイラン港の開発とその利用は最重要の課題と言える。
 港湾開発は臨海部及び内陸部において工業化を促進させ、雇用を促進し経済活動を活発化させるが、同時に地域に対してマイナスの効果を与える可能性を有している。それは工業化や都市化に伴ってもたらされる環境に対する悪影響の可能性と出入船舶数の増加による海難事故の発生の可能性である。
 日本は19世紀半ばの明治維新以来、幾多の紆余曲折はあったものの、結果的には急速な経済成長を遂げ今日に至っている。その中にあって、工業化の進展に伴って発生した公害を克服し、出入船舶数の増加にもかかわらず衝突などの海難事故を最小限に抑えている日本の経験と体制について述べる。
2.経済成長と社会資本整備の関係
1)明治時代〜昭和初期(1880〜1938):社会資本整備の誘発効果による貨物量の増大
 250年余の徳川幕府の鎖国政策から、1868年に新たに明治政府となり、鉄道・港湾・道路を始めとする交通基盤整備に力を入れた。その結果、経済が活発化し産業が興り、国内の貨物輸送量が飛躍的に増大することになった。発展の初期の段階では、社会基盤の整備が先行し、産業の振興が10年〜15年遅れて実現する典型的な例を示している。
2)戦後(1948〜1973):貨物量の増加に引っ張られた社会資本の整備
 第2次世界大戦で東京や大阪などの大都市は爆撃により大きな被害を受け、工業設備の被害も甚大だったが、交通基盤施設の被害はそれほど大きくはなかった。(港湾施設:10%、橋:4%、鉄道:8%等、何れも対1935年比較)これらの交通基盤施設は、落ち込んでいた経済活動に比べて余りある容量を有していて、その後の急速な経済回復を実現させる機動力となった。
 しかし、その後の継続する経済成長による貨物量の増加に対して、交通基盤施設の容量が不足する事態に陥り、施設整備が積極的に進められた。
3)拠点開発港湾の開発促進
 国土の均衡ある発展を目指して、全国各地に港湾を核とする臨海工業地帯の開発が促進された。過疎地を開発した苫小牧西港、鹿島港等、既存の港を拡張して整備した千葉港、京浜港、名古屋港、水島港、宇部港、北九州港等、数多くの開発地域が挙げられる。
4)コンテナターミナルの整備
 1960年代から始まったコンテナ化の波により、港湾貨物の取り扱い形態が革新された。このコンテナ化に対応して、コンテナターミナルが大港湾に整備され、港の背後圏が広がったことから、港湾間の競争が厳しく行われることとなった。現在では、コンテナ船の大型化により、ますます競争が激しくなっており、国内ばかりではなく、国際間の競争が激化している。
3.公害の発生
 製鉄業、石油化学コンビナート、農薬等の重化学工業の進展に伴い、工場からの排水や排気に含まれる有害物質の環境に与える影響が大きな社会問題となった。本来、これらの有害物質は処理され、取り除かれてから排出されるべきであったが、コストがかかること、従来から一般的に行われていなかったことから、処理されることなく排出され市民の人体に悪影響を及ぼすようになってきた。これらは、高度成長の歪とされ日本にとって極めて苦い経験である。これから経済成長を遂げようとする国では、この轍を踏むことなく環境に十分配慮した開発を行うことが重要である。
 日本では工業化の進展が与えた環境への負の影響のため、数々の問題が出現したが、その中でも4大公害訴訟と呼ばれる次の訴訟が際立っており、その後数々の環境保全に対する法律が定められ今日に至っている。その結果、1960年代から1970年代にかけての市民生活に悪影響を与えてきた劣悪な環境から、極めてクリーンな良好な環境へと大きく変わってきている。
 
1960年代末:四大公害訴訟
熊本水俣病、新潟水俣病、イタイイタイ病、四日市喘息
1958年:水質保全法、工場廃水規制法
1968年:公害対策基本法、大気汚染防止法、騒音規制法
1970年:環境関連14法の制定・改正(公害国会)
1978年:総量規制の導入
1993年:環境基本法
 
港湾開発に伴う工業化の進展による環境悪化を克服した例:
北九州市洞海湾の環境悪化と浄化事業の説明
(別途説明を行います)
4.航行安全対策に関する日本の体制
4.1港湾施設整備及び維持管理(泊地・航路を含む)
 港湾管理者、国土交通省港湾局
4.2水路測量・海図作成・水路通報
1)港湾管理者が工事完成の確認のための深浅測量を実施する。
2)海上保安庁水路部が海図補正のための水路測量を実施する。
3)港湾管理者が実施した深浅測量が海上保安庁水路部が実施する測量と同程度の技術レベルと判断される場合には、本データを海図補正に使用する。
4)新しい水路情報は海上保安庁水路部が水路通報にて周知を図る。
4.3航路標識整備及び管理
1)海上保安庁灯台部が航路標識の整備及び管理を実施する。
2)上記以外の航路標識は設置者の申請に基づき海上保安庁が許可する。
4.4海域環境の保全
1)港湾区域内の海域については、港湾管理者がその保全業務を行う。
2)それ以外の海域については、国がその保全業務を行う。また、海難事故等による災害に際しては、海上保安庁が主務となってその保全業務を行う。
4.5航行援助業務及び航行管制業務
特定の航路を通航する船舶及び港に出入港する船舶に対する航行援助業務及び航行管制業務は海上保安庁が実施する。
4.6海難救助
海上保安庁警備救難部が海難救助を実施する。
5.日本の進入航路における安全対策の実例
5.1航路幅・航路水深の確保
5.2航路標識の整備・管理
5.3航行管制の実施








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