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4.3 都市内公共交通の運行状況
4.3.1 市内路線バスの運行状況
(1)運行形態
 前述したように、デリーでの公共交通はバス交通に大部分を依存している一方で、CNG導入によるディーゼル車両の運行停止命令が下されたため、十分な車両供給が実現できず、供給不足となっている。元来、労働者の権利意識が強くバス事業者のストライキが相次いでいたが、CNG導入はバスの供給安定性の問題を増長させている。
 バス需要は非常に高く、ピーク時には常に満員で運行している。
 
・ 車掌制度
 車掌制度が現存している。乗客が非常に多いためワンマン・料金箱収集での運用では捌ききれないことが理由として大きい。また、車掌職の免許制度が法制化されている。
 
・ 車両のクオリティ
 一部の低床バスやCNGバスが輸入されたが、バスは自国生産であり、メーカーにはTATA、Ashoke Leylandなどがある。トラックの車台と共通で、フロントエンジン・後輪駆動であるため、低床化が困難である。
 前扉、後扉は外されており危険な乗車が見られるが、バス需要の高さ、エアコン未設置の状況、夏季の天候などを考慮すると当然の措置であるといえよう。但し、走行中は、車両の排出ガスが進入するため、下記などは特に劣悪な環境となる。また、定員は座席50、立席20であるが、一般的には100人程度の乗車で運行している。
 
・ サービスレベル、運賃
 現状、車内の清掃状況は、事業者による違いが大きい。DTCはバスのCNG化を進めている一方で、民間事業者の更新は遅れているからである。一部の座席が女性・老人優先席に指定されている。車内には路線案内、電装品などはまったくない。車体広告はデリー州交通条例で禁止されている。
 運賃は対距離制であり、統一されている。定期券、学生割引などの制度がある。
 
・ バスターミナル
 DTCはバスターミナル施設を24箇所整備しており、路線は各ターミナルを基点に構成されている。路線ごとに停留所が整備されているが、時刻表などの掲示はまったくない。ターミナルには路線案内所、定期券などの発券所が併設されており、職員は6時〜14時、14時〜22時の2交代制で勤務している。
 
・ 停留所
 バス需要が高いため、単路部では2〜3台のバスが停留できる大きさのバス停が多い。特に需要の高いバス停では、路肩上に交通島を設け、更に路肩の外側にバスベイを設置して2列停車できるバス停を用意している。
 
・ 車両管理
 DTCでは管理スケジュールが明確化されており、運転手による日々の点検、月1回のデポでの点検作業が実施されている。修理が必要な場合、修理待ち時間を最小化するよう、パーツごと取り外されてDTCのバス工場に送られ、バス工場からは交換部品が支給される(2tier system)。一方、民間事業者は運行距離ベースで収入が得られるため、維持管理へ残すとは最小化せざるを得ない。
 バスデポは市内に24箇所あり、それぞれに100〜150人のメンテナンススタッフが所属する。バス工場は1983年に設立され、650人のエンジニアが所属する。1年間に6000台のバスのオーバーホールを実施する能力がある。
 前述のとおり、デリーのバスは自国生産品であり、外国製品(400〜500万ルピー)と比較し価格も安い。一台当たりの導入価格は70〜80万ルピー(200〜250万円)である。
 
・ CNGバスの導入・運行形態
 CNGバスに関して、エンジン及び燃料系は欧米の自動車メーカーと技術提携(TATAはTelco、 Commens(米国系)、AshokeはEVACO(イタリア系)と提携)して生産しているが、シャシー・車体の設計は現状のままである。CNGエンジンは空冷で、ミキサ(混合気体燃焼)方式とリーンバーン方式の2方式を採用している。前者は2200台の導入に対し、後者は試験的で10台程度の導入である。1台につき8本のタンクを床下に搭載している。
 通常のバス1台の導入コストは100万ルピー(約270万円)であるが、CNGバス(シャシーのみ、車体の追加が必要。)の導入コストは、ミキサ方式で117万5千ルピー、リーンバーン方式で96万ルピーであった。
 DTCではCNG導入に際し、整備マニュアル、整備教育プログラムを新たに作成し、専門の教育センターをメーカーと共同で設立している。整備士、ドライバーは日常点検、整備、火災事故への対処(乗客の誘導方法、消火など)に関して講習を受ける。2001年度中に800人強の運転手、2000人強の整備士がこの講習を受講する計画になっている。
 触媒や人体への影響が大きいことから、CO濃度のチェックが日常点検項目に含まれている。
 CNG導入後のオペレーション上の問題として、給油の時間の長さ(7〜8分かかる)、供給施設の少なさ(2000台あたり9箇所)、供給コンプレッサーの故障、火災の問題(近所で火災が発生した際にガス供給がストップしたこと、など)、一部車両でのガス漏れセンサーの未整備などがDTCから挙げられている。CNGバスの故障は90件報告され、そのうち7件は火災になっている。CNGの燃料供給系統には72箇所の継ぎ手があり、一つ一つに燃料漏れの検査をする必要がある。
 
(2)DTCの運営効率化・解体について
 社会主義国の体制の影響で非効率なところも多い。バス事業の効率性の一指標である車両一台あたりの従業員(日本国内では1.8〜2.0人(国土交通省自動車交通局編「自動車運送事業経営指標2001」、乗合バス))数は、1990年代は9〜11人で推移していた。近年は改革を進めて2001年11月末では6.72人となったが、同月の収入4億1407万ルピーに対して支出が6億1847万ルピーと2億2千万ルピーの赤字であった。また、2000年度以降常に1億5千万〜2億2千万の赤字を出し続けており、DTCの効率化は重要な課題である。以下に、インド4大都市バス事業公社の経営効率に関する指数を示す。
表4-5 インド国内の公営交通企業の経営指標(2000-2001)
指標 単位 DTC
(デリー)
CTSC
(コルカタ)
BEST
(ムンバイ)
MTC-1
(チェンナイ)
MTC-2
(チェンナイ)
運行車両台数 6,028 1,235 3,432 1,473 1,346
平均車齢 6.50 6.93 9.94 4.77 5.27
平均車齢よりも
古い車両の割合
% 40.53 -- 21.78 2.64 8.70
車両効率 % 71.83 66.48 81.93 91.26 82.99
一台あたり
平均走行距離
km
/bus/day
167 128 194 208 202
積載効率 % 80.33 93.53 55.72 87.08 86.38
台数あたり従業員数 人/台 5.18 7.62 11.12 7.37 7.89
燃費(軽油) km/L 3.80 3.46 3.04 3.56 3.50
kmあたり収入   1549 955 2872 1660 1735
Kmあたり費用   2078 2290 3565 1907 1960
Kmあたり純益   -529 -1335 -693 -247 -225
出所:DTC経営統計、Ministry of Surface Transport
運営効率化
 DTCでは各種の経営に関する数値を収集している。各種の数値はデポを単位として集計され、月に一度、DTCの本部に提出される。DTCでは、収益の向上を図る目的で、以下の3指標を経営指標として採用している。
1. 車キロあたり労働コスト;(給与支払総額)/(総営業キロ)
2. 車キロ当たり収入;(全営業収入)/(総営業キロ)
3. 純益;(車キロ当たり収入)−(営業支出総額)/(総営業キロ)
 
 上記の指標はデポごとに集計され、最良の数値がそのままDTC全体の経営目標となる。
 まず1.については、現在、2001年5月時点での数値12.00rp/kmを採用し、各デポはこの数値を下回る必要がある。2.についても同様に18.04rp/kmを採用し、これを上回る必要がある。最後に、純益は各デポでプラスになる必要がある。各数値は2ヶ月に1回更新される。
 成績の悪いデポに対して改善メニューがあり、状況に応じて適用される。改善メニューを以下に示す。
 改善メニュー
・ 週1日、すべての営業を民間事業者の委託運行とする。(維持・点検が効率化される)
・ その他の日について95%の運行計画を民間事業者委託とする。
・ スタッフが可能であれば4シフトの運行を実施して(通常2シフト)、日・台あたり400Km程度の運行を目標に効率化を試みる。
・ 運行タイムスケジュールの徹底
・ 土日・休日などのシフトの効率化
・ 48時間シフトの導入
・ 回送運行の削減(ターミナルでの運転手交替の徹底)
・ 車両ベースの運行スケジュールの作成(回送運行の削減と類似)
・ 業務内容の見直しによる労働時間削減
・ 夜間の点検作業の実施
・ 民間委託に関する集計項目の見直し
・ その他(ドライバーからエンジニアヘの点検項目の連絡徹底など)
 
 また、この指標はデポ間の競争にも用いられる。1.の労働コストが最大のデポは最小のデポのスタッフと配置換えされるような取り組みが既に実施されている。
 また、DTC直営のバス、民間事業者による委託運行についても分離して集計され、民間事業者の計算結果は委託額の原単位に反映される。
 
解体・民営化
 DTCのチェアマンであるMahta氏は、DTCの解体案について、バス運行を行う運営部門、車両デポでの車両整備事業を中心とした整備部門、バスターミナルの運営を中心とした施設運用部門、整備工場における生産・整備を中心とした工場部門の4部門に分割し民営化する構想を示している。
 DTCは効率化のため職員の新規採用を控えており、特に整備工場の平均年齢は42歳と高齢化が進み、世代間の技術移転も滞っている。
 
(3)STAとDTCのバス事業形式の違いについて
 DTCはSTA傘下の組織であるものの、STAもDTCも両者で別形式のバス事業を行っている。
 DTCの事業方式は、自社車両による運行と民間事業者の所有車両を走行距離ベースで借り上げる方式の2種類で構成される。後者に関して、事業者はDTCから路線と運行スケジュールを割り当てられ、運行後に運転記録をDTCに提出し、運行料をもらう。事業者は自社車両にDTC指定の塗装、案内表示を施す必要がある。DTCのバス運行台数約5,200台のうち自社運行は2,500台、民間委託は2700台であり(ディーゼル規制がかかる以前の状況)、民間委託が過半数を占めている。
 STAは民間事業者に事業免許を付与する形式であり、Stage Carriage Permits、Blue Lineと呼ばれる。事業者は運行する起終点、経由地、台数などを申請し、STAから事業免許を受領した上で営業する。この事業免許は、1992年のDTCストライキでバス供給がストップしたことに対して応急措置として始められたが、現在でも未更新で営業を続けているものを含め3000台のバスがデリー市内を走行している。ブルーラインは明確な管理規定がなく、事業者のレベルも低いため事故が多い。STAはこのほかにContract Carriage Permit(工場バス、スクールバスなどの旅客輸送、10060件発行)、Goods carriage permit(貨物運送業者)などの免許を発行している。デリー運輸通信省は交通事業規制を一元化したいと考えており、この別々の運行方式も将来統一されるものと考えられる。
4.3.2 タクシー・パラトランジットの運行状況
 今回の調査ではバス組織、大気汚染に関する問題に重点をおいているため、特にパラトランジットに関する情報は集めていないが、以下にその概要を示す。
・ タクシーサービスを行う車両の大部分は3輪車型のオートリキショー(写真左)である。オートリキショーはメーター制であり、すべての車両にメーターがついている。
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・ オートリキショーは最高裁の命令に従い、ほとんどがCNGへの転換を完了させている。最高裁の命令にスケジュール通り間に合わせたのはオートリキショーだけであるが、これは市の融資制度があったこと、併せてオートリキショーがガソリンエンジンであり転換がしやすかったためである。
・ バスを代替するパラトランジットとして、「Mahindra(写真右)」がある。チッタゴンでのマキシ、に相当する車両で、近年増加中であり、また、CNG化も進んでいる。








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