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4.4 組織
 ここでは交通関連組織と環境改善に関連する組織を区分して示す。
表4-6 デリーの都市内バス交通関連組織
組織 業務内容
STA: State Transport Authority
デリー州交通局
1989年の連邦自動車法と1993年のデリー自動車条例に基づく組織であり、この実施機関である。STAは1991年以前はバス事業計画と事業規制、事業委託(ブルーライン、と呼ぶ)のみを行う部署であった。DTC併合後も事業内容は同様である。バス事業のほかに、運転免許の発行、自動車の登録・車両検査も担当する。
DTC: Delhi Transport Corporation
デリー交通公社
公営のバス運営企業であり、約2,200台のバス、30のバスデポ・ターミナル、2つのバス修理工場、3万人強の従業員を抱える大組織である。直轄のバス運営のほか、民間事業者との契約ベースの運行実施、地点間運行バスの事業監理なども担当する。
Ministry of Transport and Communication, Government of Delhi
デリー州運輸通信省
州政府に所属する交通に関連する規制、計画事業を実施する組織。STA、ISBT、MRTSを抱えるほか、計画、会計、徴税、調査研究、規制実施の監視、汚染物質のコントロールなどを担当する部署がある。
Ministry of Health, Urban Development, environmental, forest Wild life & elections, Government of Delhi
デリー州都市整備省
道路整備を含む都市インフラを担当する機関である。バス事業関連ではバスレーン整備を担当する。(なお、バス停留所についてはDDAが担当する。)
民間事業者 STA、DTCのバス事業を請け負う民間事業者。中小事業者が多く、組織化されていない。
ISBT; Interstate Bus Terminal
州間バスターミナル
バスターミナルの運営、施設整備
MRTS: Mass Rapid Transport Systems
デリー鉄道公社
建設中である地下鉄の計画実施機関
DDA: Delhi Development Authority
デリー開発公社
下水道、公園整備などの生活関連インフラ整備を担当するが、バス停の整備もここが担当する。
Ministry of road transport and highways, Government of India
インド連邦道路交通省
連邦の組織であるため、デリーの交通に関して直接関与しないが、インド国内全般の交通行政に関与しており、特に4大都市の(面会者)
NCRPB (National Capital Region Planning Board)
連邦首都圏計画委員会
デリー州と周辺州にまたがる、交通計画を含むインフラ整備計画の調整作業を行う機関。但し、デリー市内の計画は一切関知しないため、市内バス運行に関しては関連性は低い。
表4-7 デリーの都市内大気環境改善に関連する組織
組織 業務内容
The Supreme Court
インド連邦最高裁判所
前述したように、生活環境の基準作成には司法がかかわることがインド憲法で規定されており、最高裁判所がその作業の中心に位置付けられる。
環境・森林保全省、
公害対策委員会(ブレラ委員会)
1996年に最高裁判所の命令で組織された省、及び、諮問機関。公害対策委員会はデリーの大気環境改善策として、公共交通の充実と燃料規制に関する提言(ブレラ・リポート)を作成した。
マシェルカ委員会 2000年に最高裁の命令により組織された諮問委員会で、デリーにおけるCNG化施策の推進、課題の調整を担当する。
TERI
タタ環境研究所
自動車会社TATAの環境関連の研究所であり、ディーゼルガスの清浄化(EURO-IVレベルのディーゼル燃料導入など)を推進すると同時に、デリーにおけるCNG化に反対の立場を取る。
Center for Science and Environment (CSE) 環境政策関連の調査・提言を行うNPO組織である。インドのエネルギー供給政策の不安定性に関する批判をするとともに、CNG化に推進の立場をとる。
CSIR 公共側の環境測定を担当する機関。
Petrolium Department
連邦政府石油省
ブレラ委員会に参加しており、CNG供給体制について政府として保証した。
その他
組織 業務内容
IIT: Indian Institute of Technology, Delhi
インドエ科大学
デリーの交通環境改善(安全性、サービスレベル改善)に関する提言を行っている。
 
(1)DTCの組織に関して
 DTCは1948年に北部インド交通公社として発足し、1950年に正式に政府組織として連邦政府の交通省の傘下に入った。
 DTCは3671台のバス車両、30,885人の従業員(2001年11月末)のほか、市内24のバスデポ、ターミナル、エンジン製造も可能な巨大整備工場を抱える大組織である。DTCのバス運行はデポを単位として運営されている。デポ内の組織構成とその役割を示す。
組織図
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図4-4 デポ組構図
4.5 バス事業計画
(1)担当行政機関
 バス交通需要の調査、計画、立案などの事業を行っているのはデリー州運輸通信省であり、実質的な業務はSTAとDTCが実施している。DTCは自ら需要調査を行い、路線計画、供給計画、事業委託計画を立てるが、STAは事業者に対して免許を交付するだけで、自ら路線計画を立てることはない。
 一方、CNG化を推進するブレラ委員会は、CNG化に加えて公共交通への転換を長期の大気汚染解決策として提案している。このため、司法によるチェックがバス計画に対して干渉する可能性が高い。
 
(2)計画策定の法的背景
 STAの背景はDelhi Motor Vehicle Rules 1993 Chapter III"Licensing of Conductors of state carriages"である。DTCはRoad Transport corporate Act(1950)である。
 
(3)都市交通の将来計画、交通量の見通し、利用者数の見通し
 2007年度までのデリー州のマスタープランにもあるように、現状でもデリー市内で約1万2千台のバスが必要であるとの見解を持っている。DTCでは1万台、STAでも2000〜3000台程度の供給を実現したいと考えている。
 
(4)事業者に対する路線割り当ての方法
 DTCでは市内に24あるデポ単位でバス運行条件を決定しており、デポが持つ車両・運転手・車掌リソースを最大限活用しながら、供給量を決定する。但し、リソースの配置計画の出来る人材が限られているため、6部門(中心部:東西南北、周辺部、都市間)にわけ、各部門に属する路線とリソースのバランスを見て、バス分配量を決定し各デポに連絡する体制をとっている。
 各デポでは、割り振られた配置台数に従って、自社所有の車両と民間事業者の車両を配置していくことになる。
 
(5)料金設定
 1999年2月11日以降の料金設定は以下のとおり。
表4-8 料金設定
0〜4Kmまで 2.00Rp
4〜8km 4.00Rp
8〜12km 6.00Rp
12km以上 8.00Rp
出所;DTC提供資料
 
(6)料金設定の方法について
 乗客運賃は州政府で規制されている。
 民間事業者の委託運行に対するDTCの調達料金について、DTCでは運行に関する実績がデポレベルで収集されており、この収支レベルに基づいて民間事業者への支払い額が決定される。
4.6 インフラ整備計画
(1)交通インフラ整備に関わる行政機関
 道路整備を担当する部署は、デリー州内であれば都市整備省である。他州と隣接する地区での事業であれば、NCRPBとの調整が必要となる。運輸通信省は交通関連の計画・事業規制を担当しているが、地下鉄計画を実施するMRTSも傘下に抱える。
 
(2)バス優先レーンなどの導入計画、導入可能性
 バス優先レーンは既に市内幹線道路区間に設置済みであるが、バスレーンとして幅員が不十分で路面標示もわかりにくい。バスの路線計画の見直しと同時に優先レーンの設置計画について見直す必要があるだろう。
 デリー州のマスタープランには以下のような、新しいバスシステムの整備計画が盛り込まれている。
 
電気トロリーバスの導入
 全体で87kmの計画の整備計画で、実験区間はデリー環状道路沿線のDaula Kaun-Tilak Nagar間である。実験は2003年末までに終了する計画で、Bharat Heavy Electrical Limitedが担当する。この実験が成功すれば環状道路全区間にトロリーバスを延長する計画である。トロリーバスは時速40〜50kmの走行速度を予定しており、道路の路肩側を走行する。
 
 スカイバス
 バスというよりも懸架式のモノレールに類似したもの(注4)考えられる。
すでにムンバイとチェンナイに導入されており、インド国内では馴染みが深い。
2〜3連接の車両を30秒間隔で運行でき、大量輸送も実現可能な中量軌道系といえる。第3軌道からの電気供給により走行する。デリーは軌道系交通の整備が進んでおらず、このような新交通システムの需要は高い。
(注4)http://communities.msn.com/SkyBusMetrosolution/skybusdescription.msnw
 
 大容量のバス車両とバス専用レーン
 DTCでは慢性的なバス車両の混雑とバス事業の効率化を実現する必要があるため、大容量のバス車両(連接バス)の導入を検討している。インド法規での車両最大長は12mであるが、連接車両の場合は1車両分の長さが12m以下の制限となるため、連接バスの運行は可能である。
 
(3)バスターミナル整備計画
 デリーISBT(長距離バスターミナル)はオールドデリー内にあり、中央駅にも近く立地がいい。一日あたり1700便の州間バスが発着する。都市内バスのターミナルも併設され、一日当り約1200便の都市内バスが発着する。現存のISBTへの需要が超過したため、混雑の緩和が課題になっている。
 このため、デリー市の拡大に伴って環状道路沿いの新規4施設に機能を分散化する計画がある。既に、2施設は完成し始まっており、新規4施設の運営開始後は、現状ターミナルの改装を行いたいとしている。
 
(4)バス停施設の整備(標示板、シェルターなど)
 一般的なターミナル施設、バス停施設を写真で示す。バス停における広告は州法で規制されており、路線番号の案内だけが提示されている。バス停の改良計画は現状考えられていない。
 
右:大容量のバス停
路肩側に2〜3台停留できるバスベイが設置されている。
左:ターミナル内のバス停
路線番号が示されている。
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4.7 車両管理
(1)車両支援のための窓口となる行政機関
 バス車両を支援するとすれば、DTCに対してデリー州政府が直接の窓口になるものと考えられる。
 
(2)車両管理状況を監視する行政機関
 デリー州内で車両管理を実施している行政機関はSTAであり、車両登録、検査をVehicle Inspection Centerで行っている。センターは検査ラインが8ラインあり・一日450台の検査が可能である。
 商用車は毎年車検を受ける必要がある。15年経過する車両は廃棄する必要がある。但し、STAが事業管理するブルーラインの事業車両の車両管理は実施しておらず、民間事業者に任せている。
 DTCは自社保有バスの管理は白ら行っている。但し、委託運行の事業者所有のバスは民間事業者自ら管理している。
 
(3)現状稼動台数、現状故障状況等の車両インベントリー
 DTCに所属するバスの稼働台数の推移を下表に示す。DTCは2001年2月に大量に現存ディーゼル車両の処分を行い、4月以降CNGバスを導入し続けている。
表4-9 稼働台数の推移
  デポ数 職員数 廃棄台数 購入台数 台数
DTC 民間 DTC 民間 DTC 民間
Jan-01 33 31,256 1   2 32 3,038 3,350
Feb-01 33 31,255 1,137   3 8 1,904 3,358
Mar-01 33 31,202   108 28   1,932 3,250
Apr-01 33 31,170 62 507 85   1,955 2,743
May-01 33 31,135     186 31 2,141 2,774
Jun-01 33 31,088     268   2,409 2,774
Jul-01 33 31,027   9 287   2,696 2,765
Aug-01 33 30,979   1 222   2,918 2,764
Sep-01 33 30,961   6 330   3,248 2,758
Oct-01 33 30,934   19 275   3,523 2,739
Nov-01 33 30,885   9 148   3,671 2,730
出所:DTC経営統計p7-8
 
(4)車両整備基準などの設定状況
 DTCでは管理スケジュールが明確化されており、運転手による日々の点検、月1回のデポでの点検作業が実施されている。修理が必要な場合、修理待ち時間を最小化するよう、パーツごと取り外されてDTCのバス工場に送られ、バス工場からは交換部品が支給される(2tier system)。一方、民間事業者は運行距離ベースで収入が得られるため、維持管理へ残すとは最小化せざるを得ない。
表4-10 点検項目と点検スケジュール
スケジュール 点検項目
毎日 クーラント液汚れ、エンジンオイル汚れ、タイヤ空気圧
週1回 シャシー注油、ギアボックス注油、エンジンオイル補充、クーラント補充ボルト・ネジ締め、ファンベルト調整、電装品点検、バッテリー液補充、清掃、車内装備点検 など
9000Kmごと ブレーキシステム、タイヤ空気圧、エアクリーナ、ステアリング系統の点検、エンジンオイル・フィルターの交換、クラッチ点検、サスペンション点検、スパークプラグ点検 など
18000kmごと スパークプラグ交換、ネジ調整 など
36000Kmごと ブレーキパッド交換、ハブ・ベアリングの点検、ブレーキ系統の点検、電装系統の点検、ファンベルト張力の点検、ディファレンシャルの点検 など
出所:DTC提供資料
 DTCではCNG導入に際し、整備マニュアル、整備教育プログラムを新たに作成し、専門の教育センターをメーカーと共同で設立している。整備士、ドライバーは日常点検、整備、火災事故への対処(乗客の誘導方法、消火など)に関して講習を受ける。2001年度中に800人強の運転手、2000人強の整備士がこの講習を受講する計画になっている。
 触媒や人体への影響が大きいことから、CO濃度のチェックが日常点検項目に含まれている。
 CNG導入後のオペレーション上の問題として、給油の時間の長さ(7〜8分かかる)、供給施設の少なさ(2000台あたり9箇所)、供給コンプレッサーの故障、火災の問題(近所で火災が発生した際にガス供給がストップしたこと、など)、一部車両でのガス漏れセンサーの未整備などがDTCから挙げられている。CNGバスの故障は90件報告され、そのうち7件は火災になっている。CNGの燃料供給系統には72箇所の継ぎ手があり、一つ一つに燃料漏れの検査をする必要がある。
4.8 バス事業規制
(1)事業規制にかかわる行政機関
 デリー州においては運輸通信省に所属するSTAが公共交通の事業規制官庁である。一方、現在は公共交通のサービスレベル(台数など)や燃料規制に最高裁判所が介在している。
 
(2)事業規制実施の法的背景
 Road Transport corporate Act(1950、1983)、および・Delhi Motor Vehicle Rules 1993 ChapterIII"Licensing of Conductors of state carriages"に示されている。
 
(3)民間参入規制
 上記法律では、バス事業は民間人が関与することが出来ないことになっている。このため、民間事業者は自らのバスにDTCやSTAの塗装を施し、公営事業者の協力企業としての立場をとらざるを得ない。
 
(4)サービスレベルの監視を担当する行政機関
 DTC管理化のバス運行はDTCの事業として路線、時刻が提示された上での運行であるため、常に運行内容が監視されている。
4.9 都市内環境対策
(1)都市内環境改善に関する動き
 前述したように、デリーでは大気環境に対する影響の少ないバスの導入が急がれているが、このようなバス導入において挙げられている問題について以下に示す。
 
民間のバス会社
 小規模(5〜10台単位)で経営しているバス会社が多い。運営資金が乏しく、維持管理・更新費用を捻出できないオーナーが多いため、CNG化の足かせになっている。最高裁命令ではオートリキショーに対する補助制度創設が含まれているものの、バスのCNG化に対する補助制度が存在しない。(おそらく、法制化されているように、バス供給は公営が原則のようだ。インドでは民間のバス事業というものは存在せず、民間事業者はすべてDTCの委託を受けている。このため、民営のバス事業会社に対する補助は存在しない。)また、DTCは委託費用の増加を計画していない。
 一方で、バス事業会社は組織化が進んでおらず、DTCに対して委託料金の値上げ交渉をする機会がすくない。
 
軽油ロビー
 CNGは煤煙の排出が全くなく、SOx、NOxともに軽油と比較し少量である。導入事例の豊富さ、価格面での優位性を考慮して、ブレラ委員会はCNGの全面的な導入を提案した。一方で、CNGへの全面的な依存は供給面での問題点を露呈することとなり、様々な反対勢力が出てきている。
 反対勢力の中でもっとも活動的なのは軽油ロビーである。軽油ロビイストたちは、将来の軽油の清浄化を理由に最高裁判所命令の延期を主張しており、このためデリー州のCNGバス導入も遅延している。軽油ロビーの主張は以下のように要約される
・ ユーロ4軽油の排出ガスの汚染程度はCNGと同等もしくは低い。
・ 先進国はユーロ3、4レベルの軽油導入により大気汚染を解決している。
・ 需要の高いバスにCNG運行はふさわしくない。
・ ユーロ4レベルの軽油供給を2003年中に前倒して実現するため、CNG導入は必要ない。
 
※ ユーロ3,4レベルの軽油の評価項目は様々であるが、一般的に硫黄の含有率と排出ガスレベルで評価される。ユーロ3規制の硫黄の含有率は350ppm(0.035%)、ユーロ4規制は50ppm(0.005%)であり、欧州では1999年からユーロ3が、2005年からユーロ4が導入される。日本では500ppm(ユーロ2規制、実勢は300ppm程度)と同等であるが、環境庁は2005年3月からの導入を決定している。ディーゼル車へのDPF装置導入を図っている東京都では、2003年4月からのユーロ4軽油の早期導入を石油業界に要請し、石油業界もこれを了承している。(参考;石油連盟「低硫黄化された軽油の部分供給前倒しについて」)
表4-11 ユーロ4軽油の汚染物質排出レベルとCNGとの比較
  CNG ユーロ4軽油 出所
CO(グラム/km) 0.66 0.20 Coach and Busweek,11 Dec. 1997
International association for Natural Gas Vehicles Technical Committee
HC(グラム/km) 3.01 .014
NOx(グラム/km) 9.92 11.90
SPM(グラム/km,PMIO) 0.05 0.02
燃料消費
(石油消費量換算)
2.82 4.27 インド石油公団、バス事業者による推定値
出所:TERI資料
 
CNG供給、アフガニスタン問題
 CNG化のボトルネックのひとつにCNG供給の不安定性がある。現状でも、リキショーはCNG充填のために2〜3日並ぶ必要があり、一般バス事業者は積極的にCNGに転換できない。
 最高裁判所は、1997年のブレラ委員会において、インド政府石油省がイランからのCNGパイプライン敷設実現とデリーへの優先供給するように調整している。しかし、近年のアフガニスタン周辺の紛争、また、パイプライン敷設会社の破綻などのため、供給調整は難航している。
 
ケロシン混入軽油
 東京都ではA重油を混入した不正軽油問題を扱っていたが、インドではケロシン(灯油)を混入した軽油が取引され問題になっていた。
 インドでは貧困緩和目的の価格政策で灯油価格の2/3程度に政府補助がついており、非常に安い(約5ルピー/L)。これを混ぜた軽油が市販価格の半額程度で取引されている。CNGは一般軽油(約12ルピー/L)よりも安い上に、この種の混合軽油の価格よりも安く提供できるように石油省からの補助を取り付けてある。また、CNG自体が密閉した容器で運搬されるため、このような異物の混入がないことも同種の問題に対して優位である。
 混合軽油は煤煙、NOxなどを多く発生させ、インド国内で問題視されている。このため、CNG提供価格は混合軽油問題を解決するために重要な課題であった。一方、軽油ロビーはCNGの価格補助策に疑問を呈している。
 
(2)Vehicle Inspectionの活動
 車両検査についてはSTAの組織であるVehicle Inspection Centerが担当している。この活動に関する法的背景は、Delhi Motor Vehicle Rules 1993 ChapterIV"Registration of Motor Vehicles"とchapterV"Control of Transport Vehicles"に書かれている。
 Vehicle Inspectionの活動は事業用車両(公共交通、タクシー、貨物など)に限定されており、すべての事業用車両は毎年検査を受ける。納税証と検査証を受領しないと営業が出来ないことになっている。前述のVehicle Inspection Centerはデリー市内にあり、納税所、運転免許の発行所も併設されている。
 点検器具はドイツ製であった。一部分だけコンピュータ化されているが、非常に小規模であり、十分でない。点検基準はヨーロッパの基準をそのまま輸入したものであり、検査官の弁では普通の車両の90%がパスしない。
 CNG車両が増加したためにCNG対応の車両検査基準の設定が急がれており、既にチェックリストがある。
 
(3)中古車・中古エンジンの利用規制
 デリー州では15年以上経過した車両の使用禁止令が実施されている。また、タクシー、オートリキショーは1990年以前の車両の使用が禁止されている。
 
(4)低公害車の導入に関連する行政組織
 デリー州はタクシー、オートリキショーの車両更新のための補助施策を実施している。
4.10 交通取り締り
(1)関連する行政組織
 今回の調査では交通取り締まり関連の調査は行わなかった。
 
(2)バス優先方策の実施計画と調整 
 今回の調査では交通管理との関連に関する調査は行わなかった。
4.11 課題
 デリーの都市内バス事業における課題について以下にまとめる。
 
デリーの都市内バス
 必要とされるバス車両数が14,000台を超えるなど、日本国内のバス事業と比較して非常に巨大であり、短期間の調査では全体を把握するのは非常に困難である。今回の調査ではCNG導入とバス事業への影響を中心に調査したが、労働問題や民間事業者とDTCとの関係などに不明な点が多い。交通産業全体で頻繁にストライキが起こっており労働問題は非常に根が深いものと考えられる。
 
DTCのバス事業
 様々な問題点を抱えているが、DTCは経営改善に関する指標を常に管理し、効率化を達成するための継続的な作業を実施し、分割案を用意している。分割・組織構成に関して助言をするならば、バス会社の経験よりも鉄道会社の経験が参考になるものと思われる。CNG車両のメンテナンス技術の蓄積は、将来インド周辺のCNG車両普及において貢献するものと思われる。
 
STAとDTCの運行委託方法の改善
 民間事業者へのバス事業委託制度について、STAのブルーラインによる運行とDTCの委託運行の2制度が実施されている。路線の重複などを避けるためにも委託制度を一元化するのが望ましい。また、安全面や整備基準が民間事業者に依存しており、この体制を改善する必要がある。
 
民間バス事業者
 小規模であり資金調達力に欠けるためCNG導入のボトルネックになっている。但し、今後国産のCNGバスが生産拡大されるため導入も容易になるものと考えられる。
 デリーの制度自体が民間事業者が直接バス運営にかかわることを禁じており、DTCの効率性の低さやSTAブルーラインによる営業の安全性などの問題が露呈してきている。DTCも民間事業者の強化を望んでいる。
 
大気環境に関して
 アジア大都市において、CNGバスを大規模に導入した先進事例の一つであると評価できる。CNGの安定供給、バス事業者の更新費用補助に関して課題が残るものの、デリー市民の健康・安全を保障するための施策として、また、途上国における先進的な大気汚染改善施策として意味が大きい。
 但し、現状大気汚染レベルが改善しているのは、CNG供給不足により公共車両やタクシーの走行が少なく、渋滞が少ないことが寄与している。本当に大気汚染が改善されたかはCNGの供給が十分となり、オートリキショーやバスの混在交通が道路上に戻った時点で評価する必要がある。
 デリーでの取り組みは、1種類ののエネルギー源に依存することの脆弱性を知見として提供している。今後、途上国においてCNGバスなどの導入案を示す場合、公共交通の供給安定性と両立させるようなプランを策定する必要があるものと考えられる。
 
バス車両について
 インドは自国生産できるため、公共交通においては日本の車両が全く入っていない。今後のインドにおける車両需要はCNG導入と大容量がキーワードである。バス技術に関して、トラックのシャシーを流用するなど、旅客用として乗り心地が悪く改善の余地がある。また、エアコンつき車両が未だ導入されておらず、大きい市場が残されている。








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