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3.9都市内環境対策
(1)都市内環境改善に関する動き
 工場、自動車排出ガスによる大気汚染に対して、DOEを中心として対策を講じている。DOEは大気環境のモニタリングを実施しており、SPM、NOx、SOx、CO濃度の測定を定期的に行っている。
 ダッカでは2001年より中央政府(DOE)主導でAir Quality Management Projectが進められており、チッタゴンでも同様の施策の展開が待望されている。
 その他、興味深い事例として、ごみの量を増やすという理由から、バングラデシュ国内でビニール袋(買い物袋)の使用が順次禁止されており、2002年3月1日よりチッタゴンでも実施される予定である。また、大気汚染に関するマスメディアによる広告、ミーティング、シンポジウムの開催なども実施している。
 
(2)Vehicle Inspectionの活動
 BRTAは車検を通じて排出ガスの浄化度に関するコントロールを行っている。
 DOEが中心となって路側における抜き打ち検査も行っている。7人一組(DOE4人、警察2人、BRTA1人)の1チーム(Mobile Base)がチッタゴン市内で抜き打ち検査を実施しており、DOEが排出ガス、BRTAが安全基準や税金支払い、警察が取り締まりを担当する。対象となる車両はバス、トラック、ピックアップバン、オートリキショーであり、主にディーゼルエンジン、もしくは、2サイクルエンジン車両を対象としている。測定項目は、SOx濃度、NOx濃度、黒煙の有無、警笛装置などである。
 活動期間は4〜5日に1回であり、時間はピーク時に合わせて午前9時から午後1時までである。排出ガス基準に対する違反者は最高200タカ(Motor Vehicle Act(1980))までの罰金が科せられる。
 
(3)中古車・中古エンジンの利用規制
 特にエンジンの利用規制については実施していない。
 
(4)低公害車の導入に関連する行政組織
 BRTCはCNG車両の導入に関心を持っていない。CNGの供給体制が整っていないことが理由として挙げられた。ガソリン車両のCNG導入キットはチッタゴンで25,000タカである。
3.10 交通取り締り
(1)関連する行政組織
 市内の交通取り締りはCMPが実施している。主に交差点での交通整理、取締りを主業務としている。バス停留所周辺での交通整理・渋滞の解消も業務目的の一つであるとしているが、実際に行われているのはまれである。このため、バスは路肩に車両を寄せることなく乗客の乗降をせざるを得ない。
 
 交通取締りの警官は、特に自動車の違反者に対して、自動車登録証・車検証(ブルーブック)、運転免許証、道路税支払証明書(レッドブック)を確認し、手続きを行う。また、バスを含む商用車両の場合は、路線運行の許可証(グリーンブック)を確認する。上記の書類の無表示または交通法規の違反者は罰金を課せられることになる。
 一般的に、バスやミニバスは路線運行を行っており、グリーンブックを確認することとなる。一方で、新興のヒューマンホーラーは路線申請手続きをとっていないか、取得していても別の路線を走行している。
 CMPは交通取締りのほかに交通管理も担当しており、CMP副署長(交通管理担当)の下で実施され、数名の警察官を常に配置しているが、CMPからは絶対的な人員不足であることが問題として挙げられた。
 
(2)バス優先方策の実施計画と調整
 チッタゴン市内のバス優先方策を実施する場合、交通管理に関する業務を管掌するCCC及びCMPが調整対象として妥当である。
 市役所、BRTAでは、Bahaddarhatターミナルの都市内バス利用に対応するためのバス回遊路線の見直しを行っている。ターミナル内の都市内バス用空間の整備、アクセス道路の整備とアクセス・イグレス道路の分離、全体的な回遊路線の見直しがチッタゴン市役所内で計画されている。
3.11 問題点のまとめ
港湾施設・地形による影響
 港湾を中心とした運輸倉庫産業は大規模な施設産業であり、施設間の輸送コストを低減させるため、稠密な土地利用が実現しやすい。これとあわせて、チッタゴン市街地は丘陵地に位置するため、比較的稠密な土地利用が実現されている。バングラデシュのその他の都市と比較できないユニークなものであり、チッタゴン独自の開発哲学があるものと考えられる。
マスタープランの策定や実施に関する課題
 現在、チッタゴン市役所CCCは、CCMP1995のデータや提案は1991〜1993年の調査であり陳腐化している、との見解を持っている。また、CCCは市域が拡大していることを踏まえて、CCMP1995年の対象地域の2倍を範囲としたマスタープランを策定しようと模索中である。
 CCMP1995内でCDAの組織強化(人員増強など)、もしくは、新たな専門的な実施機関の設置を要望されたものの、現状、CCMP1995の実施には未だ組織強化のなされていないCDAがあたっている。土地区画整理に関しても情報交換したが、土地取引が自由であり、小規模な地主が多く存在するため、調整が困難である。また、土地区画の最小面積などを規定しているものの、取締りがうまく進んでいない。また、土地取引業務には政治的な圧力団体による行動が見られるなどの困難が克服できていない。
 このようにインフラ整備に関する基本的な情報や組織、行政活動に課題が散見され、都市交通やバスそのものの議論をすること自体が難しい状況である。
実施組織の分担範囲、連携
 道路整備などの公共事業の実施機関と考えられるCDA、公共交通管理を担当するBRTAと、バス交通計画を担当する機関は存在するものの、それぞれ国家レベルの機関であり、都市内交通の整備に特別な実施能力を持たない。一方、チッタゴン市役所CCCは都市内の交通計画の策定が必要であると認識し始めた状況である。
 各機関は、チッタゴン市長が主催する公共事業委員会に属しているが、都市交通を専門に扱う委員会は存在しない。
基本的な交通問題の克服の必要性
 チッタゴンは基本的な都市交通問題解決のニーズを持っている。
・ さまざまな道路交通手段の混在、特に、走行速度の異なる交通手段の混在
・ 車両排出ガスによる大気汚染、特に2ストロークエンジンを用いた車両(ベビータクシー、オートバイ、テンポなど)による大気汚染
・ 車線の維持、駐車禁止などの交通規制、信号をはじめとした基本的な交通ルールの理解度不足
・ 公共交通の供給コントロール、特に供給量、品質の両面にわたるコントロール
バスの高速・定時運行を保証するための施設整備・制度の必要性
 チッタゴンの都市交通は、都市内に複数ある拠点内のトリップが大半を占めているため、歩行者、リキショーによる短距離の交通がメインであった。現在の所得レベル、提供台数、他都市の状況などを鑑みると、これらの短距離交通機関は引き続き高いレベルで提供されるものと考えられる。一方、チッタゴンは、CCMPの考え方に基づくならば、これまでの拠点開発方針を踏襲しながら市域を拡大しようとしている。このため、将来において、拠点間を高速で移動できる輸送機関が必要になってくるものと考えられる。また、チッタゴン市民の所得を考えると、安価な輸送機関の整備が必要条件である。
 チッタゴン市内で最も安価な交通機関である都市内バス、ミニバスがこの役割を果たしているが、ヒューマンホーラーとの競合、リキショー・ベビータクシーによる進行妨害、車両の古さ・維持レベルの低さにより上記を満たすような存在にはなっていない。また、バス自体も短距離トリップ、長距離トリップの両者を満たすような存在であり、リキショーなどと競合してしまう。
 
拠点交通への特化
 都市内バスの基本的な役割を考え直し、移動距離の長いトリップを分担する交通機関に特化する方向性を打ち出す必要がある。あわせて、ダッカなどで実施されている全席指定のエアコン急行バスの運行などを参考に、魅力があり、面的交通と競合しない交通機関に設計しなおすことが必要である。同時に、バスレーン・ターミナル施設などの整備が不可欠である。
 チッタゴン市では路面電車の導入も考慮しているが、整備に費用・時間がかかるため、初期段階でバスと専用レーンを整備し、最終的に路面電車を導入する方針を検討するべきだろう。
 
面的交通機関との連携
 リキショー、ベビータクシーなどの面的交通機関、フィーダー交通機関のゾーン規制の策定を進めると同時に、事業者の組織づくり、組織内の自己運行規制を進める必要がある。事業者組織が成熟することにより、車両の安全性の向上、運行台数の削減、ミニバスヘの転換などが期待できる。
銀行の事業融資コントロール
 ヒューマンホーラー運行事業への銀行融資により都市内バスの採算性が影響を受けている。ヒューマンホーラーの運行はバスサービスを補完するものであるが、バス停の占拠やバス路線との競合などを考察すると適度な規制導入を検討する必要がある。ただし、ヒューマンホーラー事業者は銀行への債務があるためこれを考慮した規制とする必要がある。
 参考として、ウズベキスタンでの「車両リースシステム」事例を紹介する。世銀では交通事業に資金融資や車両リースを実施する会社も、都市交通改善のため、規制・監視の対象としている。チッタゴンの例に戻せば、銀行に対する融資の制限、および、事業者に対する運行規制の発行、などの強制的な規制と同時に、利子の緩和、債務保証などのインセンティブを保証していく案が考えられる。但し、この場合、バスの運賃設定が重要となるため、中央政府との調整が必要である。
Box-1 ウズベキスタンにおける世界銀行のバス交通支援策:バスリースシステム
 世銀の資金援助で実施される新しいバス交通支援策の一つに車両のリース・システムがある。ウズベキスタンはリース・システムが導入される最初の国となる。ウズベキスタンにおける世銀リースプログラムでは、政府によるリース会社設立のために資金供与を行うという、世銀としては初めての支援内容となっている。そして、どのバス事業者も、このリース会社から車両をリースすることが可能となる。世銀は、車両購入のための融資を行い、車両をリース会社に供給するという方法を取る。リース会社は交通省の監督のもとで運営されるが、将来的には民営化される計画となっている。実際に、この民営化計画(期限付き)は、融資の条件として規定されている。短期的には、世銀は公共セクターによるバス運営を支援する計画であり、新車両は新設される国営リース会社からのものを用い、採算性に十分配慮した運営を行うことが条件となっている。車両リースにより期待される効果は、運行費用の低減で、十分に維持管理された新規リース車両を用いることにより、運行及び維持管理費用の高い老朽化したバスの運行費用よりも安くなると期待される。
 
 世銀が民間リース会社の活用ではなく、国営リース会社の設立を支援することとなった背景には以下のようなことがある。世銀は、リース・システムの整備に向け、現段階ではリース事業を手がけるバス製造業者から情報収集を行っているが、彼らを活用するのは困難が伴う。これらの業者は、自らが適切な維持管理設備を有し、リース車両の維持管理システムを確立した国に対してしかリースを行っていない。旧ソビエト連邦諸国では、そのような施設が十分整備されておらず、リース業者としては高いリスクを負うことになるため、大きなリース契約でないと彼らにとってのインセンティブが小さくなる。仮に世銀がリース契約の基準を満たすべく政府の実績を保証すれば、リースも可能となろうが、独占的なリース業者が形成されることにもなりかねない。このようなことが国営リース会社設立の大きな要因となっている。
 (海外運輸協力協会、1999、開発途上国の都市内バス輸送事業に対する世界銀行の支援事例調査、p18)








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