どんなところに注意するか 子どもの状況
これまでに述べてきたように虐待では死亡する事態がありますので、重症度を判断して「危ない」と思ったときには、児童相談所や警察などに通告や連絡をしなければなりません。私たちの重症度に関する考え方を次に示します。
虐待の重症度
最重度
生命の危険がある。
例:頭部・腹部外傷、窒息、ケア不足・医療放置による死亡のおそれ、「殺しそう」の言動など
重度
子どもに健康、成長障害あり。
例:医療が必要な外傷、成長発達の遅れが顕著、精神的ダメージの大きい情緒問題、明らかな性行為、閉じこめられているなど
中度
入院が必要な健康障害はないが、長期的には子どもの人格形成に問題を残しそう、自然経過では改善が望めない。
例:軽度の偶発的でない外傷、問題の大きい情緒行動問題、不衛生など
軽度
一定の制御がある行為、親子関係に重篤な病理がない。
例:外傷が残る程でない偶発的な暴力、健康影響が少ないネグレクトなど
最重度では生命の危険があり、一刻でも早く子どもを保護する、あるいは医療を受けさせることが必要で、重度でも虐待者から子どもを離すなど、なんらかの介入が必要です。地域では中度以下の虐待に多く出会います。 軽度と判断されても、「どんなところに注意するか・親、家庭の状況」にあげられているような項目が多い場合には、リスクが高まった場合に、重症度が一気に上がる場合がありますので、気をつけましょう。
身体的な様子
●不自然な外傷(打撲・火傷など)
説明がつかない、新旧混在する、たばこなど物の形が残る傷、大人の噛みあと、1歳未満の骨折、首・頭部・腹部の出血斑など
●医療機関に連れていかれるのが遅い
●体重・身長の増加不良
●ケアされていない
お尻など皮膚の汚れ、衣服の汚れ・破損の放置、季節にあわない服装など
●発達の遅れ
関わり不足による言語獲得などの遅れ、身辺の自立が早く言葉が遅いなどアンバランスな発達など
●事故が多い
●情緒行動の問題
おびえ、無(乏しい)表情、親と別れても泣かない、こわがる、萎縮する、なつかない、乱暴、誰にでもべたべたする、夜尿遣尿、家出、盗み、多動、睡眠障害、学習障害など
身体的虐待にはさまざまな傷があり、その部位により、手足、胴体の順に危険度が高くなり、頭、顔、性器はもっとも危険と考えられています。
叩かれた物の形をそのままあらわすような跡とか、親や子どもが説明することではおこり得ないような打撲や骨折があります。やけどでも、そのまま熱湯に入れられていたようなくっきり境界のあるやけどなど、独特の形をしています。
傷の新旧混在とは、骨折ならレントゲン上石灰化して治癒した像や新しい像が混じっていたり、打撲なら新しいものは赤紫色、次第に紫色から黄色に変わっていきますが、それが同時にみられる状況です。
噛み跡も上の子が噛んだなどと言いますが、歯形の大きさから大人が噛んだとしか考えられないものです。
そのほか、整形外科では1歳未満の骨折は要注意ととらえられています。また出血斑は、病気によることもありますが、首などを絞められた跡でもできます。
虐待による傷があるのに、親が医療機関に連れて行かない、またはかなり時間がたってからようやく連れて行くことがよくあります。時間外、救急外来の受診が多く、医療機関を転々とすることもよくみられます。かなりの重い病気になっていても受診させないネグレストもあり、小学生がとうとう死亡してしまった事件は記憶に新しいところです。
身長、体重の増加不良は、見た目には小さく見えなくても成長発達曲線に数値をプロットしてみるとよくわかります。発達曲線に沿って増えていたのに、横ばいになる、あるいはその曲線からはずれていくときは要注意です。母親がミルクを飲ませていると言っても、よく聞くと回数が少なかったり量が少なかったりすることはよくあります。また、判断が付かない場合、入院させたり他の人が養育するとよく増加して、結果的にネグレクトとわかることがあります。
発達の遅れは、親の関わりが少ない、生活に刺激が少ないことなどにより起こり、言葉の遅れから保健機関が関わり虐待が発見されることがよくあります。親がしつけに厳しい、または子どもに対して親が反対に世話をされたいと思っているなどゆがんだ役割を期待することにより、年齢不相応に身の回りのことがよくできる子どももいます。
事故が多いこともよくあり、放置されていて事故に遭ったり、家庭内でも事故を防止する配慮がされずに同じような事故を繰り返したりします。
情緒行動の問題は、年齢により内容が異なり、年齢が高くなると家出や盗みといった外での問題が多くなります。無表情は「凍てついた擬視」ともいわれ、虐待されている子どもに特有の表情です。子どもには様々な問題がみられ、こんな子だから親が虐待すると考えがちですが、そうではなく、虐待による親子関係がもたらした結果なのです。しかし、このことにより親はますます子どもが扱いにくくなり、虐待がエスカレートしてしまうことがあります。
子どものリスク要因
多胎
低(出生)体重児
親子の分離歴がある
子どもが多い
発達の遅れ
慢性疾患や障害がある
子どもの側からの虐待のリスク要因は、いずれも子育てに負担がかかる状況です。低出生体重児は未熟児も含み2500g未満で生まれた児で、新生児期に入院が長くなったり、施設入所などで分離歴があったりすると、親子の愛着形成がうまくいかずリスクが高くなります。