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虐待が起こる背景
 大阪で保健福祉医療の関係機関における6歳未満の虐待事例について行った調査から、表1のようにリスク要因が把握されました。
 虐待が起こった背景には、必ず「親が幼少時に虐待か拒否をされていた」「何か生活上のストレスがあり、危機に陥っている」「困ったときに、助けを求められる援助者がいない」「その児が、親にとって満足する子でない」の4つの条件がみられると言います。
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表-1 乳幼児虐待のハイリスク要因 (平成2年大阪府調査318人の背景要因から)
 
周産期・乳幼児時期の要因
●妊婦について
望まぬ妊娠 22%
10代の妊娠 17%
定期的妊婦健診受けず 15%
妊娠回数5回以上 11%
自宅分娩 3%
未婚分娩 10%
●新生児期について
未熟児 30%
新生児期の入院 23%
基礎疾患がある 13%
多胎 6%
●乳幼児期について
発達の遅れ 32%
情緒行動問題 21%
発育障害 14%
病気にかかりやすい 11%
1カ月以上の分離 23%
 
養育状況の要因
育児能力の問題 21%
子どもが不潔 16%
授乳や栄養の問題大 16%
子どもとの関わりが少ない 16%
偏った育児信念 15%
体罰の肯定 14%
子どもへの過大な期待 6%
家族内の子の死亡歴 11%
兄弟の虐待 35%
 
親の要因
性格の問題 60%
精神疾患 18%
知的障害 15%
アルコール症 14%
慢性疾患 8%
反社会的行動 4%
生育歴の問題 28%
再婚 (父)14%
(母)13%
 
家族形態
母子家庭 19%
父子家庭 6%
合成家族 19%
内縁 6%
実父母家族 51%
 
生活状況
父親の職業  
 無職 14%
 パート 4%
 転職繰り返し 24%
経済不安 61%
劣悪な生活環境 20%
夫婦不和 55%
家事能力が低い 22%
親族からの孤立 31%
近隣友人からの孤立 33%
過大な育児負担 32%
妻への虐待 10%
 
 虐待がなぜ起こるのか様々な研究がなされていますが、子どもと親などとの環境の相互作用によるとするベルスキーのモデルをもとに、これまでの私たちの調査結果からわかったリスク要因を図にしました(図-3)。
図-3 虐待の発生要因
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虐待の発生要因
 虐待されて育ったり、親に愛されなかった思いがあるなど生育歴に様々な問題があると、子どもを受け止められず、また子どもが小さく生まれたり施設に預けられて長期に親子が一緒でない状況があっても、子どもに対する愛着がわかず、受容の問題が起こると考えられます。
 この親の子どもへの接し方によって、言うことを聞かず育てにくい子となってしまったり、子どもの病気や障害、子どもの気質によっても子どもを受け入れられない状況が起こります。
 子どもの発達状況でも、遅れていたり反抗期に手こずるなど、子どもの特徴とも相互に関連して、これらのことが「ストレスの多い子育て」を引き起こします。
 また、親の側でも生育歴に問題があると自尊心が低い、社会的に未熟、激高しやすいなど、性格に関係があるといわれていますし、アルコールや薬物などその他の問題も関連してくると考えられます。
 性格などの問題は夫婦問題にも緊張をもたらし、社会的に折り合えないと仕事もなかなか定着せず、近隣とも対立して、大変な状況になってもSOSを出せる相手がいなくなり、これも「ストレスの多い子育て」をもたらします。
 ストレスの多い子育てのなかで、子どもが泣きやまず、夫は帰りが遅い、「何で私だけが…」と、ささいなきっかけで危機がおこり、子育てを放棄してしまったり、子どもを殴ってしまうという虐待がおこると考えられます。
 このように虐待は複合的に要因が関係してきますので、子どもの症状を中心に、親の背景なども含めて総合的に把握する必要があります。
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