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各セッションとテクニカルツアーの報告
特別セッション SS1
地震と溶接構造:神戸/ノースリッジ地震を教訓とした設計・施工
大阪大学 南 二三吉
 兵庫県南部地震とノースリッジ地震.この二つの大地震は日米において1年のタイムラグで奇しくも同日(1月17日)に発生し,多くの構造物に甚大な被害をもたらした.溶接鋼構造物も例外でなく,被害の大部分は柱・梁接合部に集中していた.これらの大地震は溶接構造技術者に多くの教訓をもたらし,地震後6年を経過して,日米において脆性破壊防止のための新しい構造設計・施工指針が打ち出されている.本特別セッションはこのような背景の下に豊田政男(大阪大)によって企画され,地震以後の鋼構造製作に関わる日米の動きについて多角的な議論をすることを目的として,5件の基調講演と2名のコメンテーターによる関連発表がなされ,会場の参加者も交えた活発な討論がなされた.
 基調講演では,まず中島正愛(京都大学)が日米の地震被害の類似点と相違をまとめた後,地震後の日米の地震対策actionについて,使用鋼材特性,溶接施工,構造設計,柱・梁接合ディテールなどの観点から比較を行った.その中で,構造健全性をいかに確保するかについて,「健全な溶接施工がなされれば…」という従来の概念的な但し書きから脱却し,自動化などによる高靭性・高速溶接技術の開発,溶接施工にやさしし継手ディテールの提案など,具体的な実行可能策を積極的に押し進めることの必要性を唱えた.
 次いで,R.E.Shaw(Steel Structures Technology Center)がモーメントフレーム構造に関する米国の耐震設計クライテリアについて,FEMA(Federal Emergency Management Agency)規準350 353を引用しながら,地震後に改良された各種部材の設計指針,溶接施工手順,溶接技能検定などを紹介した.これに関し,梁部材フィレット部の要求靭性レベルや,延性確保面でのFEMA規準とAISEコードとの相違点などについて質疑がなされた.
 また,三木千壽(東工大)は,主に橋梁鋼構造物を取り上げ,主に橋脚の座屈やき裂発生の特徴をまとめ,地震後の新しい橋脚設計概念を紹介するとともに,鋼材に必要とされる靭性について,繰返し予歪の影響は鋼種によって異なるため一義的な規定は難しいことを述べた.これに関し,ターゲットとする靭性レベルと構造における想定欠陥寸法の関係,地震時の破損形態への極低サイクル疲労の介入の可能性などについて討議がなされた.
 鋼構造の地震時の性能確保のためには,使用鋼材や溶接材料の強度特性や必要靭性に対する議論も重要である.これに関して,M.Johnson(Edison Welding Institute,欠席のためR.E.Shawが代理で講演)が,溶接金属の引張強度と溶接条件の関係や,溶接金属の実強度が母材に対してオーバーマッチとなりがちな傾向を指摘するとともに,AWSやFEMA規準での溶接金属の靭性要求レベル,使用材料の最低靭性評価手順(溶接条件の設定範囲など),および,溶接品質管理に対するロット検査の重要性などを紹介した.講演後,母材強度に対する溶接金属の規格保証最低強度のあり方や,必要材料靭性と地震時の極低サイクル繰返し荷重下のき裂成長特性の関係などの討議がなされた.本講演に対する関連発表として,中込忠男(信州大学)より,溶接金属の強度特性・靭性に及ぼす溶接入熱条件の影響,建築鉄骨の溶接施工の高能率化に向けた仕口溶接の温度履歴とパス間温度の関係の検討などの紹介があった.
 また,建築構造の地震に対する性能評価に関して,豊田政男(大阪大学)より,日本溶接協会から2000年7月に発表されたWES−TR2808「動的繰返し大変形を受ける溶接構造物の脆性破壊性能評価手法」の考え方とその適用例について発表があり,破壊力学的手法の建築構造性能評価への適用可能性について討議がなされた.また,WES−TR2808を広く普及させるための評価手法のソフトプログラム化が日本溶接協会LDF委員会で検討されており,伊木聡(NKK)よりその概要についてデモンストレーションがあった.本手法について,実務分野での使い道と,溶接部の強度的ミスマッチの影響を今後どのように取り入れていくかの質疑がなされた.
 最後にコーディネーター豊田政男(大阪大学)が,本セッションで議論された大地震後の日米両国の動きについて,設計概念,材料選定基準,接合部詳細,溶接施工条件・品質管理手順,材料の破壊靭性要求などの観点からproceedingVol.1の20ページにまとめていることを示し,溶接品質を高めるための継続的努力が必要であることを指摘してセッションを閉じた.
 
セッション PL1,PL2
レーザと電子ビームによる生産I,II
名古屋大学 沓名宗春
 レーザ加工および電子ビーム加工に関連する12件の論文が発表された.このセッションでは,レーザ機器の開発,レーザーアークハイブリッド溶接の研究開発,レーザ溶接や電子ビーム溶接の適用などが報告され,出席者も多く,議論も非常に活発であった.
 招待講演として,アーヘン工科大学溶接研究所長のU.Dilthey教授が「レーザーアークハイブリッド溶接」について,その基本特性と自動車産業や造船産業での実用化例について講演した.続いて,炭素鋼のCO2レーザーMAGハイブリッド溶接におけるMAGアークとレーザの相互作用や深溶込み機構について陳亮ら(名大)の報告が,また薄板のYAG−TIGハイブリッド溶接におけるTIGアークの電磁力による偏向についてTI G溶接と比較して管ら(慶応大)の報告があった.環境関連機器の耐食性の高い材料(各種高合金)薄板のYAG−TIGハイブリッド溶接法の開発についてH.Heroldら(Otto von Guericke大学)の報告もあった.ホットワイヤを用いて効率をあげている.上村ら(三菱重工)はガスタービンブレードのYAGレーザ溶接の適用について,松本ら(川崎重工)はYAGレーザ溶接ロボットの開発について報告した.関節型ロボットの倣い牲能および位置制御性を高めるため,センサーを開発している.山下ら(日立製作所)は4kWYAGレーザによる水中溶接実験の結果を,佐野ら(東芝)は発電プラントの補修技術としてのレーザ加工法の開発実用化状況を報告した.その中で,レーザピーニングの応用例やレーザ脱鋭敏化処理,水中シール溶接などが原子力発電プラントなどへの応用例が報告された.ドイツBMWのH.Hornigらは自動車産業におけるアルミニウム合金のレーザ溶接の開発例(バルクヘッドの溶接など)および問題点を報告した.電子ビーム溶接について2件の報告がなされた.森崎ら(大阪ガス)は日本ガス協会が始めた「全自動高速パイプ溶接システムの開発」の国家プロジェクトの開発成果である全姿勢電子ビーム溶接の適用について報告した.辻井ら(三菱重工)は肉厚40〜90mmの圧力容器の電子ビーム溶接の開発例を紹介した.
 
セッション AP1
アーク物理I
大阪大学 藤井英俊
 本セッションでは招待講演1件を含め,計7件の論文が発表され,以下に示すように種々のアーク物理現象に関して議論された.招待講演は,G.den Ouden氏により“Physcial Aspects of Laser−Assisted Arc Weling”に関して行われ,アーク溶接におけるレーザーアシストの影響について詳細に検討された結果が報告された.レーザーによって,アークの点弧に必要な電圧が低下すること,アークの安定性が向上することが示され,また,アークとレーザーの組合せは試料への熱輸送に対しては影響を及ぼさないが,レーザーがアークの緊縮を引き起こすため,溶融現象には影響を及ぼすことが示された.
 引き続き6件の一般講演が行われた.まず,Z.YangらによってW電極にナノサイズのトリア粒子を分散させることによる特性変化に関して2件の報告があり,ナノサイズのトリア粒子を分散によって,アーク電圧を下げることができることが示された.また,トリア粒子を2%から4%,6%と増やすことによって,特性がさらに向上することが報告された.次にR.Naritaらによって,TIGアークにおける電子温度に及ぼすカソード形状の影響について述べられ,先端角が45度の時,アーク温度が25000K程度となり最も高くなるが,アノード表面における熱強度分布や電流密度分布は先端角が変化してもあまり影響しないことが明確にされた.H.Nishikawaらはホローカソードアーク溶接において,シールドガス流量が0.17ml/sであると,溶融池の溶け込みが大きくなることに着目し,アーク内の電子温度および電子密度の測定を行った.その結果,0.17ml/sの条件では,アークの中心で電子温度が50000〜60000K程度になることを示した.S.Watanabeらは,グローからアーク放電への遷移について調べるため,V−I特性の測定を行い,グローからアーク放電への遷移に関して,2つのフェーズがあることを示した.最後に,Y.Ogawaは高速度ビデオカメラと最適なバンドパスフィルターを用いて,溶融池の流れを観察した.AIST北海道センターの落下塔を用いて,1秒間の溶接実験を行った結果を示し,地上でも,微小重力環境でも強い対流が観察され,マランゴニー流の影響が大きいことを示した.
 
セッション AP2
アーク物理II
トヨタ自動車 松井仁志
 本セッションでは,これに先立つセッションIが電極およびアークの特性を取り扱っているのに対して,溶融池の挙動を中心に構成された.論文は招待講演1編を含めて7編が提出された.この内で海外からの論文は4編で過半数となり,その比率は前回の6WSに比べて高くなった.溶接法別に見た内訳では,GMA溶接に関するものが無く,GTA溶接に関するものが6編,その他1編もEBWを用いたものであり,溶加材が無く,より単純化された状況での溶融池現象が取り上げられている.また7編の内4編がフラックスの溶込みへの影響を取り扱っており,その対象材料もアルミニウムやチタンに拡がりつつあるのが注目される.
 まず,S,Marya博士(フランス・Nantes)による招待講演”Flux Application in GTA Welding to ImproveProcess Performance Stainless Steel and Titanium Alloys”があり,A−TIGに関するこれま研究成果のレビューに続き,アークを集中させる要因として,フラックス元素のアーク中への蒸発および母材表面における電気抵抗増加の効果について,実験結果が紹介されるとともに,工業化に向けた検討の重要性とフラックスの作用の詳細な研究の必要性が唱われた.
 次いで一般講演に移り,通電を妨げるフラックスをアルミニウム母材に塗布してアーク発生位置を規制する溶込み制御(Sire,フランス),軟鋼のA−TIGにおけるフラックス成分・塗布量・アーク電圧の溶込みへの影響(Ding,中国),オーステナイトおよびマルチンサイトステンレス鋼における微量元素の溶込みへの影響(Puybouffat,フランス),X線観察による溶融池湯流れ・気泡および気孔の形成機構(片山,阪大),EBW溶接の溶融池内対流に及ぼす表面張力と重力の影響(藤井,阪大),プラズマ雰囲気における純鉄とステンレス鋼の溶接金属の表面張力測定(藤井,阪大)についての報告があり,会場から間断無く質問が出され活発な討議がなされた.
 
セッション WS1,WS2
ステンレス鋼および耐熱鋼の溶接I,II
大阪大学 廣瀬明夫
 本セッションでは,ステンレス鋼および耐熱鋼の溶接性および溶接部の特性を主題として,セッションWS−1およびWS−2で招待講演1件を含めて15件の論文が提出され,活発な質疑がなされた.海外からの論文は1件であった.
 セッションWS−1では,各種ステンレス鋼の溶接に関する8件の一般講演が行われた.その概要は,1)thermomechanical処理による304ステンレス鋼の粒界腐食性の改善(by M.Shimada),2)鋳造2相ステンレス鋼におけるα’相のスピノーダル分解およびオストワルド成長のコンピュータシミュレーションによる硬さ変化と脆化挙動の予測(by K.Saida),3)高窒素含有Niフリーオーステナイトステンレス鋼溶接熱影響部の靭性におよぼすクロム窒化物の影響(by I.Woo),4)REM添加ワイヤと純不活性ガスシールドを用いた12%Crマルテンサイトステンレス鋼ラインパイプの高靭性GMA溶接(by H.Ishi),5)25kWCO2レーザを用いた13%Crマルテンサイトステンレス鋼ラインパイプの製造(by K.Iwazaki),6)3次元立体画像構築による破面解析手法を用いた2相ステンレス鋼溶接金属の水素脆化破面の解析(by K.Nakade),7)同じく3次元立体画像構築法を用いた2相ステンレス鋼溶接部の衝撃破面の解析(by Y.Kitagawa),8)オーステナイトステンレス鋼溶接部の超音波検査における超音波伝播特性と欠陥検出能に及ぼす組織,開先形状の影響(by Y.Horii)である.
 セッションWS−2では,9−12%Cr鋼溶接部および2.25Cr−1Mo鋼溶接部のクリープ特性および焼戻し脆化などに関して,1件の招待講演と6件の一般講演が行われた.まず,招待講演は”The Basic Effects of Welding on Advanced 9−12%Cr Creep Resistance Steels”(by H.Cerjak)であり,12%Cr鋼溶接部のクリープ挙動とこれと関連した溶接部のクリープに伴う組織変化に関して,Energy−Filtering Transmission Electron Microscopy (EFTEM)法を用いた母材,溶接金属部,溶接熱影響部における第2相の詳細な定性および定量分析結果が述べられた.一般講演の概要は,1)12%Cr鋼のGTA溶接における溶加材の開発に関して,溶接金属のクリープ特性に及ぼすB,Nの影響および溶接金属の衝撃特性の評価手法の提案(by K.Yamashita),2)11%Cr鋼溶接部におけるTypeIVクリープ破壊に及ぼす粒径,析出物の影響の検討(by Li,D.),3)FEM応力解析によるType IVクリープ破壊におけるクリープボイド発生に及ぼす析出物の効果の解明(by Li,D.),4)2.25Cr−1Mo鋼溶接部のクリープ破壊に及ぼすPの粒界偏析の影響(by K.Tamaki),5))2.25Cr−1Mo鋼溶接部のSR処理による焼戻し脆化感受性の低減とその機構の検討(by H.Kawakami),6)2.25Cr−1Mo鋼溶接部のクリーフ強度改善のためのオーステナイト単相域での溶接後熱処理の提案(by K.Kimura)である.
 
セッションLM1,LM2
レーザ加工I,II
(株)神戸製鋼所 森本朋和
 本セッションは21日の午前に開催され,招待講演1件を含む12件の報告があった.また,海外からの報告は5件であり,全般的に活発な質疑・応答が行われ,盛況であった.論文を内容により区分すると,半導体レーザの適用に関するものが3件,レーザビームの合成に関するものが3件,レーザ溶接のプロセスモニタリングに関するものが2件,CO2レーザの溶接特性に関するものが2件,水中レーザ溶接に関するものが1件,エキシマレーザに関するものが1件であった.
 はじめに招待講演として,M.S.Zediker氏(アメリカ:Nuvonyx Inc.)より最近注目を集めている高出力半導体レーザに関する報告があった.半導体レーザの課題はビーム形状(通常のレーザとは異なり楕円形のビームとなる)であるが,薄板の溶接,ブレージング,クラッディングなどに適用することにより,TIGアークに比べて高能率化が可能であることが示された.引き続き,半導体レーザによる厚板のフォーミング,およびプラスチックと金属の接合に関する報告があり,招待講演と合わせて半導体レーザの幅広い適用例を示す内容であった.
 一方,レーザビームの合成に関するものとしては,ヨウ素レーザとYAGレーザの組合せによる厚板溶接特性の研究,および基本波長YAGレーザと第2高調波QスイッチYAGレーザの組合せによる金属溶融特性の研究について報告があり,ビーム合成により溶込み深さが向上することなどが示された.また,開先条件の裕度拡大に関して2つのYAGレーザとフィラーワイヤを用いる研究がTIGアークとYAGレーザのハイブリッド溶接の結果と共に報告された.
 プロセスモニタリングに関しては,レーザビームと同軸で溶融プールをモニタリングする方式のものが報告されたが,ハイスピードカメラを用いることにより溶込み深さなどに関する情報を得ることが可能となっている.また,溶接線倣いと溶融プールの観察を同時に行うタイプのものについても報告があり,いずれも実用性の面で高いレベルにあることが示された.
 CO2レーザ溶接に関しては,アシストガスを用いて厚板溶接における溶込み特性を変える研究,および薄板溶接に関してフィラーワイヤや活性フラックスの効果などについて研究した結果も報告された.その他,水中レーザ溶接に関しては,シールド条件と溶込み特性の関係に関する報告,エキシマレーザについてはレーザアブレーションに関連して,各種金属におけるプルーム発生状況などに関する研究結果が報告された.
 
セッション LM3,LM4
レーザ加工III,IV
名古屋大学 沓名宗春
 レーザ加工に関連する11件,電子ビーム溶接に関するもの1件の論文が発表された.レーザ加工全般,レーザ溶接現象,レーザ溶接の冶金問題,品質保証,レーザ補修肉盛,溶滴へのレーザ照射など報告された.招待講演として,シュツットガルト大学レーザ装置研究所のH.Hugel教授が「レーザ溶接:そのプロセス開発とレーザ開発」についてドイツで最近開発されているレーザ技術について興味ある講演をした.続いて,片山ら(阪大)はレーザ溶接における気孔の挙動と生成について報告し,宮本ら(阪大)もキーホール内外の挙動を分光解析(BGR)を用いて解析し,レーザブルームの挙動などについて報告した.松縄ら(阪大)は微小重力下でのYAGレーザ点溶接における気孔防止に及ぼすビーム波形の影響,およびトルネード形ノズルを用いて渦巻き状シールドガスによるレーザ溶接法について報告した.また,深溶込み電子ビーム溶接における電子の分布および溶融池挙動について張ら(北京航空工芸研)が報告した.ステンレス鋼のタンデム式レーザ溶接における気孔の防止方法について林ら(近畿高エネ研)が,大出力レーザ溶接における気孔防止について塚本ら(物質・材料研究機構)が報告した.いずれもシールドガスなどがキーホールに巻込まれ発生した気孔を防止する方法について検討した.マグネシウム合金のレーザ溶接についてナント中央大学のMarya教授がその基本特性を報告した.厚板のレーザ溶接における品質保証として,CCDカメラおよび高速ビデオを用いたモニタリングシステムについて,M.Dahmenら(フラウンホーファーレーザ研)が報告した.実用的な方法として注目される.沓名ら(名大)は機械部品などのレーザ補修肉盛についてロボットを用いた方法を紹介した.薄膜生成における溶滴の生成についてエキシマレーザを照射することにより,その密度や形状にどのように影響するか荒木ら(愛媛大)が報告した.
 
セッション IP1,IP2
金属およびセラミックスの接合における界面現象I,II
大阪大学 才田一幸
 本セッションは,金属およびセラミックスの接合における界面現象を主題とし,14編の論文が提出された.論文の内容は多岐にわたり,ガラスの陽極接合・剥離現象が1件,パルス通電焼結接合が2件,抵抗クラッディングが1件,圧延接合が2件,固相拡散接合が4件,ろう付が3件,複合材料関連が1件であった.
 まず,陽極接合の可逆性を利用したガラス/金属接合体の剥離現象が報告され,接合体の剥離技術に対して興味ある知見が示された.続いて,最近注目されているパルス通電焼結法による酸化物分散強化合金およびAlのその場焼結接合に関して,接合現象や機構および接合継手特性が報告され,本接合法の有効性が紹介された.また,Tiと鋼の抵抗クラッディング,レーザを用いたAlと鋼のロール圧延接合とその接合継手特性に及ぼす後熱処理の影響など異材接合における界面現象について報告された.固相拡散接合では,ロケットエンジンの製造に向けた二相ステンレス鋼の積層拡散接合技術の開発,ステンレス鋼拡散接合継手の低温破断面のフラクタル解析が紹介された.また,セラミックスの固相接合では,NbおよびTiAl金属間化合物インサート材を用いたSi3N4の接合部の組織解析および界面反応に関する研究が報告された.さらに,非常に興味深い研究として,Si3N4/SiC複合セラミックスにおけるクラックの自己修復現象が紹介された.一方,ろう付関連では,人工ダイヤモンド(111)のAg−Cu−Vろう付性に関する理論的検討,球状黒鉛鋳鉄のNiろう付継手の衝撃特性,フッ化物系フラックスを用いたAl−Mg合金のAlろう付性改善に関する研究が報告された.
 
セッション MS
モデリングとシミュレーション
大阪大学 田中 学
 本セッションでの発表は招待講演1件を含めて5件で,海外からは1件であった.内容の内訳は,GMA溶接に関するものが2件,GTA溶接に関するものが3件であり,また前者のうちの1件は抵抗スポット溶接に関する内容も含んでいる.GMA溶接に関する2件は,GMA溶接プロセスをパーソナルコンピュータによって短時間でシミュレートできる数値解析モデルの規模に抑え,実際の溶接施工におけるビード形状や断面の予測,溶接技術者用の教育ソフトなど工業や教育現場における実用化に重点をおいたものである.対照的に,GTA溶接に関する3件は,ナビエ・ストークス方程式を解いて溶融池内の対流現象をシミュレートするなど,複雑なアーク溶接現象をより正確に理解することに重点をおいたものである.
 まず,U.Dilthey教授(ドイツ,アーヘン工科大学)による招待講演”MAGSIM and SPOTSIM−Simulation of GMA and Spot Welding for Training and Industrial Application−”があり,溶接電流,アーク長,溶接速度などの溶接条件ばかりでなくシールドガス,パワーケーブル長や溶接機の外部出力特性など様々な溶接パラメータを考慮に入れてGMA溶接プロセスをシミュレートできるソフトMAGSIMの紹介がなされた.また同じようなコンセプトで抵抗スポット溶接のシミュレーションソフトとして開発されたSPOTSIMの紹介がなされた.シミュレーション結果は共に実際のGMA溶接のビード断面やスポット溶接のナゲット断面によく一致しており,工業的応用ばかりでなく溶接現象の定量的および定性的な理解を容易にする教育ソフトとしても役立てられることが示された.
 次いで一般講演では,非定常熱伝導方程式をベースにしたGMA溶接プロセスの数値解析モデルが紹介され,突合せ溶接やすみ肉溶接のビード断面が実験とよく一致するばかりでなく,アンダーカットやハンピングビードの現象までもシミュレートできることが示された(山本,阪大).一方,「タングステン電極−アークプラズマ−溶融池」を統一的に解く軸対称2次元の静止GTA溶接の数値解析モデルが紹介された(田中,阪大).また,実験において観察されるGTA溶接の溶込み形状をトレースし,その溶込み形状を固定境界として電磁流体の数値解析がなされ,実験で予想される対流現象が発生するためには溶融池表面におけるプラズマ気流のせん断力などが重要であることが示唆された(白川,熊本大).さらに同様な手法を用いて,実験で観察される完全溶込みの場合にその形状が維持されるのに必要な力のバランスをもとに溶融池裏面の表面張力が見積もられ,それを駆動力とした溶融池内の対流現象を電磁流体の数値解析モデルにより予測し,実験観察とよい一致を示すことが紹介された(里中,熊本大).なお,Gaoら(中国)の発表はキャンセルされた.
 
セッション SC
センシングと制卸
大阪大学 平田好則
 本セッションでの発表件数は8件で,海外からはそのうち1件であった.このセッションでは溶接現象の解析やインプロセス制御などを目的とした計測・センシングが扱われており,溶接部に生じる物理現象を電流電圧波形や分光,アーク音の周波数分析,CCD画像などから検出しようとするもので,GMA溶接(3件),GTA溶接(4件),プラズマ溶接(1件)に関するものが報告された.内容的に実用とのむすびつきが強く,自動化・ロボット化にもつながるもので,多数の出席者があった.いずれの発表にも活発な質疑討論が行われ,海外からの参加者の注目,関心が高かった.
 ノズルからガスをパルス的に吹き付けて溶融池を加振し,その固有振動数を検出することによって,溶込み状態を推定する方法が紹介され,溶込みに応じて入熱量を制卸することで安定な裏波溶接が行えることが示された(J.Ju,Keio Univ.).紫外線を選択的に反射するミラーを組み合わせたUVセンサーを用いて,溶融池表面の温度分布計測が行われ,赤外線放射計測結果との差異が示された(F.Miyasaka,Osaka Univ.).GMA溶接中のスパッタ発生や短絡現象などを高速度ビデオ画像と溶接音とから同時に観測し,両者の相関関係から溶接音のモニタリングへの適用性が示された(T.Morita,NIAIST).固定管の全姿勢裏波溶接を安定化するインプロセス制御法として,裏面溶融池のCCD画像からプール形状を抽出し,ニューラルネットワークにより電流制御する方法が示された(Y.Hibikiya,Keio Univ.).薄板の裏波溶接のGMAロボット溶接を対象として,板表面側の溶融池CCD画像に基づいて,ニューラルネットワークにより溶込み状態を推定し,インプロセス制御する方法が示された(S.Yamane,Saitama Univ.).プラズマ溶接の安定に不可欠なキーホールの形成現象を高速度ビデオ,OMAによる分光計測,裏面プラズマ電位計測などを通して明らかにした(D.Chunlin,BAMTRI).厚肉パイプの狭開先ホットワイヤティグ溶接に関して,CCDカメラによる溶融池の状態,電極,ワイヤねらい位置などのセンシングを通して,高効率・高品質溶接のインプロセス制御が可能となることが示された(T.Ogawa,Toshiba Corp.).GMA溶接のアーク長とワイヤ突出し長のセンシング・制卸にニューラルネットワークが適用され,電流,トーチ高さ,ワイヤ送給量のいずれの変化に対しても有効に働くことが示された(H.Yamamoto,Hitachi Construction Machinery Co.).
 
セッション WR1
溶接残留応力・変形I
大阪大学 村川英一
 本セッションでの発表は,招待講演1件を含め5件で,何れも大型溶接構造物の工作精度問題を,溶接変形の抑制・予測,材料,情報管理の観点から議論したものであった.溶接構造物の製作においては,溶接変形は不可避であり,製品の品質や性能のみならず円滑な組立工程ひいては生産効率の観点からもこれを抑制・制御することが重要な課題である.まず,Beijing Aeronautical Manufacturing Technology Research Institute のGuan Qiao氏の講演では,溶接残留応力が原因で生じる座屈変形が特に問題となる薄板構造物の溶接法について報告があった.従来は,ひずみ取りという事後処理による問題解決が主流であったが,より積極的なin−process的方法としてLow Stress and No-Distortion Weldingが紹介された.方法として,溶接線の両側を加熱する方法と,溶接トーチの直後をガス流により冷却する方法の二つがあり,いずれの場合も過渡的な座屈を抑制するための拘束との併用で効果が得られ,ジェットエンジンのケーシングやロケットの燃料タンクの溶接に適用されている.
 一般講演では,工作精度管理システムに関連した講演が3件あった.そのひとつは,精度計画と精度予測の二つの概念を基本とした幾何学的精度管理システムの開発についてである.このシステムは既開発のSODAS(System of Design and Assembling for Shipbuilding)上に展開されたものであり,精度計画では部材の最適な初期形状の決定,組立て順序の決定,拘束の決定を行う.また,精度予測では,等価外力の概念を用いた弾性FEM解析により大型溶接構造物の溶接変形予測が行われる.さらに,このような精度管理を実現するためには,従来のような熟練技能者・技術者に依存したシステムではなく,よりTop down指向のシステムが必要であり,Product Function,Entity,Attributeから構成される階層的ネットワークシステムが一つの可能性として示された.一方,実用に直結したシステムとして,船体平行部の溶接変形予測を目的とした,表計算程度の簡易法および弾性有限要素法を用いる方法が提案された.このシステムを開発するために,突合せ溶接および隅肉溶接継手を対象に溶接入熱と溶接変形を関係付けるデータベースが構築され,システムの推定精度を試作ブロックのみならずVLCCの実ブロックの計測値との比較を通して検証した結果が報告された.
 また,材料の観点からは,工作精度向上に有効な鋼材についての講演があった.TMCP鋼は高靭性を有し溶接性に優れているが,圧延時に生じる残留応力のために,切断時における変形が大きいという問題が指摘されている,この問題の解決策のひとつとして,残留応力制御TMCP鋼板が開発され,船体構造の横桁のガスおよびレーザによるスリット・スロット切断を例に,熱弾塑性FEM解析を用いた予測および実測を通して,残留応力制御TMCP鋼板の切断変形抑制に対する効果が示された.
 
セッション WR2
溶接残留応力・変形II
大阪大学 村川英一
 本セッションでの講演は6件であり,溶接性に関するものが2件,FSWに関するものが1件,溶接残留応力に関するものが3件であった.まず,溶接性に関しては,溶接高温割れの問題を力学の観点からとらえ,その発生を予測する方法として,通常の熱弾塑性FEMに温度依存型界面要素を導入した方法が提案された.この方法は,割れの発生および進展を新しい表面の生成としてモデル化したものであり,台形状の試験片における始端割れを対象に,実験と解析を実施し,提案手法が溶接高温割れの予測法として有効であることが報告された.また,メンブレーン型LNGタンカーの内張りに用いられるINVAR材は,抵抗シーム溶接により接合されるが,健全な連続ナゲットを得るためには,溶接電流,溶接速度,加圧力などの適正溶接条件を探索する必要がある.これを効率的に実施する手段としてFEMシミュレーション法を開発し,断続通電がナゲット形成の安定化に有効であることが示された.
 摩擦攪拌容接(FSW)における溶接変形はMIG溶接と比較して小さいと言われている.その理由を生成要因である熱履歴および固有ひずみの観点から検討し,Stir rodによる圧縮荷重と小さい入熱量が原因であることが示された.また,固有ひずみは,熱履歴により生成する部分とStir rodの圧縮荷重により生成する部分の和として特徴付けられることが報告された.
 原子炉圧力容器の強度を精度良く予測するためには,溶接施工や後熱処理などの詳細を忠実に考慮する必要がある.そのための方法として,材料の微視構造,熱力学,拡散理論,有限要素法などの理論的予測法および実験を組織的に組み合わせた手法が示され,板厚230mmの多層溶接における,結晶粒径,組織分率,硬度・降伏強度などの材料特性,さらに残留応力を解析した例が報告された.また,異材溶接に関しては,SS400のフランジにSM490,SM520,SM570のウェブを隅肉溶接した時の残留応力を3次元熱弾塑性FEM解析し,材料強度の組合せが溶接残留応力に及ぼす影響を検討した結果が報告された.同様に,パイプの多層円周溶接継手に生じる残留応力に関しては,まず3次元熱弾塑性FEM解析の妥当性を1パス溶接の実験結果との比較に基づき検証し,パイプの周溶接における残留応力生成機構と平板の溶接および機械的な荷重の下での塑性変形の類似点と相違点を明らかにするとともに,パス数やt/Dが残留応力に及ぼす影響を検討した結果が報告された.
 








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