プレジャーボート海難の再発防止に向けて
〜飲酒が海難発生にかかわった事件〜
広島地方海難審判庁
はじめに
現在、高等海難審判庁では、平成8年から12年までの5年間に全国の地方海難審判庁において裁決したプレジャーボート(モーターボート、ヨット、水上オートバイ、手こぎボート)が関連した526件564隻の海難事件について分析を進めております。
今回は、このうち飲酒が海難発生にかかわった事件についてご紹介します。
1 海難発生の状況
(1)事件種類、用途別の状況
飲酒による海難の種類は衝突事件のほか多岐にわたっている
飲酒が海難発生にかかわった事件を種類別にみると、衝突、衝突(単)、乗揚が多く、その他にも死傷等、転覆、沈没の海難が発生しており、様々な海難が多岐にわたって発生しています。
また、用途別にみると、モーターボートが圧倒的に多く、ヨット、手こぎボートによる海難も発生しています。
飲酒の事件種類・用途別状況
(単位:隻)
区 分 |
モーターボート |
ヨット |
手こぎボート |
計 |
衝突 |
9 |
2 |
  |
11 |
衝突(単) |
9 |
  |
  |
9 |
乗揚 |
5 |
  |
  |
5 |
沈没 |
1 |
  |
  |
1 |
転覆 |
1 |
  |
  |
1 |
死傷 |
1 |
1 |
1 |
3 |
計 |
26 |
3 |
1 |
30 |
○衝突:船舶が他の船舶と衝突又は接触
○衝突(単):船舶が岸壁、桟橋、灯浮標等の施設に衝突又は接触
(2)死傷者等の発生状況
飲酒がかかわった事故の死傷者発生率は飲酒しない場合の2・5倍
飲酒が海難発生にかかわったプレジャーボート30隻中、実に20隻でその乗員から死傷者が発生しており、その数は53人(死亡8人、重傷11人、軽傷34人)にのぼっています。
また、衝突事件の相手船でも死傷者が16人(死亡2人、重傷4人、軽傷10人)発生しており、僅か30件のプレジャーボート海難で69人もの死傷者が発生しています。
飲酒が海難発生にかかわった30隻の死傷者の発生率は、1・77人/隻で、飲酒が海難発生にかかわらない死傷者の発生率0・70人/隻の2.5倍にも及んでいます。
飲酒と死傷別の状況
2 原因分析
飲酒にかかる海難原因30件を分類すると、直接原因となった事件が1件、間接原因となった事件が5件、背景要因と考えられる事件が24件に分けられます。
飲酒と海難原因の状況 (単位:件)
(1)飲酒が直接原因とされた事件
操船者が一人しかいない時は「飲んだら乗るな!!」
飲酒が直接の海難原因とされた事件は、操船者が1人しかいないにもかかわらず「飲酒運航を取り止めなかった」ことが海難原因としています。
(2)飲酒が間接原因とされた事件
飲酒は危険な「居眠り運航」を誘発する
飲酒が間接の海難原因とされた事件は、「居眠り運航」を誘発したものが3件あり、乗揚及び衝突(単)を引き起こしています。
そのほか、飲酒により注意力が散漫となり、前路の「見張り不十分」となって衝突したものと飲酒により気が大きくなり薄暗い状況のなか「発航を中止しなかった」ことで橋脚に衝突したものがあります。
(3)飲酒が背景要因と考えられる事件
飲酒の危険性に対する認識不足が海難を招く、釣りや花火見物中も操船者は飲酒をガマン
事件発生までの間に飲酒の事実が確認され背景要因と考えられる例が24件あり、その時の状況は次のとおりです。
[1] 発航前、発航を承知の上で飲酒した例(衝突(単)3、衝突2、乗場2 計7件)
[2] 花火大会見物中に飲酒した例(衝突5、乗揚1 計6件)
[3] 錨泊又は漂泊して釣り中に飲酒した例(衝突2、衝突(単)2、転覆1 計5件)
[4] クルージングの途中飲酒した例(衝突(単)2、死傷1 計3件)
[5] 航海の途中上陸して飲酒した例(死傷1、沈没1 計2件)
[6] ヨットレース後のパーティーにおいて飲酒した例(衝突1件)
自己管理をきちんとしよう!!
3 考察
飲酒運航の危険性は車と同じ、操舶車は自己管理を
航海期間が長期に渡る貨物船などの一般船舶では、仕事及び生活の場が直結しているため、航海中の当直時間以外に乗組員が船内において飲酒することがありますが、当直以外の時間帯であっても常に危険の発生が考えられ、緊張を要求される船内における飲酒は、その量や飲み方について自ら制約されたものとなっていると考えられます。
一方、プレジャーボートにおいては、航海そのものが、個人の趣味、遊びなどの目的で行われ、海上花火大会の見物時における飲酒の事例が多いなどからも、船上での飲食がプレジャーボート利用の大きな楽しみの一つになっていると思われます。
アルコールが交通機関の運転時に何らかの影響を与えることは、飲酒の量、個人差等を考慮したとしても否定できません。
このことは、各交通モードにおける飲酒の規制の例を見るまでもなく明らかであり、プレジャーボートにおいても例外ではありません。
船舶の操船にあたっての飲酒は、判断力をはじめ、操船に影響を与えて海難を発生させる危険性を高め、事故発生後の処置の判断にも影響を及ぼすことから、二次的な被害を大きくするおそれがあります。
プレジャーボートの操船者は、飲酒を厳に慎むなどのマナーを守り、自己管理が必要となっています。
※事務局からのお知らせ
海難審判庁は審判によって海難原因を究明し、海難発生防止に寄与する行政を担っておられるが、裁決結果をより効果的に海難防止に生かすため、船種、海難種類ごとの詳細な調査・分析も行われています。
昨年からプレジャーボートに絞った調査・分析が行われており、今回はその一端を寄稿していただきました。次号から順次調査・分析結果を寄稿していただくこととしております。