吟詠・発声の要点 第四回 1.総論(続き)
(3)吟詠の音楽的な特徴=音階・メロディーなど
原案 少壮吟士の皆さん
監修 舩川 利夫
(吟詠の音楽的な特徴・「リズム」の続き)
洋楽には3拍子(強・弱・弱)4拍子(強・弱・中強・弱)といった規則的な強弱の繰返しがあるが、邦楽には規則的なリズムは無い。代りに、似た役割を持つ“拍”とその中に“間”という概念がある。
我々が親しんでいる邦楽は強いて言えば、みな1拍づつの進行で、音の長さを計る単位を“拍”という。そして拍と拍の間のことを“間”という。間にはその中に強弱の指定も含まれていて“大間”と“小間”に分けられる。大間は毎分初〜100拍と、ゆっくりしたもの。大間の1拍は“表間”と“裏間”に分かれ、前半分の表間が「強拍」、後ろ半分の裏間が「弱拍」になる。
小間は毎分100〜140拍と速く、全部が表・表…強拍の連続で進行する。
多くの吟詠家にとって“間”という言葉が持つ意味は、句と句の間隔とか、息継ぎというに過ぎないかもしれない。しかし邦楽での“拍”とか“間”は、曲(吟題)のテンポや楽想を性格づけるもので、時間芸術といわれる音楽(邦楽)にとって重要な要素の一つである。吟詠の正味時間を決める上でも、拍の速さを基準にすれば、より正確に時間配分ができるのではないか。
詩語のアタマ高とか、ナカ高という音程のアクセントは広く認識されるようになった。一方、言葉の強弱のアクセント、例えば「雨は〜」と詠うとき「あ」を強拍(表間)に入れるか、弱拍(裏間)にするか、というのは“間”の分野である。詩情表現の上でもポイントとなることなのでこれからはそうした感覚をもっと勉強したいものである。
(3)吟詠発声に欠かせない四つの基本 =総論の続き=
吟詠が持つ醍醐味の一つは、詩(俳句などの場合も)作者がその中に織り込んだ思いや情景を、吟者の感覚と表現技術、煎じ詰めればその人の人生経験から得た感慨をもって詠い上げ、聞く人に感動を呼び起こすところにある。吟者が一人で詠じ、一人で感動する分には何の問題もない。ただそれを吟詠・流派・それに付随するいろいろの約束事の中で、しかも聞き手の心を揺さぶる吟を詠うとなれば、まず発声などの基本をしっかりと身につけ、よく練習して、次第に高い技術に挑戦する必要がある。
吟詠の発声では、少なくとも次の四項目が基本となる。(各項目とも、詳しい解説は各論に譲ります)
(ア)よく共鳴する声
声帯で生まれた声(基音)はとても小さい。それが喉、口、鼻などの器官を通る間に増幅されて大きくなる。それを共鳴というので、それ自体は誰でも無意識にやっていることである。
共鳴する声をつくる基本は吟詠も洋楽も変わらないが、その上に吟詠では独特の“力強さ”や“渋さ”を加えて情感を出すところに、その難しさと味わいがあるといえる。
吟詠の魅力に惹かれて自分も詠おうと思い立った人は、“強い、渋い声”を真っ先に真似ようとする。ところが、これが意外に正しい発声にとっては、遠回りになりかねない。何故かと言えば、強い、渋い声は“力”に頼って押し出すものと思いこむ人が多いからだ。
強い吐く息(呼気)を必要とすることはあっても、喉をつめる、腹部に力を入れる、体を固くする、などは総て滑らかな音、響く音を封じ込めてしまう。また、声帯に極端な圧力をかけ続ける結果、声帯を痛めてしまうことがある。初めは力まずに共鳴のコツを覚えること。これを土台として、その上に吟の情緒を出すための絞った声、強い(強弱の)アクセントの入れ方などを、歌唱法の一つの“効果音”として習得することが、頭の整理にもなってよいのではないだろうか。
(イ)日本語の情緒を大切にした発音
吟詠に限らず日本語を詠うときの前提は
一、言葉のアクセントが正確である。
二、母音の発音が標準語のように正確である。(日本のある地域に特徴的な発音、例えば、「テー」が「テイー」に近くなる、は本人だけでなく、その地域の人には判別が難しい)
三、母音と同様、子音の発音も標準語のように正確である。(例=「せかい」が「しぇかい」に近いなど)
さらに吟詠で、詩語をその詩情に合わせて朗詠する上で、特に次の諸点に気をつけなければならない。
一、詩語の頭に出てくる母音の発音(半母音、隣の母音=アエイ、アオウの列で隣接する母音=に近づける。多くの場合、弱く出る)
二、同じ母音が(子音を挟んで)二度続けて出るときは、二つ目の母音をはっきりと。
三、子音は時間的に長く、大事に発音する。
四、子音は各音ごとに個性がある。単に話し言葉の延長だと簡単に片付けず、それぞれについて正確な(唇、口腔、舌の)形を整理しておく必要がある。
五、ガ行の鼻濁音は、一般的な使い方(語頭のガ行は鼻濁音にしないなど)の他に、場合による使い方(繰返す擬声語「ゴーゴー」などは鼻濁音にしない等)をよく覚える。
=(ウ)以降は次号に続く=