漢詩初学者講座 伊藤竹外
吟詠家に漢詩のすすめ―(四十七)
伊藤竹外
伊藤竹外先生プロフィール
愛媛漢詩連盟会長
(18吟社、会員200名、毎月指導、添削)
六六庵吟詠会総本部会長(吟歴61年)
財団公認愛媛県吟剣詩舞道総連盟会長
財団法人日本吟剣詩舞振興会理事
平成5年 文部大臣地域文化功労賞
平成8年 財団吟剣詩舞大賞功労賞
著書 豫州漢詩集(編著)
南海風雅集(編著)(2版)
漢詩入門の手引き(10版)他。
一、漢詩は誰にもできる
先般、愛媛県の紫雲館吾妻流剣詩舞道本部が、遠く島根県大田市において新春大会を開催するため一門の精英六十名が船車を乗りついで参加するのに同行の機会を得ました。
大会は地元会員並びに吟詠家多数の協力を得て素晴らしく盛会、成功裡に終了しました。
この後の懇親会席上において小生が即詠漢詩十二首を発表しましたが、島根会員が次々と献酬に来て「吟剣詩舞誌」の漢詩講座を拝読していますと言うから、貴方は漢詩を作りますかと聞いたら皆、その気持はありますが私達にはその才能がありませんという返事ばかりでした。これはこの会のみならず他の全国大会でも常に経験することでもあります。
思うにその志があっても詩語集も繙かず、一字も書かずでは誰しも詩ができるはずはありません。吟詠、剣詩舞の上手な人は皆、頭がよいから少し勉強すれば誰にもできますよと激励しました。「誰にもできる」という言葉は太刀掛呂山先生の著書の表題です。但し情熱をもって続けて行う人でないと大成しないとも。吟剣詩舞界の志ある人に大いに漢詩をすすめる所以であります。
愛媛の漢詩界が十八吟社、二百名になったのも吟界の背景が大半であります。
二、課題「時事書感」について
この題は、現代の社会情勢、昨今の出来事などに対する感懐を賦するものですが、これまで全く経験のない事象が多く漢詩にまとめるのは大へんむつかしかったと思います。特に
(一)米国に起ったテロによる横暴に対する報復戦争が始まり、日夜、中東に戦火が轟き世界の平和は一朝にして崩れたこと、
(二)日本では政局不安の中で改革は遅々として進まず経済界は倒産が相つぎ離職者は巷にあふれ、或は狂牛病の災禍など極めて憂慮すべき情況にあること、
(三)唯、待望の皇太子妃がご無事ご出産され皇孫がご生誕されたことは万民ひとしく慶祝する所であります。
以上の如き時事を絶句にまとめることは正に至難のことと思います。それは詩語集の中に見当らないものばかりで投稿者各位も相当苦労したものと思いました。然し現代社会から私達は逃避することはできません。
杜甫も李白も戦乱の中を流浪しながら珠玉の作品を賦し後世に残しました。私達も古人の糟粕をなめるのみでなく現代の事象を賦すことに使命観を持たねば将来はありません。共に努力を積み重ねたいものであります。
三、理窟は詩にならない
多くの投稿詩の中で、上記の内容を詠むに理念ばかり竝べた表現、引いては理窟になっているものも多く、詩として餘情を失ったものは採ることはできません。
又、従来の詩語集から選んだ次の如き観念語も適しません。
四、起承句は意、文が脈絡のこと
服部承風先生は転句の下三字は結句に結びつき十字の脈絡が大切だと述べています。
又、起承句は密接なる脈絡が肝要です。次の起承句は意文が全く脈絡していません。
五、平仄を誤らないこと
いつも注意していますが、今月も平仄の誤用が多く、これは(一)思い違い (二)意味によって異なる両韻の理解不十分によることが多いようです。詩ができたら必ず検討して下さい。(―線作者)
六、添削実例