吟剣詩舞の若人に聞く 第四十二回
荒崎 春奈さん(十七歳)
●神奈川県川崎市在住
(平成十三年度全国吟詠コンクール決勝大会少年の部優勝)
母・・荒崎 時枝さん
姉・・荒崎 有紀江さん
師・・星野 光虹さん
宗家・・星野 紫虹さん
(紫虹流紫虹会会長)
ひとつの優勝が、人を大きくさせた
自身の弱点である精神的弱さを克服してつかんだ栄冠。それは、荒崎春奈さんの大きな自信となり、今後につながる優勝だったと言えます。そんな彼女に、ご宗家や先生、ご家族を交えて、今のお気持ちをお聞きしました。
荒崎春奈さん
インタビューを受ける写真右より星野紫虹宗家、師の星野光虹さん、荒崎春奈さん、母の荒崎時枝さん、姉の荒崎有紀江さん |
何歳から詩吟をしているの?
春奈 「三歳からしています」
誰かに薦められたの?
春奈 「私の家が先生のご近所で、先代の宗家先生に可愛がってもらいまして、それでお稽古場にも顔を出すようになったのが切っ掛けでしょうか」
先代と言われましたが、ご宗家は二代目ですか?
紫虹 「はい、先代は私の母がしておりました」
それから本格的に習うようになったの?
春奈 「はい、そうです」
習うのに抵抗とかはなかったの?
春奈 「特にありません。皆がしているので、一緒にやりたいという感じでした」
光虹 「初めのうちはお稽古になりませんでしたね、ちょこまかちょこまかして(笑)。その頃の教場には子供が三十人ほどおりまして、春ちゃんもお菓子をもらうのが楽しくて来たのではないでしょうか」(笑)
先生は初めから春奈さんを指導されていたのですか?
光虹 「春ちゃんは初めから教えていました。よく動く子で、落ち着きのない子だと、私も思いました(笑)。お姉さんは子供の頃から落ち着いていましたが」(笑)
お姉さんも詩吟をしているのですか?
有紀江 「はい、しています」
お母様はいかがですか?
時枝 「私はしませんが、先代と親しくさせていただき、子供たちに詩吟を習わせませんかと誘われたとき、やらせようと思いました」
最初の頃、声が出ましたか?
春奈 「最初は歌みたいな感じで(笑)、発声という形ではありませんでしたね」
子供の頃はどんなご指導をしましたか?
光虹 「まず声を出させることから始めました。ただ、春ちゃんは節と言いますか、節調が良く、いい物を持っているなと感じました。それは母(二代宗家)も、初代宗家も感じていたようです。でも、音程が悪かったので(笑)、舞台に立つといいところが出ずに、苦労しましたね。特にコンクールなどはそうでした」
詩吟を嫌になったことはないの?
春奈 「音程が悪いから嫌になったということはありません(笑)。ただ、学校に行くと詩吟をしている人が少なく、自分は人と違うことをしていると思い(笑)、小学校後半の時には、「習い事をしてくる」と友達に言えないときがありました。中学では詩吟をしてくると言えるようになりましたが」
いつ頃から本格的に詩吟をしようと思ったの?
春奈 「小学校五、六年位からです」
それは何故ですか?
春奈 「自分が詩吟をしていると言うことを先生に言ったら、五年生の時に校長先生が皆の前で発表してみなさいと言われ、朝会などで吟じ、そのあとに「すごいね」と皆から言われ、それが自信につながって、やってみようと言う気持ちになりました」
それまでは自信がなかったの?
紫虹 「自信というか、恥ずかしいという思いがあったのではないでしょうか。詩吟は古いと言う感じがしたのでしょう」
春奈 「恥ずかしいと言うより、詩吟のことが説明できなかったので、人に言えなかったのだと思います」
今は何と言って説明するの?
春奈 「漢文と言います(笑)。皆は洋楽しか聴いたことがなくわからないので、漢文に節をつけてうたう演歌のようなものと説明しています」(大笑)
ご宗家から見た春奈さんの印象は?
紫虹 「お行儀がよく、言葉使いがきれいで、今の子にしてはすごいなと感じます。また、どんな人ともお友達になれる点はうらやましいですね」
光虹 「お父様とお母様の素晴らしい育て方があって、今日の姉妹二人があるのだなと思いますね」
◎ ◎
コンクールについて聞きますが、いつから出ているの?
春奈 「幼年の頃からです。全国大会に出たのは少年の部になってからです」
そのときの成績は?
春奈 「全国大会に行けただけという成績です」(笑)
紫虹 「自動伴奏のときは本当に音程が取れなくて苦労しましたが(笑)、伴奏テープになってからこの子の良い面が出てきて、それから上手くいくようになりましたね」
予選で落ちているときの心境はどんなもの?
春奈 「上手い人がたくさんいるんだなと感心して(笑)、私では追いつけないと思いました」(笑)
初めて全国大会に出た感想は?
春奈 「もう緊張して、あがってしまい、その場から逃げ出したい気分でした」
光虹 「お姉さんの方はあがらず、こちらがビックリするほど舞台に強いのですが、春ちゃんは精神的に弱いようで(笑)、でもその分、繊細な吟を出せますね」
春奈 「ありがとうございます」
紫虹 「節調が細かで、それは持って生まれた才能だと思いますが、良く行くときと悪いときが激しく(笑)、聴いていても心配で」(笑)
光虹 「手に汗握りますよ」(大笑)
紫虹 「ただ感心するのは、コンクールでも最後まで釘付けで聴いており、その場でお勉強していることです」
今回の優勝の大きな原因は何でしょう?
光虹 「ここ二、三年伸びてきましたが、それは、言ったことをすぐ理解して、吟で表すことができるようになったからだと思います。さらに伴奏テープに乗って吟じられ、今年は運も良かったので、そうしたことが優勝につながったと思います」
春奈 「自分ではわかりませんが、吟じたあと、おだてかも知れませんが、皆さんが上手かったわよ、と言ってくれまして、自信がもてるようになったことでしょうか。それで聴いていただいているんだという実感も生まれ、そうしたメンタルなものが、自分の力になってきたのではないかと思っています」
自分の悪いと思っている点は?
春奈 「何が駄目かと言うと声が好きではなく、しかも姉と違い音程が悪いところです」(笑)
光虹 「節調が良いので、節を回してしまい、それで音程がくずれるのでしょう。だからと言って、私も節調をくずしたくはありませんし、節調か音程か、私もよく悩みました」
お姉さまから見た春奈さんは?
有紀江 「今のところ差をつけられていますが(笑)、身近なライバルと言うところです」(笑)
優勝と聞いたときはどうでした?
有紀江 「取られたと思いました」(笑)
春奈さんにとって詩吟の魅力とは?
春奈 「宗家先生に言われたのですが、一人でも聴いてくれる人がいるのなら、吟じなさいと。聴いてくれるなら嬉しいですし、それで詩吟を止められないと思います。また、大きな声を出すので、ストレス発散の意味もありますが(笑)、漢詩が好きで、文がきれいだし意味も美しいと思います」
好きな吟題はなに?
春奈 「春夜ですね」
優勝時の課題曲も「春夜」ですね?
春奈 「先生に何曲か選んでいただき、その中から自分が歌いやすいものを選びました。先生は、私たちに自分の主張をさせてくれますから」
光虹 「自分が選んだものは、自分が責任持って練習するだろうと思いますので(笑)、本人に選ばせるようにしています」
春奈さんへのアドバイスなどはありますか?
紫虹 「これからは社会人になりますが、青年にふさわしい吟法を身に付け、これで終わりではありませんから、またゼロからの気持ちでがんばって欲しいと思います」
光虹 「優勝を自信の切っ掛けにして、自信を持って自分の吟を吟じて欲しいと思います。技術的にはまだまだ幼少年のうたい方ですので、人生経験をつんで、大人のうたい方と発声に変えていってもらいたいです」
時枝 「先生の言うことを身に付けて、これからもがんばってもらいたいです」
有紀江 「これから同じ青年の部なので、今度は負けないようにしたいと思います(笑)。妹には特にないですが(笑)、私にもチャンスをください」(大笑)
光虹 「チャンスは自分でつかみなさい」(笑)
最後に春奈さんから何かありますか?
春奈 「これからも、先生の言うことを守って精進していきます」
本日はありがとうございました。自信を持って、これからもがんばってください。期待しております。
教場で優勝トロフィーを囲んで。前列右より星野紫虹宗家、荒崎春奈さん、星野光虹さん(師)、後列右より荒崎時枝さん(母)、荒崎有紀江さん(姉) |