剣詩舞の研究(特集) 現代リサイタルの展望(2) 石川健次郎
前回は「藤上南山作舞リサイタル」について、その目的、音楽制作、番組構成などを述べましたが、何しろ三時間のプログラムと云う膨大な内容で、細かくお伝え出来なかったのが心残りでした。
《ミニ・リサイタル火焔の如く・考》
さて、今回の「現代リサイタルの展望」は内容が約五分と、大変短いリサイタルです。タイトルは「火焔の如く」で、まずこの作品との出合いを述べましょう。開催は昨年八月五日、豊橋勤労福祉会館大ホールの日本壮心流・創流九十五周年記念・全国剣詩舞道大会です。例年の如く大会では門下生の演舞があり、記念式典が厳粛に行われた後に突然、特別番組「火焔の如く」が始まりました。これは例年にはなかったことです。然も出演者は入倉昭山、青柳弦太朗、多田正晃、見城星舟の男女混成四名で、入倉代表から最近入手した構成表によると、全段が六つの章から成り、それぞれのイメージや筋立て、演技者、振付者、更に舞台上のこと照明などが次の様に記されていました。
《企画構成・考》
[1]「序」
○照明ブルー
○キメポーズで目つぶし |
3人の男児と1人の女児の誕生(出演全員)。板付でドライアイスの煙の中から一人ずつ顔見せ。約30秒 |
[2]「風」
○照明カラフル・サス |
少年から青年への成長(出演者全員)四人横一列でリズミックな揃い振り。振付青柳、約45秒 |
[3]「森」
○照明ピンスポ
「月」
「アメーバー」 |
森の中での厳しい修行(出演、昭山と正晃)。静けさの中の気迫を棒術による殺陣でカラム。振付は入倉・多田、約45秒。 |
[4]「湖」
○照明ブルー
「リップル」 |
恋が芽生え、湖畔での静かな男女の舞(出演、青柳・見城)清楚でプラトニックな愛情表現を詩舞感覚で。振付青柳、約1分。 |
[5]「炎」
○照明アンバー(赤)
「流れ星」 |
敵の攻撃を受け、剣を取って国を護る若武者達(出演、入倉、青柳、多田)三角隊形で受け身主体の剣技。振付多田、約1分。 |
[6]「合戦」
○照明ブルー
「星空」
○ラストポーズでシルエット
○3秒で暗転 |
戦が激化し、女も闘いに加わり必死の奮闘(出演全員)多様な隊形変化を激しい詩舞感覚で見せラストポーズで終る。振付入倉、約1分10秒。 |
(照明注)
「目つぶし」舞台前面から客席に強い光を当てることで暗転幕の効果をだす。
「カラフル・サス」舞台上から多彩な色のスポット照明をする。
「アメーバー」舞台面に抽象模様を投映する。
「森」の章
「湖」の章
「炎」の章
「合戦」の章
以上の構成でおわかりの様に、この作品はドラマ的な内容ではなく、若者の心の叫びを題名の如くに心象表現して居ります。骨組みも序破急の法則に従って整然としたもので、また音楽は歌詞の伴わない小野尊由氏の録音テープが効果的に使われて居りました。
《制作集団・考》
このミニリサイタルの特徴として、通常だと企画構成者、振付者、演技者の役割分担がありますが、今回の様に参加者全員が振付なり演技者として、また企画構成にも参加する所謂「制作集団性」をとったと思われました。本来リサイタルの呼び名からは、やや変則ですが、この集団を一つの個性として考えれば納得できます。
そこで今回も電話やFAXによるインタビューで、四人の皆さんの発言を頂きました。
〈石川〉 昭山さん、今回の企画には若い情熱と新世紀初年度の生き甲斐を感じましたが。
〈入倉〉 若手剣詩舞家による「二十一世紀夢舞台」として、情熱的なステージを創りたいという思いで一致団結し、納得のいく作品に仕上がり満足しています。
曲自体がメリハリのある独創的なものなので、イメージはすぐに浮かびましたが、従来の剣詩舞の振付では合わないため、斬新な発想が必要でした。しかし、普段なら自分一人で頭を悩ませる作業も、全員が振付師なので色々なアイデアが飛び交い、とてもスムーズに創作が進み楽しかったです。
〈石川〉 弦太朗さんは「風」と「潮」の振付を担当されましたが、新しい表現についてどの様な技法をお考えでしたか。
〈青柳〉 言葉の無い題材であるため、音楽から受ける直感的なイメージを大切にし、「風」ではリズムにポイントを置き、勢いのある扇の揃い振りにより、四人の意気を合わせ力強さを表わしました。「湖」では静かで流れる様な動きを湖畔で戯れる二羽の水鳥の振りにより表現しました。
〈石川〉 星舟さんは今回紅一点でしたが、制作集団の一員としては、あまり女性を主張する事がなかったと思います。しかし参加されたお気持をお聞かせ下さい。
〈見城〉 このお話しを頂いた時は、果たして私に勤まるのであろうかと不安に思いましたが、先生方に励まされて頑張ることが出来たと思っております。剣詩舞の場合は、日本舞踊の様に、男役・女役と云う役割がありませんので、今回の構成作品にも自然にとけ込めたと思います。しかし「湖」の場面では自分らしさや、深い湖の底の静けさを出して舞うことが出来ればと思いました。
〈石川〉 正晃さんは、男性三人の受け身の剣舞で振り付けを考えたようですが、どんな発想なのでしょうか。
〈多田〉 受け身という考えは、最初からはなかったのですが、B GM(伴奏音楽)に合わせて基本的な型を主体とした剣技と、三人の位置バランスからスマートな剣舞になったと思います。しかし、そればかりでは面白くないので、片足二回転など今までの剣舞に無い振りなども追加しました。
〈石川〉 それと今回は多田正晃さんと入倉昭山さんの「森」の棒術が新鮮でしたね。
〈入倉〉 静寂の中での棒による真剣勝負が印象に残ったと思います。今回は舞台構成で最も重点を置いたのは、多様な変化です。特に最後の「合戦」は、扇の舞ですがクライマックスなので、前段の「炎」の剣舞よりも激しい戦闘を表現したく、フォーメーション(隊形)変化を駆使しました。
入倉昭山
(日本壮心鹸塒舞道・宗家三世)
青柳玄太朗
(青柳流剣詩舞道・師範)
見城星舟
(星舟流星舟会・会長)
多田正晃
(大日本正義流剣舞・四代目継承者)
《火焔の如く・評》
芸能一般では上演された舞台の評価を活字にする、所謂批評とか、評論があります。今回のリサイタルについての批評を公演直後に昭山さんに書き送りましたので、要点をかいつまんで次に述べましょう。「今回は式典に続く初めての試みで、入倉昭山さんが取り上げた”火焔の如く”の企画は若者の心意気がよく表現されていました。
まず四人の素踊群舞で、テーマに因んだ赤い扇の詩舞構成が印象的で、続く笛と鼓による二人の棒術が際立った動的な働きを見せました。この二人が次の二人にすり替るとムーディーな男女の扇の舞になり、緩急の変化に旨みを感じ、次は男性三人の剣技が隊形変化を巧みに取り込み、箏と笛の響きに赤色の照明が演技を盛上げました。さて最後の舞台はブルーの星空になって焔の収まりを感じさせたが、四人の扇による激しい動きは剣技に勝る輝きを放って、シルエットから目つぶしの照明効果が幕切れをエキサイティングに仕上げました」。
以上、今回はリサイタルの企画から本番の批評までをまとめてみましたが、舞台の雰囲気がおわかり頂けたと思います。次回三回目は、別な角度でリサイタルを展望いたします。