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詩舞
「和歌・春の夜の」の研究
藤原定家作
(前奏15秒)
春の夜の夢の浮橋とだえして
峰に別るる横雲の空
春の夜の夢の浮橋とだえして
峰に別るる横雲の空
(後奏12秒)
 
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貝合せ絵の浮舟(上)
 
◎詩文解釈
 この和歌の作者藤原定家(一一六二〜一二四一)は鎌倉前期の歌人で、幼少から歌才にすぐれ、二十八歳で「千載集」に入選、その後、後鳥羽上皇の和歌所寄人となり「新古今和歌集」の撰者となった。定家は「源氏物語」や「古今集」の校訂や、当時の貴族社会の研究著作も残している。
 さて「春の夜の…」の歌は、新古今和歌集の春歌・上に収められていて、その意味は「はかない春の夜の夢が、ふととぎれて目がさめ、外を眺めると、明け方の空には棚引く横雲が山の峰をはなれようとして、まるで夢の名残を見るようである」と云うもの。
 浮橋とは、舟を並べた上に板を渡して橋にしたもので、川の流れや波動でたえずゆれ動くことから、儚い不案な気分を云う。從って夢の浮橋とつながると、はかない夢のことになる。
 
◎構成振付のポイント
 この作品は一見、作者が述べていることが具体的であり、感覚的にもそのイメージが掴めそうに思えるのだが、さてこれを舞踊表現するとなると、誰がどの様な夢を見ていたのかを決めて置く必要がある。通常一般的には、作者自身が、作者に相応しいイメージの夢を用意すべきであるから、構成A案としては、例えば歌人藤原定家が、彼が得意とする源氏物語の世界の歌を創作中に机にもたれて寝てしまう。夢の中では相変らず創作が進行しているのだが(この部分が舞踊になりにくい)目がさめると、夢の中の景が峰にかかる横雲の景色につながる。構成B案としては発想を転換して、主役は定家ではなく、例えば源氏物語の末の巻「夢浮橋」に登場する薄幸の女性「浮舟」として、相手の薫と優美な連舞(相手はいるつもり)から、ふと薫が居なくなる。夢からさめて狂った様に探す振りになる。歌返しからは、浮舟に想を寄せていた匂宮が或る日彼女を宇治川に誘い隠れ家で愛の歌を詠み交す、と云ったドラマを浮舟の一人稱で舞踊化すれば、A案とは別世界の詩舞が生まれる。特に詩舞の演技者は女性が多いから、この様なシナリオ構成をいろいろ研究して欲しい。
 
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隠れ家の浮船(後向き)
 
◎衣装・持ち道具
 前項のA案による歌人定家で演じるのであれば、男女とも明るい色目の着付でバランスのとれた袴を選ぶ。扇は金地霞模様がよい。
 演者が女性でB案を選ぶのであれば平安朝の雰囲気の藤色、紫色、または朱、黄色などのぼかし模様の着付にバランスのとれた袴を選ぶ、扇は女持ちに相応しい品のある色や柄がよく、有識模様でもよい。
 
 








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