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吟詠のさらなる発展のための提言 舩川利夫先生に聞く
吟詠上達のアドバイス 第56回
 恒例の少壮吟士夏季研修は、今年も八月中旬にB&G東京センターで開催されました(本誌六、七ページ参照)。主な研修課目、演習吟では、吟詠発声法テキストに関連して、例年とは違った展開が見られ、その中でテキストのあるべき形が模索されました。
 
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船川利夫
 
舩川利夫先生のプロフィール
昭和6年生まれ。鳥取県出身。米子工業専門学校卒。
筝曲古川太郎ならびに山田耕作門下の作曲家乗松広両氏に師事、尺八演奏者を経て作曲活動に従事。現代邦楽作曲家連盟会員。
若くして全日本音楽コンクール作曲部門一位、NHK作曲部門賞、文部大臣作曲部門賞などを受賞されるとともに平成4年度(第8回)吟剣詩舞大賞の部門賞(吟剣詩舞文化賞)を受賞されている。
数多い日本の作曲家の中でも邦楽、洋楽双方に造脂の深い異色の作曲家として知られる。
おもな作品に「出雲路」「複協奏曲」その他がある。
また、当財団主催の各種大会の企画番組や吟詠テレビ番組の編曲を担当されるとともに、夏季吟道大学や少壮吟士研修会などの講師としてご協力いただいている。
 
少壮研修、テキストにも一役
的を得た指摘は難しい
本誌
 松川先生が提案された、テキスト各項目担当者が、研修吟についてコメントするというやり方、あれなかなか効果がありましたね。
 
舩川
 吟じる本人の勉強だけでなく、聞き手のほうも緊張するからいいでしょ。実は担当者がどのくらい解っているかも見たかったのです。
 
本誌
 それで結果はどうでした?
 
舩川
 半分は解っていないですね。特に力強く吟じるとききの共鳴の働かせ方なんかは、まだ勘違いしている人が多いです。例えばフシの大回しなどで、声を張り上げるときに、殆どの人の重心が高い。呼気の量だけで迫力を出そうとするから、「シャーッ」という摩擦のような呼気の流れの音が含まれた、鋭い胸郭だけの響きになってしまう。重心が下がっていると、滑らかで、まろやかな「ホワーッ」とした、からだ全体の響きになります。もっと共鳴の度合いを考えないと、読み下しの出だしはそれでもいいとして、その後も力で押そうとするワンパターンだからよくないのです。
 
本誌
 それは研修吟をお聞きになっての印象ですね。
 
舩川
 それと同時に、そうした指摘をする担当者が少なかったということ。もっとも研修吟者が同門の兄弟子だったりすると言い難い部分があるのでしょうか。
 
本誌
 少壮吟士の皆さんが各項目を担当して第一回目に書いた文章を「素案」として研修会当日にお配りしましたが、お読みになってどうでしたか。
 
舩川
 説明のキメ細かさの度合いといいますか、それがまちまちで、中にはかなり回りくどいものがあります。テキストは初心者向けではあるけれど、誰でも解っているようなこと、例えば発音にしても「ア」など比較的単純なものは細かい説明はしない、といった配慮は必要だと思います。
 
本誌
 ということは、初心者向けのテキストといっても、基本を一々説明するための本ではないと・・・。
 
舩川
 吟詠を志す人がいちばん苦労するところ、いわば勘どころを、うまく解説できる本になればいいと思いますね。
 
横隔膜(黒の放射線で示された)の位置を知る
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曖昧な「横隔膜の働き」
本誌
 わかりました。で、現実に戻りますと、「素案」の中で、どう見ても理屈として間違っているのではないかと思われる部分が何ヶ所かありますね。例えば横隔膜に関する記述とか・・・。
 
舩川
 これは呼吸法のところで必ず出てきますから、基本はしっかりと押さえておく必要があります。実際に横隔膜が発声とどんなつながりがあるのかはテキストに譲るとして。横隔膜が体のどのあたりに有って、それ自体はどんな性質を持っているかぐらいは、ちゃんと頭に入れておきましょう。
 この間の少壮吟士研修のときに中尾(仁泉)さんが近く発行する本を見せてもらいましたが、あの記述がよく整理されていて解りやすいと思います。
 
本誌
 では「師匠のノドチンコ」(本の題名)を発行された中尾仁泉吟士と、著者である泉照生氏にお断りして、横隔膜に関する記述と図を紹介します。
 これで見ると横隔膜の背中に接している場所は腰のすぐ上、しかし息を吐いたときの上部(円蓋)が、体の前の方では乳首あたりまできています。
 
舩川
 場所を知ることでその存在を意識する。いいですね。
 
本誌
 横隔膜とは一体何物か。スペースの関係で大事な部分だけを抜書きしますと、横隔膜は胸腔と腹腔との境をつくる膜状の筋肉で、筋肉の束からなっている。自分で収縮運動し、収縮すると胸郭が広がり、肺が大きくなって空気を吸い込む。息を吐くときは腹筋(側腹筋、腹横筋)が収縮して横隔膜を持ち上げる。
 
舩川
 腹式呼吸のポイントはその辺ですね。息を吐ききったあとで、自然に、普通の呼吸程度の息が吸えるのは実は横隔膜自身による収縮作用があるからだということも、これで解りますし、これ以上息を吸うためには腹筋の力で横隔膜を押し下げる必要がある、など、あとは自分で考えれば解ってくる筈です。








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