平成十三年度夏季吟道大学
■平成十三年七月二十七日(金)〜七月二十九日(日)
■全国モーターボート競走会連合会本栖研修所
積み重ねられた三十三年。本栖研修所、最後の吟道大学
昭和四十四年、笹川良一創始会長によって発案された夏季吟道大学は、三十三年目となる今年で延べ三千四百三十九名の受講者を送り出してきました。そして、その舞台となったのが本栖研修所でした。しかし、新しい競艇選手養成施設が福岡県に落成、本栖の施設が今年で閉鎖されるため、夏季吟道大学が本栖で行われるのは今年で最後となります。このため参加した受講者にも特別の感慨があったことでしょう。
開講式であいさつする河田神泉学長代行
七月二十七日(金)
正午少し前、よく晴れ渡った本栖研修所のグラウンドに、受講生を乗せたバスが到着しました。財団役員の方々が手を振りながら一行を迎え、講堂へと受講生を先導して行きました。そのあと、一行が昼食を済ませると、午後一時、矢萩保三事務局長から事務局通達があり、例え各流各派の宗家会長といえども、一生徒となってルール(礼と節)を守り、課業に取り組むようにとお話がありました。また、笹川鎮江会長が体調の都合で欠席される旨が伝えられ、皆残念がっていましたが、最も残念だったのは笹川鎮江会長ご自身ではなかったでしょうか。なぜなら、この大学にかける会長の意欲は人一倍のものがあったからです。通達の後、役員、世話役、受講者が紹介され、つづいて鈴木吟亮専務理事が開講のことばを告げました。そして、河田神泉副会長が学長代行として「学長あいさつ」で、「吟詠に精進され、礼と節を旨とし、有意義に夏季吟道大学を過ごされてください」と笹川鎮江会長の言葉を代読されました。交講者のことばでは一班の林煌成班長が力強く宣言し、記念合吟では富山廷泉副班長が堂々と先導を果たし、プログラムは課業へと移っていきました。
朝の点呼を終え、事務局長が学長代行に「異常なし」を報告
始めの課業は河田神泉副会長による「吟剣詩舞の向上と指導者の役割」で、吟詠の振興は吟士自身のたゆまぬ勉強と向上にあり、現代の人が素晴らしいと感じる吟詠家になることが大切だと語られました。次に、高群華要常任理事が「財団の組織運営と吟剣詩舞道憲章の精神」について、財団の運営資金のことから活動まできめ細かに話され、リーダーに望むことでは人格や統率力のほかに、他流派への指導などの注意事項が語られました。つづいて鈴木吟亮専務理事の「審査規定の解説とコンクール審査の実態」では、笹川鎮江会長の審査員講習会講義録をテキストに、審査の方法や採点の要領など、実地に審査するときの重要なポイントが述べられました。
夕食後は演出家の石川健次郎先生が「吟詠家の舞台動作」を講義なさいました。吟詠といえども芸術性を求めるなら、舞台におけるルールとマナー、舞台機能を活かすことが大切という見地から、舞台の約束事、上手な聞かせ方見せ方などを話されました。
七月二十八日(土)
午前七時二十分、点呼のあと、健康かけ足、とり舟体操が行われました。点呼はモーターボート競走選手の育成訓練と同等の厳しいものですが、これが本栖研修所のよい思い出になる人が多いようです。とり舟体操は笹川良一創始会長が創案し、とり舟体操後のさわやかさは格別なものがあります。
午前の初めの課業は意見交換会で、テーマは「吟詠の普及振興をめぐって」でした。まず入倉昭星常任理事が「剣詩舞道家から吟詠家への要望」を、工藤龍堂常任理事が「財団の財政と月刊吟剣詩舞」を、田口實凰常任理事が「青少年層に対する普及」を話され、つづいて各班の代表が意見を発表しました。
一班の林煌成さんは「青少年育成の場を希望する」、二班の今村峰啓さんは「教育の場へ取り込んでもらうために、財団のバックアップを」、三班の中村紘風さんは「吟詠の高年齢化が問題」、四班の金成吟賛さんは「青少年が親しみやすい教本の作成」、五班の藤田吟孜さんは「吟詠以外の趣味を通じて、吟詠の魅力を知らせる」、六班の一ノ瀬暁燕さんは「青少年が辞めずに続けるにはどうしたらよいか」など、吟詠の現状を反映する意見が出されました。残りの班は夕食後の発表となりました。
受講生のことばを述べた●一班班長 林 煌成さん
「バスの中で知らされ驚きましたが、精一杯やりました。夏季吟道大学は話に聞いていた通り厳しいものでしたが、学んだことを持ち帰り、弟子などに教えたいと思っています」
記念合吟の先導をした●一班副班長 富山 廷泉さん
「自分なりに頑張りました。ここで吟詠に対するいろいろなことを学び、それを実践し、弟子ともどもより高い吟を目指したいと思います。来られてよかったです」
「心の豊かさと真の人生」について講話する中山靖雄講師と、熱心に聞き入る受講生たち |
次の課業は修養団伊勢道場道場長の中山靖雄先生による「愛と汗の実践−心の豊かさと真の人生−」で、先生のユーモアと人間性あふれる語り口が聞く者を感動させ、受講者の目にはいつしか一滴の涙が流れていました。
午後は舩川利夫先生の「吟詠の発声法−その理論と実際−」が開かれ、夏季吟道大学でも名物といえるほどの厳しい指導が受講生に対して行なわれました。その厳しい指導を受けた人は道下登竜、斎藤石舟、湯浅翔研、兵頭松詠、山下学風、長澤苗翠、照屋智岳、中田黎菖、小林麗月、細川修康、小野寺誦華、辻柳伸怜、吉川摂正、藤井伯陵、藤井鳳翔、古賀鶯鳳、太田岳美、白石光

子の皆さんで、「あごを引け」「足を開け」「腹が出ている」などなど、汗だくになりながら頑張っていました。
夜は意見交換会のつづきで、七班の佐藤峯深さんが「どのCD伴奏を選んでよいかわからない」、八班の高橋嶺香さんが「要望だけでなく、私たちに何ができるかを考える」、九班の山口春翔さんが「生涯学習の中に吟詠を取り入れる」、十班の山本芳耀さんが「振興のために、いろいろなメディアを活用する」、十一班の小野寺誦華さんが「病気でも吟詠に頑張っている人がいる」、十二班の松坂真成さんが「若い人とのギャップを感じる」などが出され、財団役員との熱の入った質疑応答が時間まで繰り広げられました。
七月二十九日(日)
最終日は医学博士の道場信孝先生による「医師に期待できることと自分でできる健康管理」から始まり、中高年者が生活習慣病にかかるのを、どのようにしたら遅らせることができるか、上手な年の取り方、などについて中味の濃いお話でした。閉講式では受講生を代表して古賀鶯鳳さんが感謝の言葉を立派に述べました。修了証書授与では河田神泉学長代行から一人ひとりに修了証書が手渡され、皆やり遂げた充実感あふれる表情でそれを受け取っていました。
昼食を済ませると、受講生はグラウンドに停車していたバスに乗り込み、一路帰途へと着きました。車窓から見える本栖研修所が小さくなるにつれ、来年から始まる新しい場所での夏季吟道大学への期待が高まってきました。