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吟詠のさらなる発展のための提言 舩川利夫先生に聞く
吟詠上達のアドバイス 第50回
この連載が五十回目を迎えました。そこで一つの段落として、昨年、舩川先生が提案された「吟詠発声の方法論づくり」を具体化する方向で、作業に入っていただくことに致します。先ずその概要から…
 
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舩川利夫
 
舩川利夫先生のプロフィール
昭和6年生まれ。鳥取県出身。米子工業専門学校卒。
箏曲古川太郎並びに山田耕作門下の作曲家乗松明広両氏に師事、尺八演奏家を経て作曲活動に従事。現代邦楽作曲家連盟会員。
若くして全日本音楽コンクール作曲部門一位、NHK作曲部門賞、文部大臣作曲部門賞などを受賞されるとともに平成4年度(第8回)吟剣詩舞大賞の部門賞(吟剣詩舞文化賞)を受賞されている。
数多い日本の作曲家の中でも邦楽、洋楽双方に造脂の深い異色の作曲家として知られる。
おもな作品に「出雲路」「複協奏曲」その他がある。また、当財団主催の各種大会の企画番組や吟詠テレビ番組の編曲を担当されるとともに、夏季吟道大学や少壮吟士研修会などの講師としてご協力いただいている。
 
筋道立てた発声の方法論を作る
 今月は吟詠の練習などについての具体的なお話ではないので退屈かもしれませんが、長い目で見て大切なことですから一緒に考えてみてください。
 私が「吟詠の発声に関する方法論をまとめる時期が来ているのではないか」と申し上げたのが去年の二月でした。これまでに誌上をお借りして、その時々に気付いたこと、あるいは読者の皆さんからの質問に答える形で、吟詠の技術を磨く上でのヒントをお話してきました。内容によっては何回も同じことを言ったり、反対に殆ど触れていない事柄もあると思います。
 読者の反応はまちまちで、それを要約すれば「大変参考になる」という月並なことになってしまいますが、一方で、「舩川の言っていることは、少壮吟士を目指すような人達を対象にしているのではないか。我々初心者が知りたいのは、どうしたら吟詠らしい声が出せるかというような基本のこと」という意見も多く寄せられました。
 そこで声を出すという基本について少し筋道を立てて、まとめてみよう、というのが方法論づくりの出発点の一つです。非常に身近な視点からの発想です。
 もう一つは、吟詠を「音楽芸術」「伝統芸道」として発展させるには、折角できかかった音楽としての吟詠を、もっと高度な水準にまで引き上げて、魅力あるものに育てなければいけない、これが二番目の大きな理由です。別ないい方をすれば、いくら歴史と伝統がある芸道でも、時代の移り変わりや多くの人々の感覚の変化を睨みながら、本来の良さを維持していかないと、知らないうちに世の中から置いてきぼりにされてしまうということです。邦楽の特徴と、洋楽の良さを、どのように採り入れればよいか、これも一つのポイントとなります。私の感じでは、カラオケなどいろんなものの影響で、吟詠の発声方法自体がぐらついてきているように思えます。いわば大きな時代の流れから見た、方法論の必要性といいましょうか。
 
テキストとして使えるものを
 これらの基本的な問題点を整理して、現場の第一線で活躍している吟詠家の実践的な意見を大いに取り入れ、私の見解を加えてまとめ、一種のテキストブックとして使えるようなものになればいいと思っています。
 主な項目として考えられるのは、
[1] 立位、姿勢
[2] 呼吸法(息継ぎの仕方を含む)
[3] 発声法(共鳴の理論を含む)
[4] 発音(母音と子音)
 の四項目になります。
 
アンケートから始める
 まとめるまでの順序として
[1] 前述の基本四項目をアンケートの具体的な質問に書き換え、財団行事などで活躍している吟詠家ら何人かにアンケートを送り、回答してもらいます。
[2] 各項目ごとに意見、回答を集計、集約します。
[3] 集約された回答に私の見解を加えて、初心の方にも分かるよう、筋道を立ててテキストふうに編集する。
と、お話だけですとしごく簡単そうなことです。しかし、実際に声を出すという行為を、文章の上だけでどこまで納得がいく説明ができるかとなると、結構難問が多く出てきます。
 これについては、その次の問題として考えることにしましよう。








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