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漢詩初学者講座   伊藤竹外
吟詠家に漢詩のすすめ―(三十六)
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伊藤竹外
 
伊藤竹外先生プロフィール
愛媛漢詩連盟会長
(16吟社、会員200名、毎月指導、添削)
六六庵吟詠会総本部会長(吟歴60年)
財団公認愛媛県吟剣詩舞道総連盟理事長
財団法人日本吟剣詩舞振興会理事
平成5年 文部大臣地域文化功労賞
平成8年 財団吟剣詩舞大賞功労賞
著書 豫州漢詩集(編著)
   南海風雅集(編著)(2版)
   漢詩入門の手引き(10版)他。
 
一、新世紀を詠う使命観を持つこと
 先日、現代漢詩界の第一人者である進藤虚籟先生より土屋竹雨先生の学識、漢詩などを紹介した「水莖」誌を拝受しましたが、その表題は何と「李白、杜甫ばかりが漢詩ではない」として近世日本の森春涛、槐南、国分青?、土屋竹雨、子規、漱石などの漢詩が決して中国に劣らないことを力説しておられました。
 さて、一方吟詠界では全国吟詠コンクールなどの毎年課題が変っても殆んど日本人の詩が選ばれ、李白や杜甫などの中国詩を選ぶものは二パーセントにも及んでいません。
 辞書を片手に眼で鑑賞する文学が漢詩であり、むつかしい詩語を諳んじていなくてはその妙趣を理解しがたいのに対し、一瞬にして消え去る詩語を受けとめつつ味わう吟詠は内容よりも声に、節に捉われ而して繰り返し巻き返し同じ吟題に寄りかかっているのが吟界です。
 土屋竹雨先生が戦後「原爆行」を詠じて感動を呼び起したように、現代の漢詩家が混迷の世相の中で特に吟詠家の中から選ばれた天命であることを自覚し、新世紀の事象を捉え、新しい感覚を以って学び、、詠むことに使命観を持つ要があろうかと思います。
 愛媛では自作漢詩吟詠発表大会を年々開催しているのも右の意見に據るところです。
 
二、日本名城集「詠○○城」について
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 大坂城に據っていた豊臣秀吉が滅んだ後、「一国一城令」によって多くの城が取り壊されましたが、今も日本全国到る処に三重、五重の、天守閣が偉容を誇っている他、石壘、残濠、楼門などの遺蹟を留め観光の名勝地となっています。
 近刊「城」B4版、五巻の写真集、解説篇、城を知る事典を参考として、投稿詩を比較拝誦しました。
 漢詩は事実を述べるのみでなく、その背景を基として詩的展開をはかり如何に現代感覚を以って餘情を表わすかにありますが、これがその技倆と相俟って容易でないことが分りました。以下例によって初学者のために参考例を挙げておきます。
三、何処にもある風景は適しない
 それぞれ天下の名勝ですから単なる風景詩の詩語を寄せ集めても、その特徴が表われていなければ課題に適しません。
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 いずれも城に脈絡していません。
 又、「星移物換」「龍爭虎闘」など使い古された詩語は最早常識となり現代感覚にあいません。
四、結句が振わない
 これも毎月指摘していますが、安易な詩語で結句を締めくくらないこと。
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 拙著「漢詩入門の手引き」(選んでならない詩語)参照のこと。
五、添削実例
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