[実例3] さくまち共同作業所と町立佐久中学校の交流
□はじめに
実例3では長野県佐久町の「佐久中学校」と、「さくまち共同作業所」の交流活動について紹介します。この交流はまだ今年度(2001年度現在)に行われたばかりの新しい活動ですが、学校と連携した早期の啓発教育を行っていること、またその中で非常に深い交流が行われているという特徴があります。学校と連携した活動の1つの興味深いあり方として、ここに紹介することにしました。
□活動の経緯
佐久町は長野県中部に位置し、JR小海線海瀬駅を中心とした人口9000人弱の町です。
町立の佐久中学校では、もともと平成8年(1996)に当時の文部省から「豊かな心を育む教育実践研究協力校」の指定を受けており、指定解除後も学校裁量の時間内で「豊かなこころの活動」を実践してきたという、同和教育なども含めた、体験を通した道徳教育に関して熱心な学校です。特に、3年生においては、年に4回の町内外の医療・福祉施設への訪問実習を行うなど、体験的な活動による自己・他者理解の時間を設けていました。
こうした実習を受け入れてきた施設は病院や高齢者施設など様々なものがありますが、そのひとつに佐久町の社会福祉協議会が運営している老人福祉センターがあったのが、さくまち共同作業所との交流のきっかけでした。
さくまち共同作業所は、知的障害、精神障害の合同の町営作業所です。企業の下請けを作業の主としており、現在は菓子の箱の組み立て等を行っています。作業所は老人福祉センターの1室を借りて運営されているのです。この老人福祉センターに中学校の生徒が訪問実習に来るのをみて、作業所の指導員の方は「せっかくお隣の高齢者のところに訪問実習にくるのだから、うちの作業所にも訪問実習してくれないかしら」と思ったそうです。そこで社会福祉協議会の係から実習を担当している中学校の先生にその旨を口添えしてもらったところ、先生もそうした施設の存在を知って興味をもたれ、ぜひやってみよう、という運びになったのです。
□活動内容
さくまち共同作業所はメンバー12名・スタッフ3名で、センターの1室を借りて行っている比較的小規模な作業所です。そのため、実習の受け入れ人数は数人程度が適当ということになり、実際、この施設への訪問を希望した生徒4人を受け入れることになりました。
実習は年4回に分けて行われ、生徒は丸1日をその作業所で過ごすことになります。その内容は、まず生徒がともかく話すところから始まります。生徒やメンバーが住んでいる近所の話や世間話といった身近な話から始まったそうです。最初スタッフの方と生徒が話を始めて、徐々にメンバーと生徒が馴染んでいくようにしたそうです。昼食やおやつを一緒に食べたりする時間をゆっくり設けたことも、生徒と作業所のメンバーが自然に触れあうのに役に立ったということです。
また、作業所が受注している軽作業(菓子箱の組み立て)を、メンバーと生徒が組になって行うこともしているとのことです。ここではメンバーが生徒に作業のやり方を教えたり、生徒がメンバーの作業を手伝ったりという相互的な交流が作業を通じて行われています。なお、障害者と触れあう上での基本的なことを伝えるため、保健婦による生徒へのガイダンスが2回目の実習の際に行われたそうです。これは学校の先生も精神・知的障害については専門的な指導が出来ないため、必要性を感じたため設けられたそうです。
また、さくまち共同作業所では地域交流の一環として、老人福祉センターとは別の高齢者福祉施設(デイケアなどを含む)等へ慰安訪問し、メンバー・スタッフがともに高齢者のために歌を歌ったりダンスを発表したりする活動を行っています。実習では、歌やダンス(キッズ・ソーランという踊り)を生徒にも練習してもらい、メンバーと一緒に街の催しでも数回発表したそうです。この踊りの体験は生徒にとっても非常に楽しい体験だったようで、終盤には生徒は積極的に楽しんで自ら参加してくれたようです。
□活動の特徴
<教育との連携>
本活動の最大の特徴は、学校と連携した取り組みであることです。こうした取り組みは一見むずかしいようですが、本事例における佐久中学校では人権教育・ボランティア活動への関心が高かったため、作業所のスタッフの声かけがきっかけで、それを実現することができたのです。人権・ボランティア教育への関心を持っている学校であれば、啓発的な取り組みは積極的に受け入れられ、施設・学校ともにお互いのニーズを満たすことが出来る、という好事例であるといえるでしょう。
小・中学校では平成14年度から、高等学校において平成15年度から「総合的な学習の時間」が本格実施されます。これは子どもたちに自ら学び・考える力や学び方やものの考え方などを身に付けさせ、問題を解決する資質や能力などを育むことをねらいとするものですが、この時間のためにボランティア教育に興味をもったり、取り入れる教育内容を思案している学校は多いようです。しかし、本事例でも担当の先生も指摘していましたが、精神障害の問題について教育関係者は必ずしも詳しいわけではなく、授業課程に取り入れるという発想は浮かびにくい実態があると思われます。ですから逆に、こうした関心を持っている学校に向けて、施設の方から積極的にプログラムを提案して働きかけていけば、協力してくれる可能性があると言えるでしょう。また本事例では、作業所のスタッフが交流活動の内容を自分たちで準備した点も、プログラムの実施・受け入れを容易にした要因の一つかもしれません。
<ゆっくりと時間をかけた交流>
この活動の特徴として、年に何回かのプログラムということで、単なる見学にとどまらず、比較的時間をかけて生徒がゆっくりと当事者と交流することができた点が挙げられます。例年、年1回障害者の日には、地域にある各施設の障害者が集まり、中学校の全生徒と触れ合う「障害者ふれあいの集い」が佐久中学校ではあったそうですが、1日その場限りの触れ合いとなってしまい十分な交流ができなかったようです。今回の実習でも、あまりに多くの生徒が来てしまっていたら、生徒と当事者が十分に触れあうことができなかったかもしれません。しかし、今回は少人数が1日中、4回繰り返し共同作業を交えた実習を行うというスタイルを取ったため、生徒と当事者がゆっくりと交流することができ、互いの関係は非常に密になったようです。
また、お昼やお茶の時間が設けられていたことも、生徒からは「話せる時間ができてよかった。これは他の施設の実習にはない」と好評で、コミュニケーションを深めるための、ゆっくりした時間を設けることが大切なことが分かりました。
なお、学校側では、実習の度ごとに感想や今後の自分の課題を文章としてまとめる作業を取り入れるなど、こうした体験をその場限りで流さず、生徒が交流を自分の体験として再解釈し、自分のものとする工夫をしている点も見逃せません。
<楽しめる共同作業の取り入れ>
この活動では作業所が請け負っている軽作業、ダンスや歌など一緒にする作業を通じて、触れ合いが行われていました。こうした共同作業を行うことによって、「共通の目標に向かって対等に触れあう」ことが促進されたようです。指導員の方からは、「やった作業(箱の組み立て)も比較的むずかしくないものだったから、当事者とコミュニケーションをとりながらできてよかったのではないか」という声も聞かれました。
また、特に踊りや歌などメンバー・生徒ともに楽しんで行うことが出来る活動を組み込まれていたことが、生徒の体験への印象をポジティブなものにしたようです。
生徒からも「(作業や踊りは)自分で動かないといけないから積極的に参加できた」という話が聞かれ、楽しめる作業を共に行うことが、体験をより主体的でポジティブなものにする様子がうかがえました。
<若い年齢層に、触れ合いの中からイメージを持ってもらうこと>
参加した生徒からは、実習に参加する前に「精神障害者」と聞いてもイメージが浮かばなかった、という話が聞かれました。また実習期間中に大阪における池田小学校児童殺傷事件が起きましたが、当初精神障害者とされていた容疑者と作業所のメンバーはあまりにも印象が違い、両者は頭の中では結びつかなかったと生徒は話していました。実習を終えた今、精神障害者に否定的な印象はなく、「私たちとそれほど変わらないけれど、私達よりこころがやさしくナイーブな人」という印象を抱いており、何より実習が楽しかったそうです。
ここでは、楽しい触れ合いの中で肯定的なイメージをもってもらうことの重要性はもちろん、特に若年期において「精神障害者=危険・こわい」というだけの偏ったイメージを抱くようになる前に、具体的なイメージを持ってもらうことの大切さが、示唆されています。人は最初から精神障害者に偏見を持っているわけではありません。徐々に偏見が形成されていき、それが精神障害者への距離を広げ、誤解を生じさせていくという悪循環を起こしていくものと考えられます。そして、一度抱かれ悪循環を起こして強化される偏見を解消していくのは容易なことではありません。そこで偏見が抱かれる前の若年層に、豊かで親密な触れ合いを提供して、具体的で偏りのないイメージを抱いてもらうことが重要なのです。
<地域の中でのボランティア活動>
さくまち共同作業所では、当事者自身が「自分たちでも何か出来ないか」と、歌や踊りで高齢者の慰安というボランティアを行っていました。そのことについて、学校の先生が非常に感銘を受けたようです。また、地域の施設の清掃活動なども積極的に行っているようです。こうした地域へと開かれた活動が、今回の事業に膨らみをもたせることになったといえるでしょう。
□まとめ
既に述べたように、今回の実習の前、生徒は精神障害者に対して具体的なイメージを抱いていなかったといいます。しかし、実際に交流したあとでは、生徒からは「多少は違いはあるかもしれないけど、私達よりナイーブで優しい人達だと思った」という感想が得られました。また、池田小の事件とのつながりを聞かれたときには、ある生徒から、「精神障害とまとめて言うけれど、その言葉が広すぎるのではないか。いろんな人を含みすぎているから誤解されやすいのではないか」という洞察を含んだ意見も聞かれました。生徒達はこの実習の深い交流を通じて、精神障害者についてこれまで暖昧だったイメージを具体的なものとし、一歩すすんだ認識を得ているように思われました。その認識はけしてネガティブなものではないのは間違いありません。また、実習の時間外にも作業所を訪れたり、中学校の文化祭にメンバーを招待したり、と、交流は決められた授業の枠を超えて、人と人としての繋がりにまで広がりをみせたようです。
また、この交流は、平成14年度(2002年度)からの「総合的な学習」の実習活動の一つとして継続されるようです。今後、このような学校と作業所の連携の中で、若い人たちに理解が広まっていくことは、非常に期待の持てる啓発的な取り組みといえることでしょう。