[事例2] くるしま(来島)フリーマーケット
□はじめに
「くるしまフリーマーケット」は、家族会が母体となって設立された作業所を中心に、「精神障害者に理解を求める」啓発活動の一環として、平成9年から短大のグランドを借りて毎年5月中旬に開催されているイベントです。その最大の特徴は、平成13年5月の第5回目には4000人を越える一般市民を集めるにいたったという規模の大きさです。市の一大行事にまでなった経緯を整理しておきたいと思います。
□「くるしまフリーマーケット」の開催
今治市は、愛媛県の中央部で瀬戸内海に面した人口約13万人の都市で、周辺郡部を合わせた来島地区は、人口19万人になります。
来島家族会は平成3年(1991)10月発足しました。また、来島共同作業所は平成6年(1994)10月、ご家族の自宅の一室を借りて始められ、翌平成7年には約40坪の敷地をもつ現在の建物に移転しています。また、「クリエイト21」はタオル組合所有の建物を借りて、平成9年(1997)10月に開設された憩いの場的な作業所です。
今治市社会福祉協議会に「精神障害者のために」と使途を指定した匿名の寄付がありました。そのため、この寄付金の使用方法を検討するために「精神保健と福祉に関する検討会」が平成8年(1996)に設置されました。そこでの意見交換の中から、フリーマーケットを開催して人を集めれば、精神障害に対する啓発にもつながるし、作業所のことを知ってもらうこともできるのではないかという意見が出てきたため、検討会を中心にフリーマーケット実行委員会を立ち上げることにしました。委員会は、当事者、市民ボランティア、保健所、市担当課、社協、県立病院、私立病院、精神保健ボランティアグループ、家族会、作業所職員などで構成されていました。
この実行委員会が中心となって、マーケットへの出店を呼びかけたり、開催のPRを行ったりして、平成9年(1997)5月に第1回の「くるしまフリーマーケット」が開催されました。出店の呼びかけは、スーパー、朝市、商店にチラシを配布したり、市広報やタウン誌に載せてもらったり、公民館にポスターを貼ったりして行われました。また開催の案内は、市内の保育所にチラシを持ち込み、子どもたちに持ち帰ってもらう方法をとったそうです。
開催場所の短大グラウンドは、当初頼み込んで借りることができ、はじめは借料も払ったのですが、啓発活動であることを理解して返してくれました。その後は、無料で借りています。さらに、この短大には介護福祉士養成の課程もあり、非常に協力的であるとのことです。
3回目からは、断らなければならないほどの出店希望者が集まるようになりました。それ以降は、前年度の出店者に案内を出すのと、広報に載せるだけにとどめています。現在は、100を越える希望があるものの、スペースの関係から80店に制限しています。出店者には何らの条件もなく、素人・プロの区別も問いません。県外からの申し込みも多いのですが、結局は、人が多く集まって売り上げが期待できるからこそ多くの出店希望があるのだろうと思われます。
□協力者・出店者への啓発活動
会場は決して交通の便のいいところではなく、また地方都市の場合、ほとんどの人々は自家用車での移動を常としているため、こうしたイベントの開催に当たっては駐車場の確保及び車の誘導が非常に重要な要素となります。くるしまフリーマーケットでは、会場周辺の空き地、および利用可能な駐車場など10カ所程度の場所をこの日に限って確保しています。
地図によって空き地を確認すると、その土地の持ち主を探し出し、イベントの趣旨等を説明して了解を取っています。また、スーパーマーケットやパチンコ店の駐車場の一部を混雑時にもかかわらず貸してもらっています。結局、駐車場を確保すること自体が啓発活動の一部になっているともいえます。
また、来場者の誘導については、駐車場付近は家族会会員と会場の短大生が行っていますが、大通りでの誘導は素人にはむずかしいため、保健所職員を通して市の交通安全協会に依頼し、地区の交通安全指導員を5名ほど出してもらっています。
出店者には、当日の1週間前に説明会を開催し、実行委員が精神障害についての説明をしています。出店料は、4m×7mのスペースで1000円、そのほかに売り上げの1割程度をチャリティとして募金してもらうよう依頼しています。しかし、各店の売り上げをチェックしているわけでもなく、全体としての収入は、スペース代の8万円とチャリティを合わせて25万円程度です。
ポスターの印刷などの支出に15万円ほどかかるため、イベントの収益としては10万円程度となります。4000人もの市民を集めながら、あまりにも少ない額です。主催者側としては、次回の準備金が残ればよいという程度の構え方だそうですが、さすがに次回からは、出店料を2000円に値上げすることも考えているとのことでした。
□参加者への啓発活動
2回目までは、とにかく開催することだけを考えていたため、啓発活動という本来の趣旨はおざなりになっていたそうです。流れがだいたいつかめて余裕が出てきたのは3回目からで、まずは、来場者のターゲットをどうしぼるかということから考え、子どもたちを呼べるような企画を立てることにしました。というのも、子どもが行きたいと言えば、親や祖父母たちもついてくるからです。
そのため、開催の案内は、今治市のすべての小学校・幼稚園・保育園に持ち込み、子どもたちにチラシを持って帰ってもらうことにしています。最初は、市の保健婦が説明にまわってくれましたが、今では実行委員とボランティアがまわるだけでも間に合うようになっているそうです。
また、会場近くの保育所と幼稚園に通う子どもたちが描いたぬり絵を会場に展示し、それによって、展示されている子の家族が見に来るようにもなっています。
さらには、幼児教育を学ぶ学生たちがボランティアとしてお化け屋敷をつくったり、ゲームコーナーを開くなど、子どもたちが楽しめる企画を充実させています。
そして、警察からは、本物のパトカーと白バイが自由に乗ったりさわれるように貸し出され、展示されています。はじめは、消防署のはしご車を展示する案もあったそうですが、会場の高さ制限で中に入れないため、パトカーになったとのことでした。最初は、市の精神の担当課課長が同行して説明してくれたとのことです。
また、移動動物園の協力を得て、小動物と触れあうコーナーも設けていましたが、動物たちがストレスで体調をこわしてしまうため、次回から取りやめることになっています。
□当事者による啓発活動
フリーマーケットには、家族会も作業所も出店しています。テントなどは短大から借りていますが、前日に張り終えていなくてはなりません。これがかなりの重労働で、メンバーたちも最初は手伝うのを渋っていました。だが、今では率先して協力してくれています。おそらく、このイベントを始めて、最も変わったのはメンバーではないかとのことです。
最初は、どうしてこんなイベントを開催するのかメンバーも納得していなかったようです。というのも、啓発活動を謳い文句にしていながらも、実際にはイベントを無事終えることだけに気をとられていたからでもあります。実際、3回目までの開催案内のチラシには「精神障害」という言葉が全く入っていませんでした。ただ単に忘れていただけとのことですが、4回目になって、ようやく「精神障害者と交流を深める」という言葉が入れられることになりました。
もともとは、作業所について知ってもらいたいということで、作業所の紹介チラシを会場で配布していましたが、それが精神障害全般について知ってもらいたいという思いに変わり、精神障害者とは何かといったチラシを現在では配っています。
精神障害についての理解を深めてもらうために、会場内にパネルコーナーも設けられていますし、ビデオも放映されています。また、これらのチラシは出店者にもわたして、買い物袋にも入れてもらっていますが、会場で来場者一人一人に直接手渡しするのは、すべてメンバーの役割になっており、開催案内のポスターをスーパーなどに貼りに行くのもメンバーの役割です。
結局は、こうしたポスター貼りやチラシの配布を通じて市民の方々と接触しながら、「早くよくなって下さい」とか「来年もまた来るよ」といった声をかけられ、心配していたような冷たいまなざしを向けられるようなこともなく、逆に何事もなく終わっていくということが実感できるようになりました。すなわち、自分たちがおそれていたようなことが何も起きないことで、自信につながり、啓発してもらっているという意識から、自分たちが自ら啓発しているという手ごたえに変わってきたようです。
第1回目では、家族会会長が実行委員長として開催当日に開会の挨拶をしていましたが、続く2〜4回目は、メンバーが実行委員長として挨拶しています。
また、現在では、実行委員17名+αのうち、6名が作業所メンバーであり、内5名が啓発を担当して、何をどのように伝えればいいのかといったことについて意見を出し合うなど、主体的な関与の程度が深まりつつあります。
マーケット自体は、10時から14時までの開催ですが、その後の片付けもメンバーに協力してもらっており、当日の表情は、自信に満ちたというか、何かをやり遂げた手ごたえというか、作業所では決して見ることのできない表情になっているそうです。作業所スタッフによれば、「メンバーさんのこの表情を見たら、どんなにイヤなことやつらいことがあってもやめるわけにはいかない」とのことでした。お金には換算することのできない一番の収穫なのだといえるでしよう。
□来場者アンケート結果
第5回の来場者に対して、保健婦及び学生ボランティア10名が対面式のアンケートを実施し、計239名より回答を得ました。その結果、初めての参加という人が56%で最も多いのですが、逆に言えば、半数近くはリピーターであり、4回以上の参加者も1割近く存在しました。
開催目的については、「地域のバザー」や「学校行事の一環」と考える人も約4分の1存在しますが、約7割の人は「精神障害者の理解を深めるため」と答えています。同じ質問を第4回の来場者にした際には、約6割の回答でしたから、1割ほど増えていることになります。
また、「精神障害者」という言葉については95%の人が知っており、約8割の人が自分も精神障害になるかもしれないと考え、55%の人が作業所の存在を知っていました。前回は、精神障害者という言葉を知っていると答えたのが87%でしたから、わずかながら増えているともいえます。
年に1回のイベントではあるけれど、参加者、出店者、協力者、そして、何よりも主催する側の当事者たちに少しずつだが着実な影響を及ぼしつつあるのだといえましょう。
□くるしまフリーマーケットの特徴と今後
そもそもこのフリーマーケットでは、利益を上げることが目的ではないから、たとえば駐車場でも「いいものはありましたか」とか「また来年も来てくださいね」などと丁寧な対応ができ、結局は人が人を連れてくるようになってこれだけの規模になったのだろうと思われます。また、啓発だけを前面に押し出せば説教じみて楽しくないし、楽しくなければ人は決して集まらないとも考えられており、「楽しさ」を大切にしているのが特徴でもあります。
そうした基本的な姿勢があるからこそ、その中心となるメンバー自身が自分たちも楽しみながら、人々に楽しんでもらい、そうした様子を見ながら、やりがいや手ごたえを感じ、自信に満ちた表情を見せてくれ、さらにそうした表情を垣間見たスタッフがやる気を出し、それが実行委員にも伝わって……、おそらくは、くるしまフリーマーケットの雰囲気全体を作り上げて、多くの人々を誘い込むことになっているのだろうと思われます。
主催者の方によれば、今後は、より一層市民参加型のイベントにしていきたいとのことでした。多くの市民が参加することで、負担がどこかに偏ることなく、家族やメンバーたちがより楽しめる場をつくっていくことができ、結局、それによって一般の方々にも楽しんでいただけるのだろうと思われるからです。
あとは、ここまでのところは恵まれていたお天気だけが心配だとのことでした。