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5.精神障害への偏見の特徴
1)見えない精神障害
 精神障害者をカテゴリー化する際の困難さとは、端的にいって、精神障害が見えないということです。つまり私たちは、ある人を精神障害者としてカテゴリー化する手がかりをほとんどもっていないのです。これは、他の障害とも異なる特異な事情です。
 たとえば、日本において、精神障害者と呼ばれる人は200万人以上ですという情報が与えられたとき、驚く人はいますが、なるほどと納得する人はまずいません。200万人以上といえば、単純にいっても60人に一人ということですが、それほどの頻度で精神障害をかかえる方たちと出会ったり接しているという実感をもつ人などいないからです。たとえ、精神障害者の方たちとすれ違っていたり、すぐそばで暮らしていたりしても、その方が精神障害をかかえていることなどほとんど見えません。
 
2)精神科の利用と偏見
 だとすると、個人的に接触のあるプライベートな空間は別として、社会的なあるいは公共的な場で、ある人を精神障害者と判断する根拠は、その人が精神科に入院・通院している(していた)ということぐらいしかないことになります。もちろん、この根拠自体が間違っているというわけではありません。200万人以上という数字も、あるいは、マスコミの事件報道に付加される情報も、この根拠を用いているわけですから。ただ注意すべきは、その際に、「精神病院に入れてしまうぞ」といった脅しにさえ使われるような精神病院に対する否定的なイメージがぬぐいがたくつきまとってしまうということです。
 
3)事件報道と偏見
 しかし、精神医療を利用しているかどうかなどということは、ある人を見たところで基本的にはわかるはずのないことです。したがって、私たちは一般に、誰が、あるいは、どのような人が精神障害者というカテゴリーに入れられる人なのか原則としてはわかっていません。そのため、明らかに目立つ人、たとえば、事件報道やあるいは近所でのもめ事などを通じてしか精神障害者というカテゴリーの属性をイメージしていくことができないのです。
 
4)偏った情報による硬直化
 逆に、もし、精神障害をかかえる人たちがそれとしてわかるのであれば、そこにはさまざまな人たちがいて、自分たちと何ら変わりない人たちがほとんどを占めており、もちろん中には事件につながってしまう人もいるかもしれないけれど、それがいかに稀なことであるかということも実感できます。しかし、そうした手がかりをまったくと言っていいほど持っていないという事情があるからこそ、精神障害やそれをかかえる人たちに対する偏見は、歴史的な重みを背負いながら、偏った情報だけに基づいて狭められ、変化させるための新たな情報も得られないままに硬直化したものとなっているのです。
 
5)精神障害についての啓発活動
 繰り返しますが、偏見とは、無限に豊かな個別性を何らかのカテゴリーによって画一化してしまう暴力的な捉え方です。多彩な個性をもっている個人に対して、ただ精神障害をかかえているという属性だけを優先させ、他の属性を圧殺してしまうことがどれほど本人を傷つけるものであるかは想像に難くありません。したがって、啓発活動とは、精神障害者というカテゴリーを相対化し、覆い隠された豊かな個別性を少しずつ浮き彫りにしていく活動であるともいえるのです。
 では、こうした世代をも越えた重みを持つ偏見に対して、どのように揺さぶりをかければいいのでしょうか。そこで、本章の最後に、精神保健福祉啓発活動の方向性を見ておくことにしましょう。








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