「テロのジェネアビ業界への余波」 和泉 久
九月十一日、ニューヨークとワシントンDCで、同時多発テロが発生した。このテロにより、米国のジェネラル・アビェーション業界は大きな影響を受けている。
今回のテロ後、ニューヨークなどの都市では飛行制限エリアが設けられ、さらにテロの目標となりそうな都市から百マイル以内は、ジェネアビ機はフライトを自粛するよう勧告され、約三十都市ではVFRによる飛行が規制されている。また、ニューヨークのワールドトレードセンターとワシントンDCのペンタゴン周辺は、飛行禁止区域に指定され、ケネディ国際空港とDCA-VORから半径二十五マイルは飛行禁止となっている。
米国政府は二・七トン未満の軽飛行機によるVFR飛行では、二百八十ニカ所の空港での離発着を制限した。これにより四万千機の軽飛行機と、十二万人の自家用操縦士が影響を受けている、とAOPAでは表明している。
他方、思わぬ需要がでたのはコーポレート機だ。定期便が安全でないとなると、専用機での移動ならば安全ということで、コーポレート機が活用されているほか、ビジネスジェット機のチャータ運航を行っている航空会社には、思いもしなかった特需が発生している。あるコーポレート機チャータ会社では、九月十一日以降、通常の四倍ものフライト依頼があるという。
なお、九月十八日からニューオリンズで開催される予定だったNBAAショーは一旦中止が決定され、十二月十二日から十四日に改めてニューオリンズで開催されることとなった。
一方、大きな打撃を受けているのが、フライトスクールだ。テロ後は訓練フライトの需要が急速に減り、操縦インストラクターはエアラインのパイロットと同様にフライトがなくなり、窮地に追い込まれている。すでにフライトスクールを休業している業者なども多く、数千名ものパイロットが職を離れている、との報道もある。ある予測では、二千五百カ所のフライトスクールが影響を受けており、損失はテロ後二週間だけでも、総額二億四千五百万ドルに達するという。GAMAでは、現在でも一日当たり千五百万ドルの損失が出ている、としている。また、AOPA及びNBAAは、ジェネアビ業界全体の損失は、二週間で五億ドルを上回るだろうとみている。
AOPAなどの団体では、米国政府ヘフライトスクール等への緊急支援などの対策を行うよう運動している。
さらに今回のテロでは、フライト訓練自体の規制も行われそうだ。現在、米国では一九九〇年代と比べて、約二倍の人たちがフライト訓練を行っており、新規にトレーニングを開始する人たちが、今年9月までに年間二万八千名となり、昨年を上回っている。これは、ジェネアビ業界が行っているキャンペーンも効果を発揮しているためだ。しかし、今後は何らかの規制が必要とする声が強い。
さらに、テロと不況のダブルパンチにより、軽飛行機の販売も今年後半はダウンするものと予測されている。
ニューパイパーでは、当初、今年は五百三十八機の製造を計画していたが、最近発表した計画によれば九十機を減産、四百四十八機にするとした。また、来年は四百機まで減らす予定だ。同社では、テロ後、従業員の一七%となる二百五十名をレイオフしている。また、セスナは単発機製造ラインの従業員を今年初めから既にレイオフを始めているほか、ムー二ーでは資金繰りが苦しくなり、窮地に陥っている、という。
なお、米国のジェネアビ機製造会社全体では、九月末の週から千名以上の従業員がレイオフや自宅待機となっている。
米国では、今年になってから景気が後退しており、今回のテロがジェネアビ業界に追い討ちをかけている。