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「E・M・T」
Emergency Maneuver Training
Rich StowellのEMT (Emergency Maneuver Training) No.8
鐘尾 みや子
第3章 ロール、ヨー、ピッチ(その3) 【2次ヨー】
 
エルロン操作によるもの:
 
 エルロンを操作するとその部分の迎え角は変化し、相対風に影響を及ぼします。その結果、「アドバースヨー」と呼ばれる2次ヨーが生じます。
 例えば左エルロンを操作すると右翼のエルロン部分の迎え角は増え、左翼に比べ多くの揚力と抗力が生じます。この揚力の差により左ロールが生じ、一方抗力は右方向へのヨーを起こします。ロールにより左右の翼は上向きあるいは下向きに動き、その結果、動く方向とは反対に作用する小さな相対風を受けることになり、それぞれの翼には進行方向からの相対風に加えロールに伴う相対風が複合された、新たな相対風が作用するようになります。
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左ロールに伴う影響
 ここで、合成された新しい相対風に垂直に働く新しい揚力の方向を描いてみましょう。左翼に働く新しい揚力の方向は少し前方に傾きますが、右翼では少し後方に傾きます。これらの揚力の方向を水平、垂直の成分に分解すると、水平方向に働く揚力成分が互いに反対方向を指していることがわかります。これらの成分が同時に左翼を前方に、右翼を後方に動かすので、アドバースヨーが生じるのです。
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アドバースヨーに伴って働く揚力の要素
 揚力の水平方向の成分が主としてアドバースヨーの要因になります。エルロンの動きは大きな2次ヨーを生むことがあります。右方向へのアドバースヨーをキャンセルするため、左エルロン操作をするときは左ラダーが必要となり、同じように右エルロンの操作には右ラダーを踏んで左方向へのアドバースヨーをキャンセルします。エルロン操作には常にラダーを同調させなければなりません。
 
エレベーター操作によるもの:
 
 エレベーターを操作すると、回転するプロペラのジャイロ運動による2次ヨーが生じます。プロペラによるジャイロ運動とは、「2次ピッチ」の項でも述べたように、回転するプロペラがその回転の幾何学的平面内での変化に対して抵抗を示すことにより発生するもので、加えられた力と同じ方向で、かつ回転方向に90°進んだ位置に現れます。
 例えばエレベーターを押して下向きのピッチを生じさせると、操縦席から見てプロペラの回転面の上端を前に押すことになり、ジャイロ運動によりその力はそこから90°時計回りに進んだ位置、すなわちプロペラ回転面の右端を押す力となって現れます。これは左のヨーを発生させることを意味します。また、エレベーターを引いて上向きのピッチを生じさせると、操縦席から見てプロペラの回転面の上端を手前に引くことになり、ジャイロ運動によりその力はそこから90°時計回りに進んだ位置、すなわちプロペラ回転面の右端を手前に引く力となって現れます。これは右のヨーを発生させることを意味します。
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縦方向の変化が及ぼすヨーへの影響
トルクによるもの:
 
 「2次ロール」の項でも述べましたが、トルクは回転するプロペラに対する同量の反作用です。通常地上で発生する2次ヨーは2次ロールの結果起こるものです。例えば操縦席から見て時計回りに回転しているプロペラをもつ飛行機で、離陸滑走中に急激にスロットル開くと、機体の滑走方向を左に変えるのに十分なくらいの重量を左車輌に加えるようなロールが瞬間的に発生し、これを打ち消すために右ラダーを踏まなくてはなりません。
 
螺旋状のプロペラ後流によるもの:
 
 操縦席から見て時計回りに回転するプロペラは、その後方に時計回りのプロペラ後流を作ります。この後流は胴体に沿って渦巻き、垂直尾翼の左側に当たり、機首を左に向けるヨーを起こします。再度右ラダーを使って修正します。プロペラ後流による影響は、パワー設定が高く速度が低いときに大きく現れます。








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