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「E・M・T」
Emergency Maneuver Training
Rich Stowell のEMT (Emergency Maneuver Training) No.7
鐘尾 みや子
 
第3章ロール、ヨー、ピッチ(その2)
 ロール、ヨー、ピッチの動きは、それぞれエルロン、ラダー、エレベーターを動かすことにより生まれる、ということは容易に理解できます。しかしそれ以外にも、他の舵を動かすこと、あるいはプロペラが回転していることに起因して、2次的にロール、ヨー、ピッチの動きが生まれているのですが、これらについてはあまりよく理解されていないようです。
 エルロン、ラダー、エレベーターの操作によって、異常姿勢を防止することができますが、反面、誤った操作の組合せは異常姿勢を作り出すことにもなります。そのため、私たちは2次的に生み出されるロール、ヨー、ピッチの動きについても良く理解し、それに対応した正しい操作をしなければならないのです。
 そこで、2次的に生み出されるロール、ヨー、ピッチについて以下にまとめてみます。
 
【2次ロール】
ラダー操作によるもの
 ラダーを操作して機体にヨーを加えると、ラダーの操作方向と同方向にロールします。例えば、左ラダーを踏み込むと右翼が相対風に向かって前進し、左翼が相対風から後退するため、左右の翼から生まれる揚力が変化します。つまり右翼の揚力が増加する一方で左翼の揚力が減少するので、この左右の揚力の不均衡が左方向へのロールとなるのです。
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図3−5 ヨーにより発生する2次ロール効果
 
パワーの左右非対称によるもの:
 双発機の左右不均衡なパワーも、ロールを発生させます。より多くの推力を出すエンジンが、ラダー操作をしたときと同じように機体にヨーを発生させるため、より少ないエンジンの方向へのロールとなるのです。
 
トルクによるもの:
 トルクとは、回転するプロペラに対する同量の反作用のことです。単発機の操縦席から見ると、プロペラは時計回りに回転しているので、トルクは機体を反時計回りに回転させようとします。反作用の大きさは機体に比較してのプロペラの大きさ、その回転速度、そしてエンジンの馬力により決まります。多くの軽飛行機では、トルクに起因するロールが主翼の打ち消し効果を上回ることはありません。さもなければ、右エルロンによる修正が必要になります。
 
【2次ピッチ】
ラダー操作によるもの:
 ラダーを操作して機体にヨーを加えると、ロールが発生するだけでなく、回転するプロペラによるジャイロ運動により、ピッチも変化します。プロペラによるジャイロ運動とは、回転するプロペラがその回転の幾何学的平面内での変化に対して抵抗を示すことにより発生するもので、加えられた力と同じ方向で、かつ回転方向に90°進んだ位置に現れます。
 例えば、右ラダーを操作して右のヨーを発生させると、操縦席から見てプロペラの回転面の右端を手前に引くことになり、ジャイロ運動によりその力はそこから90°時計回りに進んだ方向、すなわち回転面の下端を引く力となって現れます。これはピッチを下げる運動を意味しています。また、左ラダーを操作して左のヨーを発生させると、操縦席から見てプロペラの回転面の右端を向こうに押すことになり、ジャイロ運動によりその力はそこから90°時計回りに進んだ方向、すなわち回転面の下端を押す力となって現れます。これはピッチを上げる運動を意味しています一
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図3−13 ヨーに伴うピッチ変化
 
パワーの変化によるもの:
 大きなパワーと低速の時ほど、パワー変化のピッチに与える影響は顕著です。単発エンジンでプロペラが機首にある機体は、パワーを増加すると水平尾翼への吹き下ろしが増大するため、水平尾翼の負の揚力が大きくなってピッチが上がり、逆にパワーを減少させると水平尾翼の負の揚力が小さくなってピッチが下がります。
 
フラップ位置の変化によるもの:
 一般に、低翼機はフラップを下げればピッチが下がり、上げればピッチが上がる傾向を示し、また高翼機はフラップを下げればピッチが上がり、上げればピッチが下がる傾向を示し、ピッチの変化量は、速度とフラップの角度により決まります。例えば、速度Vfeの時に急にフルフラップにすると、Vfe以下で徐々にフラップを下げるより強いピッチ変化を受けます。
(以下次号)








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