日本財団 図書館


6. 最近の日本海における海水循環形態の変化
 図5には,もう一つ重要な情報が含まれている.水深が700〜2000mの範囲については,この14年間にトリチウム濃度が明らかに増加していることである.すなわち,この水深の範囲では表層水の供給があったことを示している.
 このことは,溶存酸素や栄養塩の濃度分布にも現れている.図6は,測点CM10,12,18,および20における溶存酸素,ケイ酸塩,リン酸塩,および硝酸塩の濃度分布を重ねて示したものである.水深1,000m付近をピークとして600〜2,000mの範囲に,酸素の極大および各栄養塩の極小が認められる(測点CM18において最も顕著).酸素が多く栄養塩に乏しいのは表層水の性質であるので,これらのピークはどこかで沈み込んだ表層水がこの深度に貫入したことを示している.
(拡大画面: 102 KB)
z1026_01.jpg
図6 図2の4測点における(a)溶存酸素,(b)ケイ酸塩,(c)リン酸塩,および(d)硝酸塩の鉛直分布(Gamo et al., 2001).
 このような底層には届かない表層水の貫入は,ごく最近のデータのみ顕著に認められる.図7は,測点CM18における溶存酸素と各栄養塩の濃度分布を, 1984年と1998年とで比較したものである.水深1,000m付近のピークが,1984年にはほとんど存在しなかったことがわかる.
 以上述べたような化学トレーサーの濃度分布の経年変動は,現在の日本海における深層循環(ベルトコンベアー)の形態が変わりつつあることを示唆している.
(拡大画面: 69 KB)
z1027_01.jpg
図7 東部日本海盆(測点CM18)における溶存酸素,ケイ酸塩,リン酸塩,および硝酸塩の鉛直分布を1984年と1998年とで比較したもの(Gamo et al., 2001).
 
図8 (a)は日本海における通常の深層循環のイメージを示したものである(Mode-A).日本海北西部において冬季に冷却され密度の増加した海水が海底に向かって沈み込む.十分に密度の大きい海水は海底直上まで降下し,底層水に酸素を補給する.一方図8(b)は,現在の日本海における深層循環のイメージである(Mode-B).底層まで達するほど密度の高い表面水がほとんど形成されず,ベルトコンベアーが全体的に上方ヘシフトしている.水深2,500m以深の底層水はベルトコンベアーから切り離され,酸素濃度は減少の一途をたどっている.
z1028_01.jpg
図8 日本海における深層循環の模式図(Gamo et al., 2001).
(a)は高密度水形成機構が正常に作動し,ベルトコンベアーが底層水まで十分に到達している場合(Mode-A),また(b)は十分に高密度の表面水が形成されず、ベルトコンベアーが上方にシフトし,底層水が停滞している状態(Mode-B).








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION