「亜極前線以北の海洋構造」
亜極前線以北の海洋構造もかなりわかってきた。132d°E辺りには北西から南東方向に走る温度前線(北西前線と呼ぶ)があり、この前線の東側の東部日本海盆上には日本海の海洋循環の一つの要である大きな反時計回りの循環が存在し、西側には時計回りの循環が冬季には形成される。この東西の反時計回り、時計回りの循環及びその境界である北西前線の形成維持には前述の風のcurlのdipoleが大きく関与している。すなわち、風のcurlのdipoleの正の渦は亜極前線以北の大きな反時計回りの循環を強化し、負の渦は北西前線の西側の時計回りの循環を引き起こし、その境界には北西前線を形成する。因みに西側の時計回りの循環の発達は前述のARGOSブイの冬季の反転北上の原因となっている
東部日本海盆上の大きな反時計回りの循環はワシントン大学のRiser教授によって1999年夏に大量(36個)に投入された中層ブイ(PALCE)による計測によって確認されているが、この大きな反時計回りの循環の水塊構造は非常に興味深いものがある。図4に1993年夏のCREAMSの観測航海での観測線A、C、D沿いの塩分の鉛直断面が示される。40°N付近に高塩分の対馬暖流系水と低塩分の亜寒帯系水との境界である亜極前線が存在するがその亜極前線辺りの亜表層に低塩分のコアが見られ、その北側には逆に高塩分のコアが見られる。ここでは示されていないが、高塩分コアの北側のロシア沿岸には低塩分水があり、いわゆるサンドイッチ構造が観測される。これは亜極前線北側の大きな反時計回りの循環の内部は高塩でその縁は低塩分水によって占められていることを示しているが、ロシア沿岸の低塩分水はこの反時計回りの循環の縁を前述の北西前線を経て亜種前線付近まで移流されてきているのである。
図4. 1993年8月のCREAMSの航海での観測線A、C、D線沿いの塩分の鉛直断面.