「ARGOSブイの奇妙な振る舞い」
表層海流系の中で特に北朝鮮沿岸の流れが奇妙な振る舞いをし、それが沿岸付近の山岳地形と深い関わりがあることがわかってきた。1993年夏のCREAMS (Circulation Research of the Asian Marginal Seas、日、韓、露による日本海研究のための国際共同研究)の観測航海で沿海州沿岸に投入されたARGOSブイは予想通りリマン・北朝鮮寒流に乗って順調にロシア及び北朝鮮沿岸を南下し、11月初めには40°N付近の北朝鮮沿岸にまで到達したが、その後反転北上し12月初めには北朝鮮とロシアとの国境付近に到達した後、時計回りの循環に巻き込まれるように離岸した(図2)。北西の季節風は東西の山脈の間にあるウラジオストク付近の谷によって収束し、日本海にジェット流の形で吹き出す。このジェット流はその両側に風の正負のcurl (curlのdipole)を伴うことになる(図3)。上述の奇妙なARGOSブイの軌跡は、ジェット流の西側の負の風のcurlによるものであった。この負のcurlは10月末頃から発達し、翌年の3月初めまで維持されるが、その間、時計回りの循環を北朝鮮沖に引き起こすことによって、北朝鮮沿岸に北上流を出現させることになる。この北上流がARGOSブイの突然の反転北上の原因なのである。
図2. 1993年7月にロシア沿岸に投入されたARGOSブイの軌跡.
図3. ECMWFの風(1992年〜1997年)のcurlの冬季(11月〜2月)の平均.