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[3]硫化物、酸化還元電位(ORP)
 底泥の硫化物及び酸化還元電位とヨシ茎個体数密度との関係を図4.2.20に、それらの個別ヨシ存在コドラート数の頻度分布を図4.2.21に示す。
 
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図4.2.20 底質分析値とヨシ茎個体数密度の関係
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図4.2.21 底質値別ヨシ存在コドラート数
 両指標のうち、前節の1元配置分散分析でヨシ生育指標と有意な関係を示したのは酸化還元電位であった(草丈に対して5%有意)。
 ヨシ密度との関係における硫化物の分布は上述の強熱減量や全窒素の分布にやや似ており、硫化物の値の高い領域のデータもわずかに存在するが、大半は硫化物の値の低い領域に集まっている。ただ、ヨシ密度の高いデータは、硫化物の値の低い領域にその多くが分布するものの、硫化物の値の高い領域にも散在している。データのばらつきを生じさせているのもこのような密度の高いデータであり、これにより分布の傾向がややつかみにくくなっている。
 ヨシ存在コドラート数は硫化物0〜0.05mg/g・dryの範囲が最も多く、約半数(17/32)のデータが集中している。分布傾向から、硫化物の値が多少高くても一部に密度の高いヨシの生育があるものの、全般的に見れば現状で大半のヨシの生育環境条件となっている硫化物の値は概ね。0.10mg/g・dry以下である。
 酸化還元電位は、ヨシ密度との関係におけるデータのばらつきが大きいが、全体的にはプラス側(好気寄り)のデータが多い。マイナス側(嫌気寄り)に分布するデータのうち5つはヨシ密度の高いグループのデータであるが、このうち4つはマイナスといっても概ね−50mV前後までの領域にある。明確な傾向ではないが、全体的には電位が高くなるにつれヨシ密度が低下しているように見える。
 ただ、ヨシ存在コドラート数の頻度分布を見ると、プラス側の領域におけるコドラート数に電位の違いによる偏りは特に認められない。
 酸化還元電位は、底泥が好気的傾向にあるか嫌気的傾向にあるかを表す指標であるため、冠水の有無も値に影響する要因の一つであることを考え得る。時期により陸化するか常時湛水かによって底泥への酸素供給の度合いが異なり、底泥中の化学反応の活性にも違いを生じると考えられるからである。
 このような観点から、次に地盤高と酸化還元電位の関係を調べた。図4.2.22にその散布図を示す。
 
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図4.2.22 地盤高と酸化還元電位(ORP)の関係
 図によれば地盤高が高くなるにつれて電位が上昇しており、両者の間に正の相関が認められる。地盤高がB.S.L.−80cm以深の領域、あるいはB.S.L.−60cm以深でかつ酸化還元電位が−100mVよりも低い領域には、ヨシが生育しないか、生育しても密度の低いものしか見られない。
 地盤高・酸化還元電位ともにマイナスの領域では、B.S.L.−30〜−70cmに密度の高いヨシが分布している。すなわち、多少酸化還元電位がマイナスの領域でも水深(B.S.L.−)50cm前後のところではヨシは良好に生育し得ると考えられる。
 一方、酸化還元電位がプラスの領域では、地盤高が高いほど電位が上昇する傾向が明確に表れている。琵琶湖水位の変動によって陸化の影響を受ける度合いの違いによるものと推察される。このうち、地盤高がB.S.L.±20cmの範囲のデータは、背が高くて密度の低い(高少)ヨシが多い。また、地盤高がB.S.L.−40〜−60cmでかつ酸化還元電位がプラスの領域に見られるのはいずれも密度の高いヨシ(高多、低多)であり、これより深い水深の場所では例え酸化還元電位がプラスであってもヨシの生育は見られないか、生育しても密度が低下する傾向にある。
 以上のことから、酸化還元電位とヨシ生育との関わりについては、結論的に次のようなことが整理される。
◇陸域境界付近にあたるB.S.L.±20cm程度の地盤高の領域は、底泥が好気的傾向であっても密度の低いヨシとなる可能性が高い。
◇現状でヨシが最も良好に生育しているのは、地盤高がB.S.L.−30〜−70cmで、かつ酸化還元電位が−50〜+250mV程度の領域である。
◇これよりも地盤高が高く酸化還元電位も高い領域では、草丈は高いが密度の低いヨシとなる可能性が高い。他の影響要因(例えば他の水生植物との混生・陸域植物の進入など)とのバランスが微妙に関わっているものと思われる。








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