(6)植生との関係
次に、各コドラートでヨシとの混生の見られたヨシ以外の植物(混生植物)と、ヨシの生育との関連性について見てみる。
図4.2.23はコドラート内の出現種数とそのコドラート内のヨシ茎個体数密度の関係を全出現種の場合と被度2以上を占める植物種の場合の2ケースについて示したもの、図4.2.24はそれぞれのケースごとにその出現種数の頻度(ヨシ存在コドラート数)を表したものである。
図4.2.23 混生植物出現種数とヨシ密度の関係
図4.2.24 混生植物出現種数別コドラート数
混生植物の出現種数とヨシ密度の関係についてみると、出現種数の少ないコドラートでもヨシ密度の低いものは多数存在し、必ずしも一定の相関関係にあるとは言えないが、少なくともヨシ密度の上限値は出現種数の増加に伴い低下し、出現種数が多くなるにつれてヨシ密度の低い側に分布が偏る傾向が見られる。この傾向は全植物種の場合も被度2以上の植物種の場合も同様であるが、後者は前者と比べ出現種数の少ない側に分布がシフトする形となっている。
出現種数別のコドラート数では、全植物種対象の場合、全体の約6割(90/142)が混生植物の種数0〜1種が占めるが、被度2以上の植物に絞るとその割合はさらに増加し約8割(114/142)に上る。
このことから、ヨシと混生する他植物の種数と被度は、ヨシの生育密度に少なからず関わりを有していることがうかがえる。
そこで、出現種数と被度の複合要素として、コドラートごとに全出現種の被度の合計値を求め、これとヨシ茎個体数密度との関係及び被度合計値別の頻度(ヨシ存在コドラート数)を調べた。
なお、この被度算出にあたり、「被度+」は「0.5」として扱った。また、本調査ではコドラート内の優占群落の高さの層が高・低大きく2層に区分できる場合には現地で「草本第1層」と「草本第2層」に分けて記録している。このため、群落高の異なる複数の優占種が見られた場合、被度の合計値が「5」を上回るケースもあることに留意する必要がある。
散布図とコドラート頻度図をそれぞれ図4.2.25及び図4.2.26に示す。
図4.2.25 混生植物被度合計値とヨシ密度の関係
図4.2.26 混生植物被度合計値別コドラート数
これによると、被度とヨシ密度の関係を表す分布は、傾向的には前出の出現種数とヨシ密度の関係を表す分布に類似するものの、比較的被度の高い領域までデータが分散しており、被度の増加とともにヨシ密度の上限値が低下する傾向も前出の出現種数の場合ほど明瞭でない。被度合計値が9〜10であっても比較的高密度のヨシ(「高多」等)が見られる。
この不明瞭な傾向は被度合計値の頻度図にも表れており、被度0〜1に全コドラートの3割強(48/142)が集まっているものの、被度1以上では、その値が上がるにつれてコドラート数が少なくなるという傾向は明らかではない。
被度合計が9以上で密度の高いグループ(高多、低多)に分類されるデータを抽出すると表4.2.3のとおりである。この表を見るといずれも5〜6種という比較的多種が出現し、かつ、アゼナ、アメリカセンダングサ、チクゴスズメノヒエのように被度3の植物が生育しているにもかかわらず、少なくともこの3コドラートではヨシが密度高く生育できている。すなわち、このことはヨシの生育、とりわけ密度に影響を及ぼす要因は、必ずしも単に混生植物の種数と被度のみではないことを示すと思われる。これには各種の環境への要求要因の違い、例えば発芽時や生育時の光要性や種子散布形態、土壌の状態などが関わっている可能性などが考えられるが、このようなニッチェ(生態的地位)の違いにまで深く言及できるようなデータは、今回の調査では得られていない。
表4.2.3 混生植物被度合計値が9以上でヨシ密度の高いコドラート
小分類 |
コドラート |
コドラート内混生植物 |
高細多 |
E-3(12.0m)
地盤高B.S.L.-10cm
ヨシ密度 72本/m2 |
被度3 |
アゼナ |
6種
被度計9.5 |
被度2 |
アメリカセンダングサ、ヒレタゴボウ |
被度1 |
アゼムシロ、ヒメジオン |
被度+ |
キシュウスズメノヒエ |
高細多 |
E-2(7.2m)
地盤高B.S.L.-20cm
ヨシ密度66本/m2 |
被度3 |
アゼナ、アメリカセンダングサ |
6種
被度計9.0 |
被度1 |
イヌゴマ、メヒシバ |
被度+ |
キシュウスズメノヒエ、チドメグサ |
低太多 |
D-3(19.9m)
地盤高B.S.L.-40cm
ヨシ密度66本/m2 |
被度3 |
チクゴスズメノヒエ |
5種
被度計9.0 |
被度2 |
ウキヤガラ、シロバナサクラタデ、マコモ |
被度+ |
ナンキンハゼ |